「キャンディーちゃん」
好きなブランドがある。
Candy Stripperという名前のブランドだ。
急にスーパー痛いことを言うようだけど、
私は昔「キャンディーちゃん」と
呼ばれていたことがあった。
私が演劇を始めて、最初にもらった大きい役が
アイドルの「キャンディーちゃん」だった。
ストイックな体育会系ばかりの部だったから
そういう女役をやれる人がいなかっただけなんだけど
やっぱり花形っぽい役は嬉しかった。
当時私はなぜかバンドのマネージャーをやっていたんだけど
そこの人たちはそれに因んで、私を「キャンディーちゃん」と呼んだ。
Candy Stripperを知ったのは高校1年の時、
セブンティーンに馴染めずに
青文字系のCUTiEを読み出した頃だった。
「やば、キャンディーじゃん」
私は仮にもキャンディーであるわけだから、
ここのブランドの「Candy」ってでかでかと書いてあるセーターを着ずして
真のキャンディーにはなれないと本気で思った。
しかし当時の私のお小遣いは月500円である。
原宿の390マートで汚ねえパーカーを買うのが関の山だった私は、
お年玉を親に取られないようちょろまかして
1万円を手に渋谷のパルコへ向かった。
個人的には1万円あったら
城が建つだろ、みたいな金銭感覚だった私は
値札を見て絶望することになる。
「セーター、2万近くすんの…」
完全にキャンディーという概念に
お金で負けてしまった私は
その後高くても1万円の109ブランドで
とりあえずお茶を濁しながら学生時代を過ごした。
色黒の私は原色の服を好んで着ていたのだけど
気がついたらノームコアなんぞが流行りはじめ
見渡したら好きだったブランドはことごとく潰れてしまっていた。
「Candy Stripperって、まだあんのかな」
今年の頭、あまりにも着たい服がなくて
ふとネットで検索した。
Candy Stripperは何も変わらず、
よくわからないパンダが書いてあったり
やっぱりでかでかと「Candy」と書いてあるトレーナーを
何も変わらずに売っていた。
今の私なら2万のニットでも
「今月は外食控えるか」と思えばそこまでためらわずに買える。
私は28歳にしてようやく、16歳の私がなりたくてしょうがなかった
「キャンディーちゃん」になることができた。
今週、楽しみにしていた秋物の新作が出ると聞いていたのに
ばたついて全然買い物に行けなかった。
偶然表参道で打ち合わせがあったのをいいことに
明るいうちから普段は行かない原宿の店舗に寄った。
初めましての店員さんと軽く世間話をして、服を選んで
レジに持って行った時に
「このブランド、どこで知っていただいたんですか?」
と聞かれて、これまでのことを思い出した。
「いやあ、高校生の時欲しかったんだけど、高くて買えなくて。
割と大人になっちゃったから恥ずかしいですけど」
笑いながら答えたら、服をたたんでくれていた店員さんが言った。
「私も一緒です」
「ここにいらっしゃる方って、30歳前後の方すごく多くて。
私もそうなんですけど、
みんなCUTiEとかZipperでうちのブランドを知って
でも高いからアルバイトじゃなかなか買えなくて、
社会に出て数年して、ちょっと余裕が出たからって
思い出して買いに来てくださる方がほとんどなんです」
あの時恥ずかしさと悲しい気持ちを紛らわせるために
ワゴンセールのくせに1足1000円もする靴下を買って
それでももらった小さい紙袋が嬉しくて
とりあえず文庫本を入れて通学していた
あの頃の自分と同じ気持ちだった人が
どこかにいるのかもしれない。
誰かと着ている服がかぶるみたいなことは
死ぬほど嫌いな私だけど
今、同じニットを着ている同年代の人がいたら
「好きなものを好きで居続けてよかったね」と
一緒にプリクラでも撮りたい気持ちだ。
私がCandy Stripperに憧れてから10数年。
ブランドなんて3年持ったらいいほう、と言われて
それでもブランドのコンセプトを変えずに
ずっと残っていてくれたCandy Stripper、
本当にありがとう。
今期のちょっとオールドなハイネックっぽい感じの服たち、最高です。
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