音楽と〇〇の話:第2回「ドヴォルザーク/交響曲第9番「新世界より」 第4楽章」
はじめまして、の方も
毎度おなじみ、の方も
おひさしぶり、の方も
おはようございます。
こんにちは。
こんばんは。
スパイクでございます。
前回の投稿から
「音楽とボクシング」にまつわる話を書き連ねております。
https://note.com/yas_spike_tyrus/n/n1e811546bf8f
(といっても前回よりだいぶ間が空いてますが)
今回はその2回目。
御紹介する曲は
「ドヴォルザーク/交響曲第9番「新世界より」 第4楽章」
です。
https://www.youtube.com/watch?v=yH_tdUQ8EZ8
2回目にして音楽のジャンルはクラシックへ。
ジャズ、ヘビメタと肩を並べる世界三大敷居の高い音楽ジャンル(※1)ですが、
今回こちらの曲についてお話ししてみようと思います。
とはいえ楽曲に対する歴史的背景や後世にどのような影響を及ぼしたのか等の情報は一切ございません。
言ったでしょ浅く広いって。
おそらくクラシックを普段聴かない、音楽は聴くけどクラシックが自分の中のメインストリームではない、という方でも
ベートーベンの「運命」に勝るとも劣らない有名な曲の始まりではないかと思います。
「あ!このイントロ聴き覚えがある!
…ん~、そうだ!あの!サメが出てくる映画のやつ!!!」
https://www.youtube.com/watch?v=ZvCI-gNK_y4
惜しい。非常におしいですよ。
確かに似てるんですけどね。
そうです。映画『ジョーズ』にそっくりのイントロ(※2)を持つあの曲です。
そしてこの勇壮なクラシックの名曲を入場曲に使用していたボクサーは、
元日本ライト級チャンピオン
元東洋太平洋ライト級チャンピオン
元WBC世界ライト級1位
坂本博之選手です。
https://www.youtube.com/watch?v=3bv3mRtd9SE
プロデビュー以来、持ち前の強打と果敢なインファイトを武器にノックアウト勝ちを量産し、
「平成のKOキング」「和製ロベルト・デュラン(※3)」などの異名を持った名ボクサーでした。
恵まれた骨格に鍛え抜かれたパワーが高次元でミックスアップされた姿はさながらギリシャ彫刻。
そして特筆すべきはその「拳」でした。
実は昔、現役時代の坂本選手と握手をさせて頂く機会がありました。
私自身初めてプロボクサーの方と握手をしたのが他でもない坂本選手だったのです。
後楽園ホールで別の選手の試合を観戦中、会場に坂本選手を発見。
緊張しながらも握手をお願いしたところ、物静かながら快く応じてくれた事を覚えています。
そしてウキウキで握手をしたのですが、
「人の手(拳)ってこんなにデカかったっけ…?」
と驚愕しました。
普通握手って、ある程度むこうの手が自分の手の中に収まるじゃないですか。
全っ然収まらないんですよ。
確かにボクサーの拳って、度重なる練習で拳の骨の部分が大きくなったりするのは知ってましたよ。
それにしたって、です。
そして固い。デカい上にゴツさが半端ではない。
この場を以て嘘脚色一切無しで言わせて頂きますが、
何かこう、
「鈍器のようなもの」(※4)
という表現はこういう時の為に使うのでは
とすら思えました
なるほどボクサーの拳は凶器足り得る、喧嘩に使ってはなるまいぞというのも納得です。
「ありがとうございました!応援してます!!」と伝えその場を離れて暫く経っても手の震えは止まりませんでしたが、
その震えは憧れのボクサーと握手が出来た喜びが半分、
もう半分は
「あんな拳でぶん殴られたら、そりゃぶっ倒れるだけじゃ済まないわ…凄え…」
という畏怖の念であったと思います。
そんな拳をフルパワー且つ最短距離で相手の腹や顎に撃ち抜くのです。
喰らった相手はたまったものではありません。
そんなこんなでバッタバッタと相手を薙ぎ倒していく坂本選手が入場曲に使用していたのが
「ドヴォルザーク/交響曲第9番「新世界より」 第4楽章」なのです。
前述に「ジョーズのイントロと似てる」話をしましたが、
実際現地観戦した坂本選手の試合でこの曲が流れると
「ジョーズwww」と、どこかしらから勘違いしたお客さんから失笑が漏れる、というシーンをたびたび目撃しています。(※5)
それでも、曲が進むにつれその曲は勇壮で耳馴染みのあるクラシックである事が程なくして分かります。
更には戦慄のノックアウト勝利でその勘違いは試合を重ねる毎に消えていき、坂本選手の代名詞ともなっていくのです。
