いろいろ面倒くさい修学旅行実行委員 (皐月物語 61)
帰りの会が終わった後、新しく修学旅行実行委員に選ばれた藤城皐月と筒井美耶は担任の前島先生に職員室に来るように言われた。教室はすぐに家に帰る子やクラブ活動で残る子などがそれぞれの準備をしていてざわめいている。皐月は美耶を職員室に誘おうとと思い、美耶の席へ行った。
「初日から居残りになっちゃったな。やっぱ実行委員って忙しいんだね」
「仕事たくさんありそうな予感。私、こんな責任の重いことしたことないよ。やっていけるかな?」
「そんなにプレッシャー感じなくてもいいんじゃない? 要は修学旅行を楽しく無事に終わらせればいいだけだし。大丈夫だよ」
「藤城君って物怖じしないんだね。頼りにするからね」
「なんだ、俺は筒井のこと頼りにしようと思ってたのに。……まあ実行委員なんて余裕でしょ。二人でやるんだし」
皐月が美耶と話しているところに松井晴香がやって来た。実行委員を決める時、晴香は皐月と組むことを露骨に嫌がったので、皐月はまだそのことを根に持っている。
「美耶、ごめ~ん。さっきは押し付けちゃったみたいで」
「いいよ、別に。ただ急に言われたからちょっとびっくりしちゃったけど……」
「相手が月花君から藤城に変わったから美耶に譲ったんだよ。良かったね、藤城と一緒に実行委員やれて」
美耶は笑顔で応えたが、顔が少し引き攣っていた。美耶を見ているとなんだか哀れに思え、皐月は晴香の一方的な言い草に腹が立ってきた。
「お前、博紀と実行委員やれると思って立候補したんだろ。残念だったな、目論見通りいかなくて」
「なんであんたが実行委員やるなんて言ったのよ。そのつもりがあったなら、最初から藤城が立候補すればよかったのに。そうしたら私だって立候補しなくてすんだのに……」
晴香には皐月と博紀の会話が聞こえていなかったようだ。これでは自分が一方的に悪者にされてしまうと思い、皐月は少し考えた。
「実行委員は博紀にお願いされたんだよ。あいつ、もうすぐサッカーの試合があるからクラブの練習休みたくなかったんだってさ。だからしゃーないだろ」
「じゃあ私、フられたわけじゃなかったんだ……」
「まあ、そうなんじゃない。博紀だって松井と一緒に実行委員やりたかったと思うよ」
「そう?」
「俺はそう思うけどね。だってお前ら仲いいじゃん。あと筒井と代わってくれて良かったよ。俺も松井と実行委員やるより筒井と一緒にやりたかったから」
「だったら私のこと感謝しなさいよ」
「ああ。ありがとな、本当」
晴香はご機嫌になって家に帰る支度をし始めた。ムカつく相手を気分良くさせてどうする、と皐月は自己嫌悪に陥った。
皐月が言った、博紀が晴香と実行委員をやりたかったと思うというのは意地の悪い嘘のつもりだった。博紀は本心では二橋絵梨花と一緒に実行委員をやりたかったはずだと皐月は確信している。だが晴香はそんな皐月の考えを知る由もない。晴香が皐月の言ったことを言葉通り受け取るのも無理はなかった。
「ねえ、私と一緒に実行委員やりたかったって本当?」
晴香に調子のいいことを言ったせいで違う方向から矢が飛んできた。
「もちろん本当に決まってるじゃん。松井と組むよりも筒井と一緒にできた方が楽しいし」
「なんか消去法みたい……」
「なんで? 筒井と一緒にやれるから楽しいって言ってんじゃん」
「そう……だね」
「こうして筒井と二人で喋るのって久しぶりだよね。席が離れてから全然話してなかったし」
「藤城君は新しい席でも楽しそうだね」
「楽しいよ。秀真や比呂志とオタク話ができるからね。やっとあいつらと同じ班になれた」
美耶が言いたいのはそうじゃないっていうことを皐月はわかっていた。だが皐月はあえてそこをスルーして話を逸らした。皐月は美耶の肩を軽くたたいた。
「職員室に行こうぜ。先生が待ってるから」
「うん」
教室を出ようとした皐月たちをまだ教室に残っていた児童たちがニヤニヤしながら見ていた。「頑張れ!」という意味不明な声もかかり、美耶は恥ずかしそうにしていた。だが皐月にはからかわれているとしか思えず、気分が悪かった。そんな中、なぜかまだ帰っていなかった栗林真理だけは冷たい目で皐月のことだけを見ていた。