祇園祭男の「元銀行マン」からみた祇園祭【後編】
みなさん、こんにちは。
彌榮自動車note編集部でございます。
今回は前回に引き続き、2020年夏に取材させていただいた(公財)函谷鉾保存会の櫻井さまからみた「コロナ禍における祇園祭」について、お伺いさせていただいたその後編です。お付き合いよろしくお願いいたします。
【写真】お話を伺った専務理事(当時:現在は副理事長)の櫻井忠弘さま(当時84/現在86)
【写真】櫻井さまを取り上げた新聞記事(1990年)当時から「祇園祭男」の異名をとっていたいました。
ー私たちのイメージだと櫻井さまなど鉾町のみなさんは「祇園祭の時期が中心」で回っていると思っているのですが、実際のところはどのような年間予定になっているのでしょうか?
そう思てるやろ(笑)。せやけどな、年中わしらは忙しいねんで。当たり前の話やけど、7月は祇園祭や。祇園祭が終わったらいろんな鉾に関わるいろんなものの片づけをしていく。例えば前掛けとか雨でも降ってみ、自然乾燥で乾かさなあかんから軽く2週間はかかるねんで(編集部一同驚き)。10月から11月は落ち着いてるけどや、年始になったら新年会や(笑)。そして2月になったら「お囃子の練習」が始まるんや。そしてあっというまに祇園祭が近づくというわけやな。そしてその合間には鉾町の会合なんかがあるから、そこそこ忙しいねんで。
そして話の出た前掛けやな。ほとんどの前掛けは「重要文化財級」やから、そんな「濡れたから」というて簡単に乾かせへんわけや、当たり前の話やけど自然乾燥やで。それからな、うちの前掛けの特徴は「旧約聖書(編集部驚き!)」とか「モンサンミッシェル(編集部驚き!)」みたいに(洋風の)珍しいものがあるんや。
それからな、さっき言うてた「旧約聖書」やけど、年によっては複製品使こてんねんけど、なんぼくらいすると思う?
ーうぅ...ん。さすがに百万円台前半ということはないでしょうけど、一千万円前後でしょうか?
そんな値段ではでけへんで(笑)。全部で3500万円や。
ーえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!! 3500万円ですか!
せや。けどな、かかった期間は約2年、糸も合計54色使てるんやど、作成した業者にはほとんど儲けないと思うわ。ちなみにな、旧約聖書をモチーフにしてるのがわかったんは、昭和45年(1970年)に重要文化財に指定されてからやな。それまでは多くの人が中世ヨーロッパとかなんかと思てたけど、実は違ったんやな。そんな発見もあるわ。
【写真】収蔵庫にも邪魔させていただいたnote編集部。ここにあるものそのほとんどが「重要文化財級」です。
【写真】収蔵庫の一幕、中段上には「前掛」そして「モンサンミッシェル」の文字が...
ーちなみにその「本物を使うか複製品を使うか」というのはどうやって決めているのですか?
それは天気やな。巡行前日の宵山は「提灯落とし」してから「日和神楽」をする、それが終わるんは終電前やな。そして翌朝5時半に天気をチェックするわけや。
【写真】函谷鉾保存会 会所の様子 両側に懸けられているのが「前掛け」(2021年 祇園祭時に撮影)
【写真】会所の奥にかかる渡り廊下を渡ると「函谷鉾」へ
(2021年 祇園祭時に函谷鉾保存会 会所より撮影)
ーなかなかのハードスケジュールですね。
そうやな。しかもこの辺の夜間人口はほぼゼロということからもわかるやろけど、ほとんどの人は通てはる。ただな、一番遠い人はこのために東京から来てはるんやで。
ー東京からとは...!
その人は学生時代からボランティアで関わってはったんやけど、勤めだしても通てはるんや。
―学生ボランティアといえば、京都産業大学の学生さんもボランティアで関わってますよね?
