悪い優等生(皐月物語 166)
修学旅行実行委員会は残務処理を終え、委員長の藤城皐月と副委員長の江嶋華鈴は校門を出たところで書記の水野真帆と別れた。皐月は通学路の細い路地の曲がり角で立ち止まった。
「今日は別の道で帰ろう」
皐月は検番の裏を通る通学路を避けたかった。芸妓の明日美に会うかもしれないからだ。明日美には華鈴と一緒に歩いているところを見られたくない。華鈴が一緒に帰っているところを明日美に見られて、嫉妬されたことがある。
「どうしてこの道を通らないの?」
「江嶋を芸妓と会わせたくないからだ。江嶋だって会いたくないだろ?」
「別に何とも思っていないけど」
「俺が会わせたくないんだよ」
皐月は華鈴とここで別れてもいいつもりで、路地に入らず真っ直ぐ進んだ。華鈴は後からついて来た。
皐月は華鈴を連れて県道495号の宿谷川線を横断した。皐月はそのすぐ先の小径を左に曲がった。
この細い道はかつて料亭が並ぶ歓楽街だった。現在それらの建物はもうなくなっている。昭和時代に建てられたブロック塀や万年塀と、外壁や屋根がトタンでできた廃墟がわずかに残っているだけだ。
「こんな道があったのね。私、初めて通る」
「この道を通る人ってほぼいないからね。豊川稲荷の近くって細い道が多いよな」
皐月の家の周辺にも車が通れないほど細い道が何本かある。昔の門前町を思わせる路地だが、どんどん新しい建物に建て替わりつつある。古ぼけた皐月の家はまだ残っているが、近いうちにレトロな雰囲気は一掃されるだろう。
「ねえ、江嶋。修学旅行の写真って学校のPCから直接コピーできる?」
皐月は児童会長の華鈴なら校内のサーバーにアクセスする権限があると予想した。
「できるけど、そんなことしてどうするの? アルバムからダウンロードすればいいじゃない」
「それはまあ、そうなんだけどさ……。面倒くさいじゃん。写真を一枚ずつダウンロードなんて。全部まとめてUSBメモリにでもコピーした方が良くない?」
「面倒かもしれないけど、卒業までアルバムにアクセスできるんだから、気長にやったら?」
華鈴の言うことはもっともだ。時間はまだたっぷりと残されている。今は大勢の児童が一斉にアクセスするからアルバムの反応が重くなっているが、いずれこの問題は解消されるだろう。
「写真を全部コピーしてどうするの?」
「修学旅行の思い出として残しておきたいんだよね。せっかく修学旅行実行委員をやったんだからさ、学年全体のアルバムを記念にとっておきたくて」
「藤城君って変なこと考えるね。でも、それいいかも。小学校生活の記録になるよね」
「だろ? 江嶋もコピーしたくなった?」
「なった。機会があったら、写真のコピーをしてみる。私にはそういう発想はなかったな……。できたら藤城君にも渡すけど、できなかったらゴメンね」
皐月の趣味が華鈴の琴線に触れたようだ。皐月と華鈴は5年生の時はただ席が近くて親しい関係だったが、一緒に実行委員をするようになってから急接近した。すでに二度、ゼロ距離まで接近している。
レトロな一角を抜けて、普通の狭い道になった。日常に戻ったところで華鈴が皐月に尋ねた。
「ねえ、藤城君と実果子が付き合ってるって噂になってるけど、それって本当の話なの?」
華鈴が人の噂話を気にするとは思わなかった。皐月の知っている華鈴は芸能ゴシップには無関心だった。だから、そういう同級生同士の下世話なことには興味がないと思っていた。
「付き合っていないよ。完全にデマ」
皐月は稲荷小学校に伝わる匂い袋の都市伝説を華鈴に教えた。修学旅行では体験学習で匂い袋を作るというプログラムがある。その匂い袋を男女の児童が交換すると、恋愛が成就すると言われている。
