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腰抜け婚活談義 | 川崎からでられない男 #2

NO MESSAGE NO LOOK.


職場のお昼休憩中に婚活アプリを立ちあげた。
20代後半の男女が微笑みあうイメージが
現れてふわりと霞のように消えていく。
日程の予約入力画面が表示される。

「〇月〇日(月)19:00〜」
「〇月〇日(火)19:00〜」
「〇月〇日(水)19:00〜」
「〇月〇日(木)19:00〜」


このアプリ最大の魅力は
「必ず週1回出会える」ことに尽きる。
事前入力した希望条件をAIが学習し、
希望日に最適な相手を紹介する。
希望条件は顔の好み・身長やスタイル・年収など
よくある指定から趣味や結婚希望の有無、
女性が働くことへの理解があるかどうかなど
結婚を前提とした相手探しを想定したサービス設計で使い勝手もいい。
結婚相談所のように仲人さんはいないけれど、
AIが代わりに間を取り持ってくれるような感覚だ。
「押しつけがましいアドバイスに疲れた」
「相談できる人がいない」など、
客観的な意見を聞きたい人にとても良い。

出会う前にわかる情報は
年齢・身長・仕事など簡単なステータスだけ
顔写真や詳細なプロフィールは存在しないため
先入観なく相手と出会うことができる。
アプリで会えるかどうかもわからない相手に
1から10まで似たようなメッセージを
複数人にくり返し送ることにやるせなさを感じて
つかれ果てた男女が惹かれる売り文句が
「必ず週1回出会える」である。
顔がわからない相手と会うリスクがあっても
この言葉は魅力的だった。

はじめは休日に予約して何人か会ってみたけれど
今ひとつピンとこないし、次につながらない。
最初から理想の人と出会えることなどない、と
頭でわかっていても焦るのが婚活の怖いところ。
恐怖は人を動かす原動力になるんだと知った。
華子は出会う確率を上げるために平日夜を選んだ。
仕事終わりで疲れた状態。知らない男性と会えば、
すごく気疲れするだろう。わかって予約した。
心の底の底から「めんどくさい気持ち」がこみあげて
「やめたい」と頭をよぎり、ぐっとこらえる。

予約したところで休憩時間が終わり
華子はアプリをそっと閉じた。
仕事に戻ってパソコンに向かいながら
淡い期待と不安を抱えて、その日を待った。
予約前日12時、相手のステータスが公開された。

〇月〇日(火)19:00〜
【相手のプロフィール】

  • 年齢: 37歳

  • 職業: 不動産

  • 卒業: S大学

  • 年収: 600~800万

  • 身長: 175㎝

  • 出身: 神奈川県

  • 兄弟: 長男

  • お酒を飲む

仕事は一人前でも
「人を好きになるってなんだっけ」な33歳。
恋愛レベルは小学生のとき大好きだった
漫画雑誌「りぼん」程度である。
一般的な恋のアドバイスは通用しないのだ。
はあ、どうしてこうなった。
これから華子の婚活1000本ノックが始まる。



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