しかし、この曲が日本のプロボクサー屈指の名入場曲たる所以はこれだけではありません。
通常、ボクシングを始め格闘技の入場曲として良いものとされるのは、
「選手の強さ、ファイトスタイルと曲が如何にマッチしているか」
に尽きるわけですが、
今回紹介している曲、選手については、例外的とも言っていい
「悲哀」の要素が加わるという側面があります。
坂本博之選手はそのハードパンチを武器に全日本新人王、日本王座、東洋王座、世界ランク1位まで登り詰めた名ボクサーです。
それと同時に
「惜しくも世界王座を掴む事が出来なかった悲運の名ボクサー」
でもあるのです。
坂本選手が世界チャンピオンに挑戦した回数は、実に4度を数えます。
1回目の挑戦は両者一歩も譲らない展開も、相手を追い詰め切れず判定負け。
2回目の挑戦は坂本選手の強打を警戒した王者陣営が執拗なクリンチ(※6)を繰り返し逃げ切られ判定負け。
3回目の挑戦は坂本選手が最も世界王座に近づいた瞬間でした。
試合開始直後の1ラウンド、坂本選手は世界王者のヒルベルト・セラノ選手から何と2度のダウンを奪います。
このラウンドが終わるまでに3度目のダウンを奪えば、あと1回相手を倒せたら、坂本選手が悲願の世界タイトルに輝くのです。
しかし、あと少し、もうわずかという所で1ラウンドは終了。
それどころか、次の2ラウンドで相手から受けたパンチをきっかけに右目を負傷し、
更に5ラウンド、その傷が深くなった所で無情のドクターストップ、TKO負けとなってしまうのです。
1度目2度目の挑戦時の比ではない、本当に「あと少し」の差で明暗が分かれた余りにも残酷な敗戦でした。
4回目の挑戦は日本中量級を代表する世界王者、畑山隆則選手との戦いでした。
随所に坂本選手が持ち前のパワーとパンチ力で挑むも、スピードと手数、更にはテクニックで終始主導権を握った(※7)畑山選手の前に10ラウンドTKOで敗れます。
その後も数試合を行うも、ついぞ世界王者になる夢叶わず引退。
あと一歩、
いや半歩、
いやいや、
あとほんの数センチ、数ミリの所で世界王者に届かなかった。
そんなボクサーであったのです。
話を本題に戻します。「プロボクサーと入場曲の話」です。
今回の曲、
「ドヴォルザーク/交響曲第9番「新世界より」 第4楽章」ですが、
序盤は荘厳かつ勇壮な進軍/行進曲然といった曲調。
しかし、45秒(冒頭リンクの動画参照)あたりから少しづつ曲の表情に変化が現れます。
仰々しいホーンセクションは少しづつ鳴りを潜め、代わって泣き叫ぶようなストリングスの音色が徐々に前に立つように。
しばらくすると
「何て哀しい曲なんだこれは…!」
と感じずにはいられなくなるのです。
そして、私自身がこの曲に受ける「悲哀」を、
この曲でゆっくりと、それでいて強い眼差しでリングに向かう坂本選手にも重ねてしまうのです。
惜しく、悔しく敗れてもなお次の戦いに向かおうとする姿に。
そんな選手のバックグラウンドと曲の持っている空気のシンクロが
今回この曲を題材にした最大の理由です。
ことクラシックの超有名曲であるが故に、TV番組やCMでも耳にする機会は多いのですが
いまだに坂本選手のファイトが頭に浮かんで、背筋が伸びてしまいます。
さて今回はこのへんで失礼します。
気が向いたら、と言っておきながら
すべての曲を紹介し終わるまでにどれだけかかるやら。
一応気にしてはいるんですよ。ではまた!
(※)解説
(※1)ド偏見です。
(※2)ちなみに映画『ジョーズ』監督のスピルバーグは最初あのテーマ曲にするのは乗り気ではなかったらしいですね。「冗談かと思った」だそうで。
(※3)1970~1980年代に活躍したパナマの伝説的ボクサー。「石の拳」の異名を持つ。ガッツ石松と戦った事でも有名。知らなくても注釈あればOK牧場。
(※4)鈍器のようなものってそれもう鈍器じゃないんですかね。バールのようなものはバール以外に何かあるんですかね
(※5)少なくとも後楽園ホールで2回はその現場に遭遇してます。ウケ狙いと勘違いしたのでしょうか…
(※6)必要以上に腕を絡ませたり、組みついたりして相手にパンチを打たせない戦術。でもやりすぎると減点されたり卑怯者とブーイングされたり。
(※7)ここまで書いておいてなんですが、畑山選手も大好きなボクサーです。件のタイトルマッチはどちらも負けて欲しくない複雑な心境でした。
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