今年の修学旅行では藤城皐月と野上実果子が匂い袋の交換をした。そのせいで二人は周囲から恋人認定をされた。
「俺も野上もそんな話なんか知らなかったんだ。だから偶然。野上と仲がいい男子なんて俺くらいしかいないから、まわりが勝手に騒ぎ始めただけだろ」
話しながら歩いていると、駅前通りに出た。横断歩道を渡れば、皐月の家はすぐ近くだ。
駅前通りの横断歩道を渡り切った後、皐月はこの後どうしようかと考えていた。華鈴の家は皐月の家の先にある。以前のように家にランドセルを置いて、華鈴を家まで送ろうか。あるいは皐月の家の前で別れて、芸妓の明日美に会いに行こうか。
皐月は華鈴に借りがある。華鈴から家に来ないかと誘われた時、栗林真理に会いに行く予定があったので、誘いを断った。その時、華鈴を泣かせてしまった。
女子が男子を家に誘うのは勇気が要っただろう。皐月は華鈴のプライドを傷つけてしまった。もう一度誘われたら、その時は何を差し置いてでも華鈴に付き合おうと思っていた。
皐月と華鈴は駅前通りの横断歩道をわたり、稲荷表参道の路地に入った。皐月はここまで何も決断できないまま、路地をさらに右に曲がった。すぐ先に皐月の家がある。
「江嶋、家まで送ろうか」
「うん」
皐月は華鈴からの誘いを待たずに、自分から誘った。ただ、華鈴の家に上がらせてもらえるかどうかはわからない。
この日、皐月は明日美と会う約束をしていない。昨日の今日だから、会いに行くこともないと考えた。華鈴を送って、それでもまだ時間があるようなら明日美の家に行こうと思った。
小百合寮の前まで来た。玄関の戸を開けようとすると鍵がかかっていた。こういう時はたいてい、住み込みの及川頼子が買い物か何かで出かけている。
何か伝言があるかと思い、ランドセルからスマホを取り出して、メッセージのチェックをした。頼子からの伝言はなかったが、母からメッセージが届いていた。
――頼子と豊橋で映画を見ている。夕食の時間には帰る。
「どうしたの?」
「親たちは遊びに行ってて、留守みたい。ちょっと待ってて。何かおやつを取ってくるから」
皐月が玄関の鍵を開けていると、華鈴が小さな声で呟いた。
「藤城君の部屋、見てみたいな」
皐月は戸を開けて、玄関の中に入った。
「来いよ」
皐月は靴を脱いだが、下駄箱には入れずに三和土に出しっぱなしにした。すぐに家を出て、華鈴を家まで送るからだ。華鈴は珍しそうに玄関の中を見回していた。旅館だった建物なので、下駄箱が一般家庭に比べて大きい。
皐月は華鈴を家に上がらせると、玄関に鍵をかけた。防犯のために施錠することを習慣にしているが、女子を家に上げてすぐ鍵をかける行為は卑猥なことを連想させる。皐月は少し落ち着かなくなってきた。
「家の中、暗いだろ」
玄関を上がってすぐの楽器置き場になっている取次の間には明かりをつけず、その先の居間の照明をつけた。
「藤城君の家って広いのね」
「昔、旅館だったからな。旅館っていっても、ビジネスホテルみたいなものだけどね」
皐月は華鈴にランドセルを取次の隅に置くように言うと、階段へ案内した。
小百合寮の階段は陽が当たらないので真っ暗だ。照明をつけると崖かと思うほどの傾斜がきつい階段が現れる。
「ずいぶん急な階段なのね」
「だろ? 昔の建物って変だよな。場所をケチってるから傾斜が急になる。上る時は気をつけてね」
皐月が先に階段を上り、華鈴が後からついて来た。華鈴は皐月の踵を見ながら階段を上った。
階段を上ると、すぐ右手に皐月の部屋がある。皐月は戸を押し開いて、華鈴を中に招き入れた。
「ここが俺の部屋。狭いだろ」
