
修学旅行実行委員会の完全終了(皐月物語 165)
小学6年生は修学旅行が終わると、あとは卒業式まで大きなイベントがない。秋と冬は穏やかな小学校生活となる。そして、穏やかに子供時代が終わる。
6年4組の教室内にはもはや修学旅行前の高揚感はない。だが、クラスメイト同士は旅行期間中に親密度が増しているので、卒業までの間にこのクラス特有の空気感が醸成されることになる。
この日は修学旅行が終わって最初の登校日だ。藤城皐月が教室に入ると、いつもと雰囲気が違っていた。人と人との距離がいつもよりも近く、普段は口をきかない者同士が話をしていた。
6年4組はいいクラスだ。まともな先生、いじめのない人間関係、男女ともに中心的人物がいてもカーストは形成されていない。皐月は6年間の小学校生活でこのクラスが一番好きだ。
皐月たちの班では栗林真理と二橋絵梨花が寸暇を惜しんで受験勉強をしている。吉口千由紀はいつも小説を読んでいる。男子同士で話をする時は彼女らの邪魔にならないよう、いつも廊下に出る。
2時間目が終わった後の中休みに、皐月と岩原比呂志は席を外して廊下に出た。
「俺、土曜日に新城駅に行ってきたよ。岩原氏は新城駅に行ったことある?」
「もちろん、あるよ。新城駅はまだ古い駅舎が残っていて、味わい深いよね。藤城氏は駅周辺を散策したの?」
「桜淵高校の文化祭に行ったから、少し街の中を歩いた。昭和っぽい雰囲気がまだ残っていて、楽しかったな」
皐月と比呂志は二人で遊ぶ時は主に鉄道写真を撮りに行く。学校では時刻表を見ながら話をすることが多い。駅訪問は皐月のフィールドだが、最近は比呂志も駅訪問に興味を持ち始めた。
「じゃあ、三河大野駅は行ったことある?」
「まだない。あの駅って駅舎とホームに高低差があるから、ちょっと独特な造りだよね。藤城氏、三河大野駅に行く予定でもあるの?」
「今度、同居人のお姉さんの友だちの家に行くんだけど、最寄駅が三河大野駅なんだ」
皐月が言ったのは黒田美紅のことだ。皐月は美紅に髪を切ってもらう約束をしている。
「お~い、藤城~。お前の写真、見たぞ~」
3組の教室からドッジボールのエース、大嶽颯太が出てきた。颯太とは5年生の時に同じクラスだったので、今でも仲がいい。
「写真? 何の写真だよ?」
「京都で野上と一緒に写ってるやつだよ。あれはどこだろう……。清水寺に行く途中のどこかだと思うんだけど……」
皐月にはすぐにピンと来た。清水坂から産寧坂に下る角にある、来迎院という古くて小さな寺で写された写真だ。あの時、皐月は桜の樹の下で野上実果子と会い、少し話をした。だが、写真を撮られた覚えはなかった。
「写真って、もう見られるの?」
「学校からのお知らせにアルバムへのリンクがあったぞ。4組ではまだ知られていないのか?」
「さあ……。俺のまわりの奴らってみんな情報に疎いからな。で、なんで大嶽が俺と野上の写真を見たんだよ?」
「修学旅行の写真は誰でも全部の写真を見られるんだよ。3組の写真に藤城の写真が混ざってたからな。しかも、野上と一緒に写ってるから、そりゃ評判になるわ」
「評判?」
「だって、お前と野上は匂い袋を交換してたじゃん。もうカップル認定されてるぞ」
「勝手に認定してんじゃねーよ」
「それに写真の野上の顔、完全に雌の顔だって女子たちが騒いでいたぞ。雌ってヒデーよな。女子って怖え~。もう、お前が嫁にもらってやれよ」
颯太は笑いながらトイレへ向かって歩いて行った。
皐月と比呂志は教室に戻り、タブレットを取り出してアルバムにアクセスした。
「うわっ! 凄っ!」
アルバムには大量の写真が掲載されていた。何の分類もされずに画像が並んでいたが、班ごとに写真が連続して表示されていた。
