秋田弁百合小説《ナギッシュ/ハーツ》2022.2.14.
《登場人物》
〖本城谷 凪(ほんじょうや・なぎ)〗
秋田弁ネイティヴの女子高生。
感情を表に出すことが少なく、独特な世界観を持っている。
あだ名は「なぎこ」。
〖土濃塚 航(とのづか・こう)〗
頼れる姉御肌の女子高生。
凪のクラスメイトであり、凪の恋人。
あだ名は「こーちゃん」。
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「また明日ね、なぎこ」
放課後の帰り道。別れ際、いつものようにその名を呼ぶ。
「さっと待で、こーちゃん」
(ちょっと待って、こーちゃん)
いつもは「へばね(またね)」と帰っていく凪が、私を引き留めた。
「どうしたのさ。見たいテレビ始まっちゃうよ」
急かし気味にそう言うと、凪は自分のバッグの中をゴソゴソとあさり始めた。
「何探してるの? また忘れ物?」
「違うでば。まんつ待ってれ」
(違うってば。まず待ってて)
無表情でバッグの中を探る凪。
そして、バッグから『それ』を取り出し、私の目の前に差し出した。
「……ける」
(……あげる)
短く、一言。
凪が片手で差し出したのは、リボンをかけた小さな箱だった。
ほんのり上目遣い。空いた片手で髪をいじる仕草は、いつも感情を表に出さない彼女なりの照れ隠しだろうか。
「お……おお、ありがと」
そんな凪を目の前にしてとっさに返事が出来ず、我ながら情けない程にどもりながら受け取る。
「へばね」
(またね)
そして凪は、いつものように去っていった。
私は、凪から受け取った小さな箱を見つめる。
「……めんけぇやづだな」
(……可愛いやつだな)
そう独りごちて、私はクスッと笑う。
凪の事を考えてる時、私も自然と訛っちゃうんだよな。
小さな箱を胸に抱いたまま、私は歩き出した。
真っ赤になった顔を隠すように、山の向こうへ夕日が沈んでいった。