皐月の部屋は左側の窓の前に本棚と勉強机があり、右側の襖に寄せてベッドが置かれている。正面は物置になっている。
「前は隣の部屋と二部屋も使っていたんだ。でも、この前会った女の人と、その娘さんが引っ越してきたから、一部屋譲ることになっちゃった」
華鈴は部屋を取り上げられた話を聞き、沈んだ顔をしていた。
「もう、俺の部屋じゃ友だちと遊べなくなっちゃった。遊ぶ時は一階の居間だ」
皐月はランドセルを部屋の隅に下ろした。以前、入屋千智を部屋に招いた時は千智には勉強机の椅子に座ってもらった。皐月の部屋はロフトのある華鈴の部屋ほど広くはない。
「下の居間に行かないか? お茶とお菓子でも出すよ」
皐月は祐希がいつ帰ってくるかと気になるので、一刻も早く部屋を出たかった。居間にいれば何とでも言い訳ができる。
華鈴は皐月の言葉を無視してベッドに座り、立っている皐月を見て言った。
「そんな部屋を追い出すようなことを言わないでよ。まだここに来たばかりじゃない。それに私、この部屋を気に入ってるんだから」
「こんな狭い部屋のどこがいいんだよ?」
華鈴がベッドに仰向けになった。
「天井が高くていいね。私のベッドはロフトだから、天井が目の前に迫ってるの」
皐月は自分のベッドに寝ている華鈴を見て、現実離れをしていると感じていた。あの優等生の江嶋が目の前に横たわっている……まるで夢を見ているようだ。
「ねえ、見下ろさないでよ」
「じゃあ、起きろよ」
「疲れてるんだから、少しくらい休ませてよ」
疲れているのは皐月も同じなので、少しだけそのまま休ませることにした。ただ、いつまでも華鈴を見下ろしているわけにはいかないので、皐月はベッドサイドの床に座った。目線の高さを合わせると、顔と顔が近くなった。
「ロフトって格好いいなって思ってたけど、天井が近いのは圧迫感があって落ち着かないかも」
「部屋は広くなるんだけどね……。でも、藤城君の部屋を見せてもらったら、部屋なんか別に狭くてもいいかなって思った」
「そうか? 部屋は広い方がいいだろ?」
「私は狭くてもいい。どうせ友だちを家に呼ぶことなんてないから。それに、貧乏に慣れているんだと思う。狭くても何とも思わないから」
華鈴は幸せそうな顔で微笑んでいた。女子なんてみんなキラキラした暮らしにあこがれているのかと思っていたので、皐月は慎ましい華鈴のことを愛おしく思った。
華鈴の家は古い一軒家だ。家だけ見れば確かに裕福とは言えないだろう。新しいマンションに住む栗林真理や明日美の方がいい暮らしをしている。
華鈴は皐月を見ながら横になっていた。華鈴の顔が一瞬くもった。
「藤城君と実果子って、掃除の時間にキスのことで揉めていたんだってね。実果子とキスしたことあるの?」
「あるわけねーだろ」
「私とは2回もしたのにね」
華鈴は笑っていた。こういう顔は勝負事に勝った時にする顔だ。5年生の時から華鈴はときどきこういう顔をする。負けん気が強いのだろう。
「じゃあ、藤城君は実果子とキスしたいの?」
「別にしたくねーよ」
「実果子にキスしてってお願いされたら、どうする?」
華鈴は真剣な顔をしていた。皐月は華鈴の考えていることが何となくわかるような気がした。実果子や華鈴に対する自分の気持ちを確かめようとしているのだ。
華鈴は自分に好意を寄せているに違いない。だが、こういう態度を取られると重い。ならば、ここでクズ男を演じて幻滅させてやろうと思った。今の自分は本当に下衆なので、華鈴のような優等生と付き合う資格がないからだ。
「野上が俺にキスしてほしいって言ってきたら、してやってもいいよ。俺は男だし、エロいから、アダルトなこととかめっちゃ興味があるし」
