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SVB破綻!CEO死の72時間

こんにちはやす( @YasLovesTech ) です。みなさんご存知の通りシリコンバレーバンク(以下、SVB)が破綻しました。もっと早く私も情報を出せば良かったのですが、運悪く出張も重なっており、なかなか書く時間が取れませんでした。

私の本業はVCなので、今回SVBの件はガッツリ巻き込まれました。最終的には預金が保護され、ことなきを得たのですが、SVB騒動に巻き込まれたVCやスタートアップは本当に壮絶な72時間になりました。日本からだと、その雰囲気はなかなか伝わらないと思いますので、今日はそれをドキュメンタリー風に伝えようと思います。これらは私が実際に72時間の間に、他の投資家やスタートアップと直接話したりした内容をまとめたものです。

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破綻の経緯は、色々なところで取り上げられてるので省きますが、こちらのTwitterでの翻訳がわかりやすいかと思いますのでこちらをご覧ください

9日木曜日13時

ニューヨークのとあるスタートアップは13時にVCから1通のメールを受け取った

「シリコンバレーバンクから預金を引き上げることを検討した方がいい」

記憶が正しければ、この時はまだ情報がパブリックになっておらず、インサイダーで出回っていた情報だ。CEOは半信半疑ながら、他の関係者にも連絡を取ってみるが返信はない。少し時間が経ち15時。

「さっきのはなんだったのだろうか。けど念の為少し預金を引き出しておこう」

CEOは半信半疑ながらもSVBのウェブサイトを開いた。異常はすぐにわかった。サイトが異常に重いのである。全てを悟った。CEOはイラつきながらも1時間試みるが、送金指示を出すことはできなかった。この時すでに取り付け騒ぎは発生していたのだ。ニュースサイトを見ると、SVBが緊急で資金調達を検討しているという一報が出た。この時すでに株価も-60%だ。

時は18時、サイトが若干軽くなり、ようやく送金指示が完了した。しかし、この軽くなったという意味はすでに時すでに遅しだったのである。インサイダーの情報を受け取った一部の大手VCが一斉にSVBからお金を引き上げるように投資先に指示をしており15時までにそれらが集中していた。後で明らかになるがこの時すでにSVBは息絶えていた。この1日だけで$42B(5.7兆円)もの預金が引き出された。総預金が$170Bほど言われるSBVにとってこの預金引き出しは致死量を遥かに超えていた。

一旦、木曜日の営業が終わり今日中に取れるアクションは無くなった。それでもスタートアップとVCは慌ただしく動いていた。木曜日の夜にも関わらず出遅れたスタートアップへのVCからの出金指示が相次ぐ。この時にすでにSVBの命運はほぼ決まっていた。のちに、FDIC(米連邦預金保険公社)によって銀行は閉鎖されることになるが、おそらくこの時にすでに決まっていたのだろう。

10日金曜日9時

今日は雇用統計の日だ。本来なら1ヶ月の中でも重要イベントの一つに間違いない。ただ、今日だけは刺身のタンポポ並みに意味のない指標となっていた。インフルエンサーは意気揚々に「雇用強い!失業率悪化」とPV稼ぎに勤しんでいた。しかし、今日の主役は雇用統計では全くない。

CEOは落胆していた。昨日出した送金指示は「Processing(実行中)…」のままだったのである。そう間に合わなかったのだ。もうSVBの体力はゼロだ。にも関わらず、VCから連絡を受け、手遅れたスタートアップの出金指示が一斉に始まる。

FDICの動きは早かった。午前中に早々にSVBの操業停止を決定する。先述したとおり、すでにSVBの運命は木曜日に決まっていたのだろう。念の為、金曜朝一の様子を見たわけだが、SVBへの容赦ない死体蹴りは止むことはなかった。これ以上の被害拡大を防ぐべく、即断で操業停止したのだ。おそらくこの判断は正しかったであろう。もし、停止してなければ更なる被害拡大もありえるし、何しろリスクを抱えたま週を跨いでしまうので停止するしかなかった。

FDICの今後の対応も不思議なくらい早く出た。15時くらいには出てただろうか。各口座につき$250k( 3000万円ほど) までは保険で保護され、それ以上の金額は月曜日にアップデートするとのことだった。

スタートアップもVCも青ざめた

10日金曜日18時

本来であれば、今日はハッピーフライデーだ。全米各地で気温が20度を超ええるような春の陽気。17時に仕事終え、同僚とバーに行くところだが、今日はとてもそれどころじゃない。スタートアップもVCも今後の対応策を議論していた。

状況はかなり悲惨である。なんたって、昨日まで口座に存在してた数十億円が一瞬にして3000万ほどになったのだから。実際に、私が見聞きした限りでも全体の5割くらいのスタートアップがSVBと取引をしており影響を受けた、3割ほどは運用資金をほぼ全額SVBに突っ込んでおり、$10M(約13億円)、$20M(約26億円)を口座に入れていたなんてザラである。VCの方も無傷では済まない。おおよそ2−3割のVCだろうか、スタートアップより数は少ないものの投資資金をSVBで運用していたところも少なくない。中にはファンド資金の2-3割をロックされたVCも存在したようだ。

参考までにこちらが、SVBに資金をロックされた企業の上位9社である。これらは発表があっただけで、被害はもっと大きいかもしれない。1位のCircleは飛び抜けているが、仮想通貨のUSDCという通貨を運用する会社で1USDC=$1で固定する(ドルペッグ)ためにSVBに多額の現金を入金していた。おおよそ全体の2、3割だったらしいのだが、USDCの価格も綺麗に2-3割ほど下落した(今は回復してる)

