あいつ、アイス的に踊る(4)
(4)
とはいえ、上官は吉田をそれほど責めなかった。
上官と同様に、ほかの船員たちにおいても、吉田を非難さえせよ、詰問して追い込むようなことはしなかった。
『そうすることで、新たな食料が目の前に出現するわけではない』という諦観的思考が、船員全員に宿っていたからである。
それは、長い期間、制限的な海上生活を余儀なくされた船員たちにとっての、カントリーソングのリズムビートのような自然解釈だった。
「吉田」上官は言った。
「はい」
「船員は12名。つまり、残りの食料が5日分ということなら、5×12で60、60人前の食料が残っている、というわけだな」
吉田は「たぶん」と答えた。
プロ意識のあまりの低さに、上官は倒れそうになった。
しかし、それに耐え、呼吸を整えて落ち着きを取り戻し、上官は次に「航海士よ」と言った。
航海士は返事をした。丸椅子に座り、両手を座面に置き、口にパイプをくわえている。
「ゴギャンポートまで、あとどれくらいだ」上官は尋ねた。
「予定だと、あと20日です」
「20日。つまり、われわれは残り5日分の食料で、次の港までの20日間を航海しなくてはならない。そうだろう吉田」
吉田は、床に目線を投げやったまま、そのあたりをただぼんやりと眺めていた。
「おい吉田。頼むから聞け。聞くんだ。俺の話を」
「え、はい」吉田は仕方なさそうに顔を上げた。
(つづく)
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