二度と行けないあの店で:私の場合
敬愛する都築響一の最近の名著に「二度と行けないあの店で」がある。
まさに今日ふいに思い出した、あの時の店を書き留めておこう。
総持寺のあの店で
私はさかのぼれば一人暮らしを17歳から始めていた。
家庭の事情で実家の最寄駅から2つ行った先の女子寮に住んでいた。
遠い高校に通っていたのでその事情は友人たちに知られることもなく
それはひっそりと、専門学校生のお姉さんたちがわらわら住むそこに
これまた私服の学校だったのでそんなに目立つこともなく暮らしていた。
朝と晩は寮母さんがつくるそこそこにおいしいご飯を食べ、
片道1.5時間かけ高校に通い、
帰宅部の友人とうだうだいいながら繁華街やゲーセンで遊び、帰る。
今思えば、特段しんどいこともときめくことも思い入れもない、普通の生活。
土日は昼ごはんの用意が必要で、バイトもしてなかった私は
お小遣いの範囲でそれなりの買い食いをしていた。
近くのスーパーには安いお惣菜がたくさん並んでて
300円もかけずにご飯は食べられた。
でもたまにはやっぱりあったかいご飯がいいな~と思って、
すぐ近所のこじんまりしたBarへ食べに行くことがあった。
「日替わりランチ:ハンバーグ500円」
のメニュー表は私が見ていた限り、一度も変わったことはない。
もしかしたら、土曜は固定のハンバーグだったのかな。
人の好さそうなおじさんが、昼下がり高校野球をテレビで静かに流すBar。
この人はほんとにBarのオーナーなんだろうかと思うほど優しくて物静かで、明らかにさして年齢のいかないJKが
一人で土曜のランチをしてることを詮索することもなく
足の裏ぐらいあるんじゃなかろうかという大きさのハンバーグを
たったワンコインで出してくれた。
ずいぶんと通ったような気がするけど、
そのすべての回で開けた扉から見えた空も木々も青々としてたから
時期としては夏前後、それももしかすると
高校の卒業までたった2~3回だったかもしれない。
最後のほうは受験に向けて土日はずっと塾にいたから
ふいに行かなくなって
それこそ最後の挨拶なんて特にもせずに
すぐ東京に来てしまった。だから店の名前も場所もわからない。
でも私の精神衛生を保ってくれた
あの時のでかハンバーグ、また食べたいなと思う。
無粋ですが、ふいに
最近のGooglemapときたら、
過去のストビューデータをオープンにしてくれてしまって。
あの店の場所と名前がわかってしまった。
2010年にはまだ生き生きとしていたその長屋店舗街は
たったその4年後にお店がぱたぱたと閉まりはじめ、
2015年にはその店も閉まってしまったようだった。
慣れない口調で書き込んだブログもTwitterもほんの少しでやめている。
今は駐車場になったあと、貸しガレージになっている。
そんなに劇的なことは起きなかったけど、
あのおじちゃん、今も平和に暮らしていたらいいな、と思う。