皐月と比呂志がタブレットで写真を見ているのを見て、クラスメイト達が騒ぎ出し、みんながいっせいに自分のタブレットで写真を見始めた。
神谷秀真がトイレから戻ってくると、クラスのみんながタブレットを見ているのに驚いた。
「あれっ? もう授業、始まってるの?」
「修学旅行の写真がサーバーにアップされてるんだよ」
皐月は秀真に状況を説明した。
「そうか……。どうりで廊下に人がいなかったわけだ。どのクラスの奴らもみんな教室の中にいたからな」
皐月はまず、自分たちの班の写真をチェックした。颯太の言う通り、確かに全ての写真が掲載されていた。写真を見ていると、楽しかった修学旅行の思い出が甦ってくる。
藤城皐月は神谷秀真と岩原比呂志の三人でサーバーにアップされた修学旅行の写真をタブレットで見ていた。
「皐月。あんたってガイドさんと一緒に写真を撮ったんだ」
栗林真理は法隆寺で写した女子大生の立花玲央奈の写真を見たようだ。先生たちの撮った写真はアルバムの後ろの方にまとまって載っていた。
「お~っ、懐かしい。ガイドさん、元気かな?」
皐月と玲央奈はSNSで繋がっている。皐月は真理に関係を悟られないようにとぼけた。
「別れてからまだ三日目でしょ? 懐かしいには早すぎない?」
「三日前なんて遠い昔じゃん。小学生の一日は長いんだぞ」
4組の担任の前島先生は頑張ってたくさんの写真を撮ってくれた。3組の北川先生に比べて写真の枚数が倍くらいの量がある。だが、2組の粕谷先生はもっとたくさんの写真を撮っていた。若い女の先生らしく、写真が大好きなようだ。
粕谷先生の撮った写真の中に、皐月と江嶋華鈴がホテルのロビーで写してもらったツーショットがあった。粕谷先生が面白がって何枚も撮った写真だ。皐月は撮られた時には気付かなかったが、華鈴がとても幸せそうな顔をして写っていた。
皐月は大嶽颯太に言われた写真を探した。野上実果子とのツーショット写真を見つけた時、3組の児童たちの間で騒がれるのも無理はないと思った。
この写真の実果子は心から嬉しそうに笑っている。実果子は恐らく、教室内ではこんな笑顔を見せることはないのだろう。リップを塗った赤い唇は扇情的で、小学生らしからぬ色気があった。実果子の白い顔に赤い唇がよく映えていた。
この写真を撮られた瞬間、皐月は実果子の弾けるような笑顔を見ていたはずだ。だが、はっきりとした記憶がなかった。一瞬の出来事だったので、記憶に残らなかったのだろう。皐月はこの時の実果子とキスしたくなったことだけは憶えている。
写真はその瞬間を残していた。時間に流された実果子の笑顔が写真として残っているのは、失うべきではない大切な記憶を取り戻してくれたようで嬉しかった。だが、実果子に欲情した恥ずかしい記憶も残ってしまった。
「実果子、きれいだね」
皐月の後ろの席の吉口千由紀が小声でつぶやいた。皐月は自分に向けた言葉だと思い、振り返って千由紀を見た。
「実果子の奴、メイクしてたからな。化粧映えする顔だよね」
皐月はとっさに言い訳がましいことを言ってしまった。
「素直に褒めればいいのに」
千由紀は笑っていたが、目には非難めいた色があるようにも見えた。皐月は逃げるように、千由紀の隣の席の比呂志に話しかけた。
「岩原氏って、こんなにたくさん風景写真を撮っていたんだ」
「写真は面白いね。今度どこかの駅を訪問した時は、街歩きをして本格的に風景写真を撮ってみようかな」
「動画じゃなくて、写真?」
「うん。動画は疲れるからね。あまり好きじゃないんだ」
どの班もたくさん写真を撮っていたが、皐月たちの班は風景写真が多かった。比呂志が街や鉄道を、秀真が神社仏閣の写真を撮りまくっていたからだ。
