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メキシコの魔法っぽい瞬間50

2023年の夏に20日ばかりメキシコに行き、はっとした瞬間が50回ぐらいはあった気がする。それを思いつくままに書いていこうと思う。

#1 耳をすます

飛行機の中が暗くなる。誰かの歯笛がずっときこえて素敵な気持ちになる。すでにここは外国だ。人の話し声、食べ物のいいにおい、お父さんのいいにおい。気圧の変化で赤ちゃんがえーんと泣くと、アヒルのおもちゃがぴっぴっぴっぴっと鳴る。やさしいおまわりさんが笛を吹いているみたいに。ぴっぴっぴっぴっぴっ。1万2000キロの高さで『エルビス』のかっこいい曲のところだけ3回見てウトウトしながら何か夢を見た。

#2 ねえもしかしてロマンチックな何か?

飛行機で隣の席になったディエゴさんはわざわざ翻訳アプリで「席を立ちたい時はいつでもお申し付けください」と表示してくれる。堅苦しい字面。きっと真面目な人だ。メキシコには一人旅ですか? そうです。でも友だちに会う予定です。すると彼は目を輝かせた。
「ねえもしかしてロマンチックな何か?」
いえ友だちです。そうか(残念そう)、でも友だちはいいよね。はい、友だちはいいですよね。
私の語学力だと原始人のような会話になるけれど、友だちはいいものだというのは人間の原初の感覚じゃない?

#3 ココかな

フライトを終え喫煙者の私にまず必要なのは煙草で「喫煙所はありますか?」と清掃の人に聞くと「ココかな」だって。そうなん?

タクシーの車窓から。メキシコシティ来ちゃった感。

#4 今日来た子は?

ソカロ(町の中央の広場)から宿は思ったより遠かった。迷って木陰に座る。振り向けば大聖堂。この裏だ。

メキシコは至るところに大聖堂

泊まったのはCasa Eufemia(カサ・エウフェミア)というホステル。2段ベッドがいくつもあるタイプのアレだ。いちばん安いプランで3泊700ペソ(5600円)。1階入り口の呼び鈴を鳴らし開けてもらうまで時間がかかったのは、エレベーターなしの6階だから。メキシコシティは標高が高いから頭痛にならないように気をつけてゆっくり登った。

「エウフェミア」というのは調べてみると聖女の名前で、拷問を受けても信仰を曲げずに殉教したそうだ。おお神よ。信仰心、試す必要あります?

荷物を置いてからすこし外出して部屋に戻ると、キッチンのほうから「今日来た子は?」という声がきこえた。到着したときドアを開けてくれたカミロの声だ。表情が読めなくて少し怖かったけど面倒見のいいやつみたいだ。
「部屋に戻っちゃったみたいよ」「出てこないかね」。
私は勇気を出してキッチンに行く。おみくじ付きハイチュウを握りしめて。
「よかったら、日本のお菓子、ためす? くじつき!」
ドキドキしながらハイチュウを握りしめて出かけるわたし、かわいいな。

#5 エンセンデールは火を着けること

素敵な屋上で、ここで働いているヴィクトリアと一緒に煙草を吸う。ヴィクトリアはテキサス出身。たぶん20代。美人顔でアクの強い笑顔。
東京から来たんだよね。人口何人?
1000万人ぐらい? 待って調べる。1390万人。
わお、すごいね、ここ(メキシコシティ)も多いけどね。世界の都市圏の人口だと2位。さて、1位はどこでしょう?
えーわかんない、インドか中国?
そーれーは、あなたの街だよ
まじか、家賃が高いわけだよ。

ほかにも経済の話をいろいろした。円安やばいとか、メキシコペソは壊滅的だったけど今は18ペソまで持ち直しててイイ感じ。政府の政策(米ドル規制)がうまくいってるってわけ。とか。ヴィクトリアは政治的関心も強い。そりゃそうが、自分の暮らしだもんね。わたしももっと気軽に政治や経済の話していいのかもな。

ねえライター貸して。ライターってスペイン語でなんていうの?
えーっと、ああ、エンセンデドール。エンセンデールは火を着けること。

ライターを渡してくれるヴィクトリアの顔は生命力が満ち満ちている。

素敵な屋上

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