皐月はこれで華鈴が不快になって、自分と距離を取ろうと思ってくれればいいと思った。
「そんなにいやらしいことがしたかったら、私とすればいいじゃない」
「えっ?」
「キスしたかったら、実果子じゃなくて私としたらいいって言ってるの。藤城君はまだ入屋さんともキスしていないんでしょ? でも、私は2回もしている。だったら3回も4回も同じだから、私が相手になってあげる」
皐月が思っていたことと違う答えが返ってきた。こんなことを言われたら逃げられなくなる。ここで華鈴を拒否したら、立ち直れないほど傷つけてしまうだろう。
「そんな、自分を貶めるようなことを言うなよ」
「言わせたのは藤城君でしょ?」
「それじゃあ、俺が悪い男みたいじゃないか」
「藤城君は悪い男だよ。入屋さんと付き合ってるくせに、私にキスしたんだから」
「ごめん……」
「謝らなくたっていい。拒まなかった私も悪いんだから。それに、私は藤城君にキスされて嬉しかった。もっとしてくれると、もっと嬉しい」
華鈴は目を閉じた。キス待ち顔をされたので、応えないわけにはいかなくなった。皐月はそっと華鈴にキスをした。
皐月は軽く口づけをするだけでこの場を収め、すぐに華鈴を帰そうと思っていた。しかし華鈴は皐月の頭に手をまわし口を押しつけてきて、離そうとしなかった。痛かったので、強引に押しのけた。
「バカッ! 痛いじゃないか」
「ごめん……。でも藤城君、すぐに口を離したから、やめちゃうんじゃないかと思って……」
「いつ親が帰ってくるか、気が気じゃないんだよ。江嶋を自分の部屋に連れ込んでいるのがバレたら、お前とはもう会えなくなるぞ」
華鈴が驚いた顔をしていた。皐月は自分の苦し紛れに言ったことがまずい方向にいくことに気がついた。こんなことを言ったら、これからも華鈴と会うことを約束したようなものだ。
「じゃあ、帰る。今日は家にお母さんがいるから、帰りが遅くなると心配かけちゃう」
「その方がいいよ」
華鈴はベッドから起き上がって、ベッドを椅子代わりに腰掛けた。
「両親がいない時に、また家に来てよ」
こんなことをしていると実質的に付き合っていることと同じになってしまう。皐月は華鈴にうまく誘導されているような気がしてきた。
「行けたら行く。でも、俺は男子の友達との約束を優先するからな」
華鈴は賢い。そして承認欲求が強い。もしかしたら華鈴は千智から自分のことを奪おうとしているのかもしれない。皐月はここで恋愛よりも友情を大切にするキャラを印象付けておかなければならないと思った。
「ねえ、帰る前にもう一度キスして」
華鈴の一重瞼の眼は神秘的だ。瞳を見つめていると吸い込まれそうになる。皐月は今になってやっと恋愛モードに切り替わった。
「いいけど、さっきみたいに強引なことをするなよ」
「うん」
皐月は華鈴の隣に座った。ベッドが二人の体重で沈み、体と体がくっついた。
「約束してほしいんだけど、唇に一切力を入れないでくれないか。そしてキスしたら軽く吸ってほしい」
「わかった。力を抜いて、軽く吸うんだね。やってみる」
「あと、少し口を開いていてくれないか」
「注文が多いね」
「だって、俺がいやらしいことをしたくなったら、江嶋が相手をしてくれるんだろ?」
「うん」
素直に言うことをきく華鈴はかわいい。皐月は華鈴の肩を抱いて、そっと唇を重ねた。
皐月は華鈴を連れて家を出た。時刻は下校時間まで学校に残っていた時よりも少し遅いくらいだ。栄町商店街を通らずに、手前の歓楽街の路地に入った。人気がないからなのか、華鈴が皐月の袖をつかんだ。
「ねえ、藤城君。また会える?」