アルバムの写真はどれでも好きなだけ、自由にダウンロードができる。校内のサーバーに写真が置かれているので、児童たちが一斉にアクセスすると処理が重くなる。写真は卒業までダウンロードができるので、慌てる必要はない。
昼の掃除の時間に皐月がみんなから遅れて雑巾を洗っていると、野上実果子が隣の蛇口に来た。
「なんか俺たちの写真が撮られていたみたいだな」
「全然知らなかった。私、恥ずかしい顔をしてた……」
「そんなことねーよ。野上、かわいかったじゃん」
「そうか?」
柄にもなく、実果子がデレッとした。
「あれって、野上が俺とキスしたいって言った時の写真だよな?」
「誰がそんなこと言うか! お前が私にキスさせろって言った時の写真だろ」
洗い場にいた他の3組の女子たちが驚いた顔で皐月と実果子を見た。
「そうだっけ? でも、野上ってメイクすると色っぽくなるよな。またメイクした顔を見せろよ」
「エロいことを考えないんだったら、また見せてやるよ」
3組の連中の視線が皐月と実果子に集まっていた。からかわれてもよさそうな状況なのに、みんな黙って皐月たちを見ていた。これで教室内での実果子の立場がよくわかった。
「お前と俺、なんかカップル認定されてるんだってな。まあ、気にするな。言いたい奴には言わせておけ」
「ごめんな……。私が匂い袋を交換してくれって言ったから、こんなことになっちゃって……」
「いいよ。俺は何を言われても平気だから。それより野上が嫌なんじゃないの? 俺なんかとカップルにされちゃって」
「本当、いい迷惑だ」
実果子は笑って皐月から離れて行った。5年生の頃は実果子の笑顔なんてめったに見ることがなかった。よく笑うようになったな、と思った。
5時間目が終わると、江嶋華鈴が4組にやって来た。呼び出された藤城皐月は廊下に出た。
「藤城君。放課後に最後の委員会をしたいんだけど、いいかな?」
「いいけど、何かやることあったっけ?」
「委員会の議事録を完成させるの。それで、自分たち用に議事録をプリントアウトしようと思ってるんだけど、藤城君も欲しい?」
「欲しい欲しい。実行委員をやったっていう証になるもんな。他の委員の分はどうする?」
「水野さんと三人分でいいと思う」
修学旅行実行委員会の議事録は本来なら作らなくてもいいものだった。それを水野真帆が作りたいと言い出した。皐月はこれを真帆の趣味だと思っている。
「じゃあ、放課後に児童会室で」
華鈴はどこか嬉しそうだった。今日の委員会はいつもの三人だし、やることに何の責任もない。委員会とは言っても、三人の私的な作業なので、気が楽だ。
6時間目が終わると、みんなが帰り始めた。皐月は珍しく月花博紀に声をかけられた。
「皐月、一緒に帰ろうぜ」
「悪ぃ、博紀。俺、今日は修学旅行実行委員会があるんだ」
「まだやってんのか? 修学旅行なんてもう終わったじゃねえか」
「残務処理があるんだよ。来年以降の実行委員に残す資料を作っておかないといけないんだ」
「そうか……。ところでさ、修学旅行に行く日の朝に撮った祐希さんの写真ってどうなった?」
博紀の目的は及川祐希だった。博紀は皐月と一緒に暮らしている祐希にまだ気があるようだ。
「ああ、そういやまだ写真を送っていなかったな。悪ぃ。家に帰ったら博紀のアカウントに送るよ。面倒くさいから、お前が他の奴らにも写真を送っておいてくれ」
「わかった。じゃあ、ヨロシク頼むわ」
皐月は祐希と男女の関係になっている。そんな祐希に熱を上げる博紀が少し可哀想に思えた。だが、勝った気にはなれない。今は女子と会うよりも、博紀たち男子と遊びたい気分だ。
「博紀、また家に遊びに来いよ」
「おう。サッカーが落ち着いたら、また行くわ」
