山登りに必要な装備とその理由~レインウェア編~
このシリーズでは、登山時に必要な装備を、1つの記事につき1つ取り上げ、山登り初心者だった頃の自分の経験や失敗を振り返りながら、”その装備がなぜ必要なのか”を書かせて頂きたいと思います。
今回のテーマは『レインウェア』です。
レインウェアの役割は身体を冷えから守ること
なぜ、登山にレインウェアが必要なのか。
それは、当然「身体を雨などの濡れを守ること」なのですが、そこだけ聞くと登山経験がない人は、”夏なら気温高いし、多少濡れてもいいのでは?”と思ってしまうかもしれません。
大事なのは、レインウェアには濡れから身を守るという目的とは別に、"体温の保持"というもう一つの目的があるということなのです。
極論すると、濡れるだけなら死ぬことはありませんが、濡れた状態で体温が逃げていく一方だったら、低体温症になり、死に至ります。
これを防ぐための、身体を冷やさないレインウェアの機能として重要なのが、「水を遮る防水性」「風を遮る防風性」「湿気を放出する透湿性」であると言えます。
濡れることより、濡れた状態で体温が奪われることが問題
身体が濡れた場合、体温を奪われるスピードは、乾いている状態の約25倍と言われます。その上、登山は標高が高い所に登るので気温は下がりますし、稜線に出れば風が強くなる。
そんな環境で、濡れたままの状態の身体、ウェアで居続けたら、身体を冷やし、低体温症になる可能性が高まります。
低体温症になると、思うように身体が動かなくなり、行動できなくなります。自力では下山できなくなり、運が良ければ誰かに助けを求めることができることができるかもしれませんが、運が悪ければ遭難、命を落とします。
晴れているからレインウェアは要らないという間違い
よく「晴れの日にか登山しないからレインウェアは必要ない」という言葉を聞くことがありますが、これは間違いです。
理由としては、”山の天気が変わりやすいから急に雨が降る”だったり、”遭難して山で一晩過ごす可能性もあるからその備え”ということももちろんありますが、今回は、それ以外の理由をご説明します。
登山中は、汗を掻きます。これは夏だけでなく、涼しい春秋、真冬でも汗を掻かずに登ることはまずありません。
そして、たくさん汗を掻いたら、ウェアは濡れます。雨が降っていなくても、びしょ濡れになっているでしょう。
この状態で、風の強い稜線に出ると、一気に汗が引き、濡れたウェアが風に吹かれ、どんどん体温を奪っていきます。
雨だけでなく、自分が掻いた汗でもウェアは濡れ、低体温症リスクが高まるということです。この現象を汗冷えと言います。
ここで、レインウェアを持っていれば、風を遮ることができ、汗冷えによる体温の低下を防ぐことができるのです。
(※汗冷えに関しては、ウェアが綿素材でない事が絶対条件になりますが、これは次回以降で詳しく書きたいと思います。)
ゴアテックスは防水透湿性素材の王様
登山は汗を掻くものだとは言いましたが、安全に快適に登山をするポイントとして、できるだけ汗を掻かないように、ウェアのレイヤリングをコントロールすることが重要です。
例えば、肌寒い時期などの登り始めは、少し寒くてもジャケットを一枚脱いで、できるだけ発汗しないように、着るもので調節しながら登ることがあります。
とはいえ、雨が降っていたら、レインウェアを脱ぐわけにはいきません。レインウェアを着っぱなしで登ると、余計に汗を搔いてしまいます。
この、レインウェアを着た状態でも、汗によるウェア濡れを極力抑えるために、登山用のレインウェアには、防水透湿性素材が使われます。
防水透湿性素材とは、ウェア外からの水は内側に入れない(防水)、かつ、ウェア内の湿気は外に放出する(透湿)素材のことです。
この素材で現状一番優れている素材が、ゴアテックスです。
ゴアテックスは、ゴア社が開発している防水透湿性能を持つフィルムのことですが、極薄のナイロン生地2枚の間にフィルムが1枚挟み込んであり、登山用レインウェアの生地は、この3層構造で作られていることが主流となっています。
ビニールカッパは透湿性ゼロ、登山には向かない
では、ゴアテックスなどの防水透湿性素材とは反対に、湿気を放出しない素材は何か。それはビニールです。
コンビニやホームセンターなどに置かれているビニールカッパは、防水性100%ですが、透湿性は0%です。
もし、ビニールカッパの上下を着てランニングしたら、自分の汗でカッパ内部はびしょびしょになりますよね?