そうやねん。毎年たくさんの学生さんに助けてもろてるわ。さっきも話した提灯落としな。あれは12~13年前から始めたんやけど、一斉に提灯が落ちるる様子をみて感動から涙を流さはる学生さんもいてはる。その姿をみてわしらももらい泣きするわけやな。
編集部注:2020年は提灯落としができなかったために、有志の学生さんがバーチャルで提灯落としに挑戦されました。詳しくはこちらのツイートをご覧ください。
学生さんはみんな一生懸命やで。だからこそ今年の祇園祭に参加できなかったこと、これはとても残念やったな。特に4回生(4年生)は「来年参加する」という選択がでけへんからなぁ、気の毒だとしか言いようがないわな。
ーそのほかにも今年だから「変わったこと」というのはありますか。
まず、巡行なくなったわな、鉾立てなくなった、宵山ないわな、そして曳き初めもなし、とにかく人が集まることがでけへんわな。
【写真】鉾立の様子(2021年 祇園祭時に撮影)
【写真】お囃子の様子(2021年祇園祭時 函谷鉾保存会より撮影)
【写真】お囃子の様子(2021年祇園祭時 街頭から撮影)
【写真】お囃子時の函谷鉾(2021年祇園祭時に撮影)
【動画】お囃子の様子(2021年祇園祭時に撮影)
それからな、さっきも言うた通りでお囃子の練習は2月からするんけやど、それが全くできなかったこと。とにかく「3密回避」のために「人が集まる」ことがでけへんということやな。提灯ともせへん、お囃子もでけへん、それらはほんま悲しいことやな。そして例年やったら「着付け」やったり、曳き子さんやったり、納入の関係やったり、多くの人たちに連絡とって進めなあかん。それが「すべてお断りの連絡」になってまう、それも悲しいことやと思うな。
それから「人が集まることをしたらあかん」ということ。提灯の話はさっきしたけど、例えば祭壇や会所の装飾も「外から見えない」ようにせなあかんということやな。せやし、会所に人が集まらないように粽づくりも含めて、会所での行事はそのほとんどを取りやめてもうた。例年は会所に集まって1万個近く作ってたんやけど、今年は各町内企業さんで粽づくりを手伝ってもらったな。
ーそういえば、粽について2020年は社内で作りました。
せやんな、今年は「粽売ってますか?」っていう問い合わせが多かったな。ただ、さっきの話や。いつから売りますとは大々的に言うことはでけへん。それもつらいことやな。ちなみにやけどな、この粽、古い粽を回収したものはすべて八坂神社さんへ軽トラックでもっていってお焚き上げしてもろてるんやで。うちはちゃんと扱こうてるわけや(笑)
それから変わったことといえば、さっきも言うた「前掛け」、これは会所に一斉に並んでることやな。当たり前の話やけど、例年ならんでる前掛けは鉾に付けなあかんわけやけど、今年はこうして会所に並べてるわけや。これも大きく変わったことやな。
編集部注)2021年の祇園祭は、なるだけ夜に人が集まらないように「19時終了時間厳守」というルールを山鉾町保存会で決め、そのなかで運用されていました。
ー最後にこの文書を読まれているみなさんに伝えておきたいことはありますでしょうか?
本来、祇園祭は地域(鉾町)の大切なお祭り、そして疫病退散という願いも込められている祭りやな。せやし「ただ単に見る」ということではなくて、どのような想いがあり、1年間をその祇園祭の時期に懸けているかを知ってほしいと思っているわけやね。少しでも早く「あたりまえの姿でお祭りができるようになってほしいと思うな」。
2020年から始まったコロナ禍でこれまでにない困難に直面した祇園祭。昨年から少しづつこれまでの姿に戻すべく試行錯誤が続けられてきましたが、遂に本年は山鉾巡行を含む形での催行となります。ぜひ多くの人に直接または画面越しでこれまでの想いについて感じていただきたく編集部一同考えています! それではみなさん、また次回の機会にお会いできることを楽しみにしております。