皐月と博紀は教室の出入り口で別れ、皐月は児童会室へ向かった。
児童会室にはすでに江嶋華鈴と水野真帆が来ていた。華鈴が真帆のタブレットを見ていて、議事録の確認をしていた。
「俺にも見せて」
「どうぞ」
真帆に席を譲ってもらい、皐月も議事録のドキュメントを見た。皐月は無味乾燥なものを想像していたが、議事録はしっかりと読み物になっていた。
読み進めていると、修学旅行実行委員会で起きたいろいろな出来事を思い出す。楽しいことばかりではなかったが、今となっては全てが美しい思い出だ。
「一つだけ注文をつけたいんだけど、いい?」
「何? 注文って?」
真帆は少しムッとしていた。完璧な出来だと自負しているのだろう。この議事録は真帆の私物みたいなもので、皐月と華鈴はそれをコピーさせてもらうという立場だ。
「議事録の最後に俺たち三人の写真を載せたいんだけど、いいかな?」
議事録は読みやすいレイアウトになっているが、字ばかりの平板なものだった。せめて写真の一枚くらいは載せて、誌面に彩りを持たせたい。
「いいアイデアなんじゃない? 水野さん、写真を載せようよ」
華鈴も皐月の提案に乗り気になっていた。三人で写っている写真が欲しい気持ちは華鈴も自分と同じようだ。
「写真……。私、そういうの苦手なんだけど」
「苦手でも撮るのっ! これは記録なんだから」
強権を発動する華鈴がかわいかった。皐月には喧嘩腰になるのに、真帆に対しては口調が柔らかい。
「でも……」
皐月は真帆が自分の容姿にコンプレックスを抱いているんじゃないかと思った。こういう拒絶の仕方は自己評価の低い子がよくする印象がある。
「俺、水野さんと一緒に写ってる写真、欲しいな~。できれば水野さんと二人で写った写真も欲しい。水野さんってかわいいから」
皐月が真帆を持ち上げると、華鈴の機嫌が悪くなった。華鈴は6年4組でチャラくなった皐月の現在の姿をまだ知らない。5年生の時の皐月は普通の男の子だった。
「私なんてかわいいわけがないでしょ。入屋さんとは違うんだから」
「そんなことねーよ。千智はかわいいけど、水野さんだってかわいいじゃん。魅力なんて人それぞれなんだし、好みだってあるじゃん」
真帆は返事をしなかった。真帆は千智と会っているので、容姿にコンプレックスを感じても無理はない。千智には同性のプライドを破壊する魔性がある。
「それに、江嶋もかわいいよな。千智に全然負けていない」
「なによ。ついでみたいに褒めないで。どうせ本気で思っていないくせに」
「本気でかわいいと思ってるって。江嶋も水野さんも」
皐月は本心から二人のことをかわいいと思っていた。華鈴は一重瞼だけれど、吸い込まれるような魅力があるし、真帆には小動物のようなかわいさがある。眼鏡をコンタクトに変えたら絶対に顔面偏差値が上がる。
「かわいい二人に挟まれた写真、欲しいな~。俺をセンターにしてくれよな。いいだろ? 江嶋」
「センターはいいけど、誰に撮ってもらうの? タブレットのカメラって、タイマーあったっけ?」
江嶋華鈴が写真のアプリを立ち上げて、機能のチェックを始めた。すると児童会室に男子が一人、入ってきた。児童会副会長の飯田隆一郎だ。
「あれっ? 会長たち、何やってんの?」
「修学旅行実行委員会よ。そうだ、飯田君。このタブレットで私たちの写真を撮ってよ」
「いいけど、こんなので撮ったら画質が悪いよ? 学校のスマホを持ってきてあげるから、待ってて」
隆一郎は児童会室を出て行ってしまった。
「じゃあ、水野さん。写真を撮るってことで」
「もう……。しょうがないな」
水野真帆は言葉ほど嫌そうな顔をしていなかった。
