仕事ができるヤツ、と評価されるよりも可愛げ、という持ち味が捨てがたい。
仕事に限らず、周囲からできるヤツ、優秀な人と評価されて嬉しくない人はたぶんいないだろう。誰だって自分を高く評価して欲しいし会社や世間での評価は、たとえ無頓着を装っていたとしても気になるものに違いない。
確かに仕事がばりばりこなせる優秀な人物を目指すのは、間違った方向ではないが、仕事ができることより大切なものがあると、30代半ばの頃に気づかされたことがあるので、そのことを書いてみたい。
当時の私は、周囲からみたら気張りすぎて尖っていた存在だったろうと、今振り返っても笑えてしまうが、その頃の私は自分の能力をフルに発揮して頑張らねば、と気概に溢れているミドルだったのだ。そして負けん気が強く鼻っ柱の強さで仕事をゴリゴリ進めるタイプだったように思うのだ。
組織の中で上役の顔色をうかがったり、取引先におべんちゃらですり寄ったりすることが大の苦手で、零細ベンチャーの役員という弱い立場もわきまえずに、大事な取引先である上場企業の幹部たちを相手にして、持論を正論として主張し簡単に引き下がらない厄介なヤツ、と思われていただろう。
若気の至りといってしまえばそうなのだが、正義感というか自分の意見が相手先の企業にとって最適な結果をもたらすのだという信念が強すぎたのだ。
その相手のためという大義名分を、必死で押しつけようと頑張っていたね。
今ならあんな交渉ごとはしない。もっと相手が聞き入れやすい環境を整えてから、相手主導で決めたことになるよう根回しもしただろうし、関係してくれる人たちの手柄になるようなプレゼンや、スキームを提案するだろうね。
若いときは目的がきちんと見えていなかったのだ。目的がわかっていても良く見えていなかったのだ。だから遠回りもした。余計な軋轢も生んでしまった。理解してもらえるまで時間もかかった。無駄ではなかったけど、無理があったんだよね。必死で抜きん出ようと気負っていたから、ね?
そんなある日のこと、福岡の取引先から営業部門の責任者が上京して来られることになり、大手企業の担当部門業務を請け負っていた私が対応することになり、それ以降仕事のお付合いが始ったのだ。その人をA部長としておこう。
そのときの私は上場企業の代理人という立場で、その企業の重要な取引先であるA部長との間で、業務提携を円滑に推進するという役目を負っていた。
何度となく打ち合わせを行い、何度となく一緒に食事をし夜遅くまでA部長の接待もさせていただいた。
そろそろ大詰めを迎えそうなある日、何回目かの上京で訪ねて来られたA部長が、出迎えた私と一緒のエレベーターで口から出した一言にガツンと頭を殴られた気がした。
「若いのに仕事も任せて頼りになる、あと足りないのが・・・可愛げかね?」
この言葉を聞いた私は
「可愛げってなんだ?いい年した大人だぞ!女性じゃあるまいし・・・。」
そう瞬時に思ったのだが、気を取り直して聞いてみた。
「そうですか?可愛げって、意識して出るもんですかね?」
するとA部長は答えてくれた。
「そうね、出ないね!君の場合、もっとドジ踏んで思いっきり恥をさらさないとムリよ!」
そこから密かに自問自答する日が始った。
いろいろなことを考えてみた。
ずいぶん経ってから気がついたのだが、完璧に仕事を仕上げることに気が向きすぎで、自分だけでなく周囲の仲間にも厳しい目を向けていることに、やっと気づいたのだ。自分は失敗してはいけないという思いが強すぎて、仲間を信じて頼り切るという姿勢に欠けていたのだ。
それからは自分の失敗も人の失敗も笑える余裕が出てきて、和やかに仕事ができるようになってきたのだ。仕事も大事だが一緒に仕事する仲間や取引先はもっと大事だと思うようになった。
そう、自分の仕事は自分だけでやる必要はなかったのだ。みんなの助けを借りるともっと成果が出せる、そう気がついた。一人でいくら頑張ったところで高が知れているが、チームワークで出せる力は何倍もの成果を出せるのだから、みんなをもっと頼るべきだったのだ。
何年か後になって福岡のA部長に、そのときのお礼を言いに行った。
大勢の人に見送られての悲しい別れのセレモニーで、遺影に向かって手を合わせながらつぶやいた。
「A部長・・・ありがとうございました。あのときの忠告は忘れません。可愛げはどうだかわかりませんが、ドジはたくさん踏めるようになりました。」
最後に会ったときのA部長を思い出すと、声がかすれて言葉を出すのも辛そうだった。50代の若さでこの世を去ったA部長のおかげで、私はドジを踏むことさえ自分らしいと受け入れられるようになったのだ。
A部長、あなたに会えて良かったとしみじみ感謝しています。
これからもずっと見守っていて欲しいと、心からそう思うのです。合掌
ということで、仕事ができるヤツを目指すのもいいけど、可愛げを捨てちゃダメだよ!おんなじような目に遭うよ!
では!
今日も のほほん。