11日土曜日10時

今日も暖かい春の陽気だ。長い冬が終わり、家族とどこかに行こうかという雰囲気だ。アメリカのAustinという街では全米でも屈指の規模のテックイベントSXSW(サウスバイサウスウェスト)で春を祝っていた。このイベントは全米そして世界からテック関係者が集まる。しかし、話題はSVBの件で持ちきりだ。SVBに関係ないものは酒を飲んで笑っているが、SVBに巻き込まれたものは気が気でない。SXSWのイベントにも急遽SVBのセッションが差し込まれたほどだ。(私もせっかくSXSWに出かけたのに午前中のアポをキャンセルして事後対応に追われていた)

CEOは土曜日も忙しく働いていた。

「クソッタレが!」

SVBの資産が比較的安全で、流動性の高い債券が中心というのはニュースで報じられていたが、実際のビジネスとなると楽観論で月曜日を迎えるわけにはいかない

(この辺りの雰囲気は特に日本での反応と最も乖離があったと感じます。日本ではすでにSVBのB/Sを見る限り大丈夫など楽観論もあったけど実際のビジネスは違う)

昨日まであった数億円のお金が月曜日には3千万円になっているというのが現時点での確報だ。差し迫った、直近の課題は次の給料日である。米国はBI-Weeklyと言って2週間に1回給与を支払うシステムを採用していることが多い。次の給料日は17日だ。14日までにペイロールの会社に振り込まなければ給与が支払えない。払えなければ従業員をリストラするしかない。CEOはなんとか次の給与を支払いすべく短期的な事業プランを練り直した。

「これを売れば500万円になる」
「この休眠口座には100万円残ってる」
「この支払い先には事情を説明して支払いを伸ばしてもらおう。流石に理解してくれるはずだ」

ふぅ、これでなんとか1ヶ月分くらいはなんとか生き延びれるかな。CEOはなんとか色んなところから文字通り細かいお金を集め1ヶ月の運転資金の道筋をつけた。1ヶ月あれば、最悪の場合はその間にローンを組むか、新たに株式で資金調達をするしかないな。そんな時、知り合いのスタートアップのCEO仲間から電話が入った。

「お前のところはどうするんだ?うちは短期でローンを組むことにした!」
「うちは資産を整理して、なんとか1ヶ月は生き残れそうだから、あとは月曜日の発表を待ってみるよ」

どうやら知り合いのスタートアップは最悪の事態に備えて2億円のローンをVCから借りる手筈を整えてるようだ。2億円のローンを借りつつ時間を稼ぎ、最悪の事態は株式で資金を調達するようだ。さすが手練れの起業家はこういう時の危機管理がしっかりしてる。

とあるVCのパートナーも今日ばかりは忙しく動いていた。天気もいいし、今日はワイフとお気に入りのワイナリーに行く予定も急遽キャンセルした。VCも企業形態としてはファンドであるので、彼らは投資家(LP)からの問い合わせに忙殺されていた。

「SVBの影響はあるのか?」
「ファンドのお金は大丈夫か?」
「投資先はどれくらい影響受けてるのか?」

ファンドへの投資家(LP)も当然必死だ。彼らも10億・100億お金を預けている中で、その資産が1割-2割減損することを覚悟せねばならなかった。中には公開企業もいるので、減損となれば次の決算で報告せねばならない。もし破綻すれば、こういった形でも少なからず影響があったであろう。

12日日曜日13時

CEOはVCと今後について協議していた。

CEO「うちはとりあえず資産を整理して1ヶ月ほどはなんとかなりそうだ」
VC「そうか、それはよかった。最悪のケースうちも数千万資金を出せるから、月曜日最悪の事態になったら、他の投資家と合わせて1億円ほどのローンを直ちに組もう」
CEO「ところで聞いたか?月曜日には預金の5割が回復するという噂を聞いた」
VC「それはうちも聞いた。資産整理がうまくいってるらしいな。良いニュースを待とう」

日曜日の午後になるとどこから情報が漏れたのか、月曜日にはある程度の資産が回復するらしいという情報が出回っていた。

12日日曜日17時

ついにその時が来た。CEOはVCから一本の電話を受け取った

VC「おい!聞いたか!預金は全部返ってくるらしいぞ!」
CEO「ほんとか!これで今夜はぐっすり寝れるな」

VCから送られてきたメールのリンクを開くと、FEDと政府が共同声明でSVBの預金は全て保護し、月曜日からアクセス可能という発表があった。CEOは胸を撫で下ろした。

「やれやれ、飛んだ騒ぎだったな」

おもむろに冷蔵庫をあけ、お気に入りのBrooklyn lagerの蓋を開ける。お気にいりの地ビールだ。そういえば、昨日(土曜日)は娘の誕生日だったな。娘の誕生日を忘れるほど忙殺されてたのである。お詫びのプレゼントは何にしようかと考えながらキンキンに冷えたビールを喉に流し込む(最もキンキンに冷えたビールは日本の文化っぽくてアメリカでは普通の冷えたビールが主流すね)

後書き

ここまで読んでいただきありがとうございました。本当に壮絶な72時間でした。日本からだと、遠い国の銀行が破綻し、あまり実感のない話だったかもしれませんが米国のテック業界が存亡に立たされる出来事だったのは間違いないありません。

基本的に内容はここで終わりです。もしここまで読んでいただいて記事良かったと思っていただければ何卒当アカウントへのフォローとこの記事へのライクをいただければ励みになります。

ここから先はこの事件を受けて、「なぜこの事件が起きたか」と「もし預金が保護されなかった」という点について簡単な考察を書いていこうと思います。特に重要な内容ではないのですが、この記事がよかったよとか、いつもありがとうと少しでもと思っていただければ300円ほどの支援をいただければ今後の記事の励みになります。考察は本当におまけです。

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