飯田隆一郎は6年3組では女子の間では人気のある男子だ。ドッジボールはあまり上手くないが、ピアノが弾ける。ルックスも悪くなく、背も高い。勉強は自分の方ができるだろうと、藤城皐月は不遜なことを思っている。
隆一郎が児童会室に戻って来た。
「お待たせ~。じゃあ、写真を撮るよ」
皐月を真ん中にして、両脇に華鈴と真帆が並んだ。
「もう少しくっついてよ。離れ過ぎていて不自然だ」
華鈴はそれ程でもないが、真帆はかなり離れたところに立っていた。皐月は近寄って来た真帆の肩に手をかけて、引き寄せた。
「さすがは藤城。女たらしって言われるだけのことはある」
「何だよ、それ。飯田、お前がそう思ってるだけなんじゃねえのか?」
「3組じゃ藤城の話題で持ちきりだぞ。野上と匂い袋の交換をしたんだよな」
皐月と隆一郎はそれほど親しい仲ではないが、5年生の時に同じクラスだった。だから、隆一郎は皐月のことも野上実果子のこともよく知っている。
「藤城君と野上さんの写真、見たよ。野上さん、幸せそうな顔をしていたね」
華鈴も実果子との写真に突っ込んできた。皐月と華鈴と実果子は5年生の時、席が近かったのでいつも一緒にいた。
「そんなの当たり前じゃん。俺と関わる女子は全員幸せにしてやるんだから」
皐月は開き直った。ここで否定しても隆一郎にからかわれるだけだ。それに以前、花岡聡に言われた「お前にかかわった女、みんな不幸になるじゃないか」という言葉を否定したかった。
「さすがは藤城だ。お前、スゲーよ。野上のことを笑顔にできるのはお前しかいないからな。じゃあ、写真撮るぞ」
隆一郎は2枚、写真を撮った。
「なあ、飯田。俺と水野さんの写真も撮ってくれ」
「えっ? 私?」
真帆が戸惑っていた。
「いいじゃん。一緒に写ってくれよ。なっ?」
皐月は今までとは接し方を変えて、少し距離を詰める話し方をした。これが良かったようで、真帆は一緒に写真を撮らせてくれた。
「江嶋も一緒に撮ろうぜ」
華鈴は皐月の言葉を待っていたようで、二人の写真はスムーズに撮影できた。その流れで、華鈴と真帆もツーショットを撮った。
「じゃあ、この写真を児童会のフォルダに置いておくよ。何に使うかわからないけど、すぐダウンロードできるから」
そう言いながら、隆一郎はスマホを操作した。
「ところで飯田君。児童会室に何しに来たの?」
「それは部屋の中に会長がいたから、何か仕事でもしてるのかなって思って覗いてみたんだ。でも、児童会の仕事じゃないみたいだね」
「実行委員の期間中は副会長に児童会のことを全部任せちゃって、悪かったわね」
「大丈夫。児童会の仕事なんて何もなかったから」
そう言うと、隆一郎は児童会室から出て行った。隆一郎の言う通り、今撮った写真はすぐにダウンロードができるようになっていた。
真帆は三人で写った写真をタブレットに取り込み、ドキュメントに張り付けた。これで議事録が完成した。
「これをプリントアウトしたら、修学旅行実行委員会も終わるね」
真帆が寂しそうにつぶやいた。自分から書記を買って出たり、議事録を作ると言ったり、実行委員に一番思い入れがあったのは真帆かもしれない。
皐月は真帆のことをこれまで恋愛対象として見てこなかった。だが、委員会で真帆と関わったことを思い出すと、好きになってしまいそうなことが何度かあった。真帆とのつながりをこれで終わらせたくない。
「水野さん。委員会が終わったら、俺のこと何て呼んでくれるの?」
「藤城」
「呼び捨てかよ!」
「だって藤城は会長のこと、呼び捨てにしてるでしょ?」
真帆が声を上げて笑った。皐月も華鈴も驚いて真帆を見た。二人ともこんな真帆を見るのは初めてだった。
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