「俺、彼女がいるんだけど」
「そんなのわかってるよ……。でも、会いたい」
「お前、悪い女だな」
「藤城君だって悪い男だよね。それにエッチだし……」
華鈴の目がトロンとしていた。皐月とのキスにハマってしまったようだ。皐月はもっと先のことをしたかったが、さすがにヤバいと思い、家族が帰ってくるまでに切り上げた。中途半端なところで止めたからたまらない。
「江嶋ってエロいよな」
「そんな私だけエロいみたいなこと言わないでよ。6年生の女の子ならみんな興味があると思うよ」
「そうなのか? 女子なのに?」
「男子も女子も関係ないでしょ。女の子は男子みたいにわかりやすくないけどね」
「まあ、男子はわかりやすいよな」
皐月と華鈴は豊川稲荷の表参道を横切って、豊川進雄神社へ向かって歩いていた。少し先に華鈴がよく買い物をする青果店がある。この日は母親が家にいるので寄らないそうだ。
「藤城君は入屋さんにエッチなことしたいって思ってるの?」
「思ってねーよ。千智はまだ5年生だぞ。子供じゃん」
「6年生だって子供でしょ」
「女子って生理がきたらもう大人なんじゃないのか?」
皐月は女の子の事情についてはよく知らないが、もっともらしいことを行ってみた。
「そうかもしれないけど……」
皐月と華鈴は神社の手前の銀杏の木の角を右に曲がらずに、真っ直ぐ進んだ。豊川進雄神社と徳城寺の間の細い道を歩かずに、神社の鳥居の前に来た。
「お参りしていかない?」
「いいけど、何をお願いするの?」
「何もお願いしないよ。挨拶をするだけ」
「挨拶? 神社ってそういうところなの?」
「さあ? 人それぞれなんじゃないの」
参道の両脇にある樹々の影の中を歩いて手水舎で手を洗い、口を漱いだ。社務所の前にある御神木の椎の木を過ぎると境内が広がった。
「江嶋は進雄神社で遊んだりしなかったんだ」
「女の子だからね」
「俺たちはよく境内で遊んでたよ」
皐月と華鈴は拝殿の前に来た。
「ここって何の神様が祀られてるの?」
「進雄命なんだけど、昔は牛頭天王社って言われていたから、本当は牛頭天王が祀られているんだろうね。進雄命も牛頭天王も同じ神様って言われているけど」
「ふ~ん。なんだかよくわからない」
「京都の八坂神社と同じ神様だよ。隣の徳城寺の山号は祇園山なんだ。この辺りは京都の祇園と関係が深かったんだろうね」
皐月と華鈴は拝殿で手を合わせた。皐月の柏手が高く鳴り響いた。
「藤城君って、手を叩くのが上手だね」
「いい音が出ると、いいことがありそうな気がするんだ。江嶋とこうして二人で進雄神社で参拝していることもいいことなんだろうな」
「本気でそう思ってる?」
「思ってるよ」
境内は日が傾いて影になり、もうすぐ黄昏時になる。夕方は本来、神社にいるべきではないので、早く家に帰らなければならない。
「もう帰ろうか」
「そうだね」
皐月は拝殿を離れ、左手にある鳥居から出ようと思っていた。鳥居に向かって歩き出そうとすると、華鈴に手を引かれて拝殿と末社の橿原神社の間へ連れて行かれた。
華鈴は橿原神社の横に生えている大きな木を背にして立ち止まった。
「ねえ。もう一度キスして」
拝殿横の井戸と納札所の間は鎮守の森の入口で、薄暗かった。
「誰かに見られそうだな」
「見ている人なんか、誰もいないよ」
華鈴に腕を引かれ、皐月は樹を背にした華鈴に倒れ込みそうになった。華鈴のランドセルが樹の幹とのいいクッションになった。
「キスしてくれたら帰る」
「わかった」
皐月は軽くキスするつもりだったが、華鈴は情熱的だった。皐月は華鈴の口づけに応えながら、ランドセルが樹の幹に擦れて傷付かないかが気になっていた。