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効率化する世の中で、非効率に生きる

「ザ・ゲーム」という本がある。副題に「退屈な人生を変える究極のナンパバイブル」とあり、裏面の帯には「モテるために必要なのは金でも、ルックスでも、名声でもない」と書かれていたら、金もルックスも名声もないのに、モテたい僕としては、興味をそそられない理由がない。

しかし、この本は600ページ以上ある。

物書きであるけど、面倒は避けたい僕はできることなら簡単なノウハウを知りたいタイプである。そこで要点を掴む方法を考えてみた。

というのは、本には構成というものがあるからだ。簡単に言えば、「起承転結」か「序破急」である。私的な考えでは、小説は「起承転結」が採用されることが多く、これが映画になると時間と演出の関係かもしれないけど、展開が早く、エンディングは急激で唐突になる「序破急」が多い。ので、小説や映画は最初から最後まで見なければストーリーを理解することができない。

一方で実用書には違う構成が採用されていることが多い。アメリカのセールスレターの流れやマーケッターの神田昌典氏が提唱している「P A S O N A」の法則に沿った構成がなされている。

具体的には、「問題定義→煽り→解決策→絞り込み→行動喚起」というもので、ノウハウを知りたいなら、中間部分(解決策)を読むとおおよそ分かる。例外は海外の実用書で、やたらと解決策の部分が長い。「ザ・ゲーム」も例外ではなく、ノウハウの部分だけでも日本のビジネス書2冊分はありそうだ。

ということで、僕は全部を読んでないのだけど、その理由は導入のノウハウで挫けたからである。挫けた箇所は「ターゲットを見つけたら、3秒以内に声をかけろ」というものだった。

正直、無理。ということで、途中で本は投げ出してしまったのだけど、読み物としてはおもしろい。

それだけではない。登場人物は高額な料金でナンパワークショップを開催しており、人気もあるようなので、ノウハウの質も高いのだろう。

ところで、何が言いたいのか?と思う人もいそうなので、話を整理する。僕は効率的(簡単に)モテる方法を知りたいのだけど、その方法を伝えている人は試行錯誤(非効率)の末にノウハウを構築しているということである。

昨今、何事も効率化を求められる。ニュースはもちろん、ドラマや映画を2倍速で見る人が増えているらしい。一方で、2倍速視聴には作品の味わいがわからなくなるという指摘もある。脳科学的にも、「動き」と「言葉」だけで作品を追うと、筋書きはわかるものの、表情の変化や言葉と言葉の「間」を感じ取れなくなるので、非言語コミュニケーションに支障が出るとも言われている。

このような現象に求められるのは、等倍で見ることを推奨するのではなく、2倍速を肯定するのでもない。等倍と2倍速で同じ作品を見て、違いを紹介するということであると思う。

ストーリーを理解した人に、「あのシーンは等倍で見ると深みが分かる」ということを教えるのである。

こうした情報配信は、等倍と2倍速で作品を見る必要があるので、1.5倍の時間がかかる。非効率ではある。しかし、2倍速視聴をしている人に「感情を読み取れなくなるので等倍で見よう」と促すよりも効果的ではないかと思う。

世の中は、どんどん効率化の方向に進んでいくことが予想できる。一方で非効率な生き方を楽しんでいる人に脚光が当たることもあるだろう。

効率化が進むほど、世の中は非効率に生きる方法を渇望するようになる。人間とはバカバカしいほどに矛盾に満ちた生き物なのである。

では、効率化する世の中で、非効率に生きるとはどういうことか?

それは、「やってみなければわからないことをやってみる」ということである。誰もが効率的に正解を知りたい世の中で、正解がわからないことにチャレンジしてみる。まずはやってみる、すると、失敗をする。またやってみると失敗する。そのうちに、できたとしたら、それはとてつもなく大きな財産になる。

ということで、僕は街角をあきらめ、「ザ・ゲーム」のノウハウを婚活アプリで使ってみた。条件に合う人を検索してみて、良さそうな人がいたら、3秒で申し込む。ほとんどは無視をされるが、それもノウハウの積み重ねである。

金もルックスも名声もない50代の男でも人生を楽しむコツがあるとしたら、「やってみなければわからないことをやってみる」ということになるだろうか。

僕は効率的に生きようと思うのだけど、非効率のこともたくさんやっている。人生に失敗はある。しかし、失敗で終わらせなければ人生の楽しみは続くのである。


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