先にも書いたように、いくら外からの雨を防ぐことができても、自分の汗でびしょ濡れになれば、同じ”濡れ”です。
濡れたウェアを着続けると身体が冷えてしまう上、透湿性がないビニールカッパを着続けていると、ウェアはほとんど乾きません。
ちなみに、僕が生まれて初めてゴアテックスを着た感想は、フロントジッパーを全部閉めているのに“なぜか涼しい”という不思議な感覚でした。
これは、もちろん外からの風を通しているから涼しいと感じた訳ではなく、内側の湿気が外に出ているからこその体感でした。
それまでの僕のカッパのイメージは、学生時代の自転車通学で着用していた、上下セパレートのビニールカッパでしたので、初めてのゴアテックスウェアの涼しい感覚に感動したのを覚えています。
登山に適したレインウェアはどんなものか
では、上記を踏まえて、登山にはどんなレインウェアが適しているのか。
基本は、1着目なのであれば、防水透湿性素材(ゴアテックスなど)で、上下セパレート型のものを選ぶと良いです。
各アウトドア用品メーカーが作っているレインウェアの定番モデルを選んでおけば間違いないかと思います。※ポンチョは中上級者向け、2着目以降の選択肢としてください。
もう一つ気にするポイントを挙げるとするなら、”生地の厚み”です。自分の登山、遊び方のスタイルを考えて、安心できる生地厚の製品を選ぶと良いです。
例えば、極薄の生地で作られているものは、コンパクトになって収納時に便利だけど、ちょっと岩や枝に引っ掛けてしまうと破れてしまう恐れもある。
逆に、分厚い生地で作られているものは、破れには強いですが、コンパクト性に欠けます。
関連する話ですが、たまにレインウェアと間違われるものに、同じ防水透湿性素材のウェアでアルパインウェアというものがありますが、これは雪山などよりハードな場面で使うウェアとして作られています。
生地が余計に頑丈だったり、ウィンドスカートが着いていたり、フードがヘルメットの上から被れるように大きく作ってあったりするものです。
これは、一般的な無雪期登山に向けて1着目として購入するには、オーバースペックですので、わざわざこれを選択する必要は無いと思います。値段も張ります。
レインウェアに限らずですが、”自分がどんな遊び方をしたいか”が、ある程度決まった状態で、商品探しを進めていくと、選択肢が絞られてきて、選ぶのも楽しくなってくると思います。
レインウェアはもしもの時に命を守るウェア
始めから雨が降っている山に、レインウェアなど雨対策をせずに登り始める人は、ほどんどいないと思います。
不意に雨が降ってきた時や、雨が降らなくても身体が冷えてしまいそうな時。登山中やアウトドアでの活動中は、事前には想定しきれない状況が起こり得ます。
そんな時に、レインウェアをザックの中からサッと出せるかどうか。
この時のために、レインウェアは雨天時に限らず、天気が良かったとしても、必ず携帯しておくのが鉄則なのです。
そしてこれは、登山に限らずキャンプ、旅行なんかでも、登山用レインウェアを荷物の中に忍ばせておくと、急な雨の時などにも活躍します。
傘と違い、両手が空きますし、きちんとサイズが合ったものを適切に着用していれば、そうそう身体まで雨が染み込んでくることもありません。
登山以外のアウトドアでも、『外で活動する時はレインウェア』と思ってよいほどに、野外活動では重要なウェアです。
(表紙写真:Yuya Nojiri)