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連載小説《Nagaki code》第28話─切ない恋心

 《前回のあらすじ》
 湊斗に誘われ、その日の夜にまた公園へ来た洋介。夜空の下で、湊斗と茉莉花はダンスを踊っていた。
 「学校にいるより、湊斗さんと踊ってる方が楽しいんだ!」と話す茉莉花の湊斗を見つめる視線に、洋介は何かを察していた。

 翌朝。仕事が休みだったので、僕はまた薬師岱公園へ来ていた。春のお花見の時から、なんだか最近よくここへ来ているような気がする。
 晃乃さんと雪乃さん、伊達さん、そして茉莉花ちゃんに出会った場所。公園というものは、人と人が出会い、繋がる場所なのかもしれない。
 
「あっ」
 僕は小さく声を上げる。誰かのことを考えていると、実際にその誰かに出会うものだ。僕の目線の先、神社の鳥居の階段に腰かけていたのは制服姿の茉莉花ちゃんだった。しかし、どこか浮かない顔をしている。
「茉莉花ちゃん」
 僕は思い切って声をかけた。
「あっ、長岐さん」
 茉莉花ちゃんは顔を上げた。気のせいだろうか、目が赤くなっているように見える。僕はその理由を安易に聞くことが出来なかった。
「また学校サボっちゃった。えへへ」
 頭を掻きながら、茉莉花ちゃんは笑う。どこか少しだけぎこちない笑顔。
「いいんじゃない。僕もサボりたくなることはよくあったよ」
 近くに立っている僕に、茉莉花ちゃんは「座って」と階段の隣を指す。僕は茉莉花ちゃんの約15センチ先に座った。
 
 しばらく、沈黙が続く。風だけが吹き抜けていく。
 
「私、学校に友達いないんだ」
 先に口を開いたのは茉莉花ちゃんだった。
 
「学校に行けばいつも独りぼっち。でもね、ここに来れば湊斗さんがいる。湊斗さんは、私のたったひとりの友達。……そう思ってたんだけど」
 茉莉花ちゃんは小さく溜め息をついた。
 
「私、湊斗さんのこと……好きになっちゃったみたいで」
 
 隣に座る茉莉花ちゃんは、赤く色づいた顔をうずめるように膝を抱えた。スカートの裾が捲り上がり、僕はそっと目を逸らす。
「でも、私、高校生だし。オトナの人と付き合うなんて早いし。それに、湊斗さんは私のこと、友達としか思ってない。きっと」
 そう言うと、茉莉花ちゃんは完全に膝に顔をうずめて縮こまった。
 
「……きっと」
 
 消え入りそうな声だった。自信を失った、あまりにも儚く弱々しい声だった。その小さな声に胸が締め付けられる。
 
 恋愛経験もない僕の言葉など、何の意味も成さないだろう。石垣に恋する女の子を、僕はどうやったら慰めることが出来るだろう。

 ──そうだ。僕は郵便配達員だ。

「気持ち、手紙にしてみない?」
 僕のその言葉に、茉莉花ちゃんは顔を上げて不思議そうな顔をした。
 
「人の気持ちなんて、聞いてみなきゃわかんないよ。自分の中だけでぐるぐる考えて自分を苦しめてるなんて、せっかくの茉莉花ちゃんの時間がもったいないよ。石垣が何と言おうと、まずは茉莉花ちゃんの気持ちを伝えてみようよ。直接言えないなら手紙にすればいい。僕が責任持って届けるから」
 
 自分でもびっくりしていた。口下手な自分が、誰かに向けてこんなに言葉をかけている。真剣に、茉莉花ちゃんに向けて、自分の言葉で。
 
 結果がどうこうじゃない。
 茉莉花ちゃんが自分の気持ちを押し殺して、誰も見ていないところで泣いているのが、僕にも苦しいのだ。
 大切にしている気持ちは、決して押し殺してはいけないんだ。
 
「長岐さん……」
 茉莉花ちゃんはひとつ息をつき、僕を見つめて言った。

「お願い、してもいいかな……?」

 その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

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