シナジーからとらえた新しい法概念
名前は聞いたことがあるけれども、
中身はよく知らないということはよくあることです。
マズローという名前も、
よく見かけることはありましたが、
その著作を読んだことはありませんでした。
見かけるときは、
欲求階層説や欲求5段階説と言われる
ピラミッド型の図とほとんどセットになっていて、
また出てきた、という程度の意識しかなかったのですが、
インテルのCEOであったアンディ・グローブの本をよんだとき、
マズローの本を単なる教科書的な説明としてでなく、
しっかりと読み込み、
実際の経営に活かしている人がいるんだなと感じました。
それが一つのきっかけともなり、
マズローの本をいくつか手にしてみました。
実際に読んでみると、
その世界観、志向性、人間性に直接触れることができ、
どういう時代に、どういう人たちの影響の中で、
生きていたのかを感じることもできました。
新しい視点を得ることができ、
やはり、自分の目で見てみることは大事だと思いました。
『完全なる経営』の中では、
マズローが「シナジー」に関心を寄せているのが
印象に残りました。
「だれかがより多くのものを所有すれば、
別の人間のの持ち分は減少するというのが一般的な見方であるが、・・・・
自己の利益の追求が、当人の意思とは無関係に
他者にも利益をもたらす」ような組織はありうると述べ、
進歩的な経済活動のためには
一人の利益が全体の利益となるようなシナジーの仕組を
整えることが第一条件となるなどとも述べています。
法律家としては、
次のような記述が目にとまりました。
「シナジーからとらえた新しい法概念は
裁判という決闘の場で、
弁護士と検察官が正義や真実といったものには
いっさい顧慮せず、
決められたルールの下でひたすら勝利を求めて
争うという現行の法概念とは対照的なものである。
シナジーにより満ちた社会でも、
弁護士や検察官などが存在することは
まちがいないだろう。
だが、両者はそのような社会によりふさわしく、
より適合した存在になると考えられる。
つまり、双方の依頼人のために全力を尽くし、
勝訴を求めるだけでなく、
関係者全員の利益のために
正義と真実を明らかにするという、
より大きな義務をしっかりと担う存在となるのだ。」
一方のみの利益の追及という枠組みから、
双方・全体の利益というものへの着目を
示唆しているように思われました。
何かの紛争が生じた場合には、
取るか取られるかという
対立的な側面があることがほとんどで、
シナジー型の解決は、現実には、
今でもそう簡単に実現できるわけではありません。
ですが、
『完全なる経営』が出版された1960年代の後、
交渉学や、競争と協調の理論などが発展しており、
シナジー型の解決を目指すための
理論的、技術的な材料は増えていると思われます。
よりよい解決とは何か。
少しずつでも探求を続けたいと思います。
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