連載小説《Nagaki code》第5話─一期一会ってやつ
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照内さんの格好をよく見ると、確かに街でよく見る服装だ。手首の部分に赤いラインの入った大きめのジャンパー。よれよれのYシャツとジャケット。黒地に赤のラインが縦に1本入ったネクタイ。右腕には赤の腕章。
「君、うちにおいでよ。人手不足で困ってるんだ」
「へっ?」
唐突にそう言われ、僕は間抜けな声を出す。
「年末年始のアルバイトだよ。年賀状をひたすら区分けするだけ。それ、案内だから」
照内さんは、僕の持つ封筒を指差して言った。僕は封筒を見る。下の部分に赤いラインが引かれ、赤字で『郵便事業局』と書かれてある。
「じゃ、またな」
照内さんは、倒れていたひったくりの男の首根っこを掴んで立たせると、腰につけていた手錠を男にかけた。
「あのっ、ちょっと待ってください!」
そのまま男を連れて去っていこうとした照内さんを急いで呼び止める。照内さんは「ん?」と首だけこちらを振り向いた。
「なっ、何で僕なんですか!?」
「は?」
「もっといろんな人がいるのに、何で僕が……」
「ああ。このバイトの募集、毎年ランダムで郵送してんだよ。今年はたまたま君だった、ってわけ」
「今年は、たまたま……」
今年──今、この時、このタイミングで、たまたま……
「そう。だからこれも一期一会ってやつ?」
「一期、一会……」
そう言葉にすると、胸がじんわり温かくなるような感覚をおぼえた。
「ま、よろしくな。じゃ、俺仕事に戻るわ」
そう言って、照内さんは表通りまで歩いて行った。路地の向こうに、郵便のマークが付いた赤いバンが見える。後部座席に男を放り込み、颯爽と運転席に乗り込んだ照内さんは車を急発進させた。どこか危なっかしい運転だった。
「郵便、か……」
照内さんから手渡されたA4サイズの封筒を見つめ、呟く。身近すぎて、何とも思ってなかったけど、こうやって届けてくれる人がいるから成り立ってるんだよな。
僕が、人と人とを繋ぐ、架け橋になる──