『桜島燃ゆ!破邪の闘いのプロローグ』~甦る西郷、奔れ東へ!~
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西郷隆盛は生きていた。国家安泰の密約を交わした盟友、大久保利通暗殺に隠された邪悪な陰謀を暴き、討て!
<あらすじ>
明治新政府のため西郷隆盛と大久保利通は、密かに誓いを立てて盟約を交わす。西郷の護衛役伊集院史朗はその盟約に立ち会い、西郷から大久保の護衛役を厳命される。
西南戦争終結の城山で西郷は、密勅に従い偽名を使い桜島で新たな生活に入る。西郷が見守る新政府の基板も固まるかという大事な時に、大久保が暗殺されてしまう。
西郷は大久保暗殺の裏に隠された陰謀を察知し、御劔龍玄として腐敗し始めた新政府の闇を一掃しようと、同士を結集し邪悪な陰謀との闘いを決意する。
死んだはずの西郷が大久保との盟約を果たすために、御劔龍玄として新政府の浄化と国家安泰の誓いを立て闘いを挑む。裏切りと陰謀が絡み合い新たな歴史が動き出す。
<第1話>
時は明治。維新後の国家安泰と富国強兵のため、薩摩の西郷隆盛とともに明治維新を駆け抜けてきた大久保利通が、ある屋敷を密かに訪れた。
大久保が訪れたのは、新政府にあてがわれた西郷隆盛の屋敷。極秘に訪れた大久保と西郷の密談は数時間に及んだ。
「西郷さん、廃藩置県で燻っちょる全国各地の旧幕臣たちが、侍の地位を奪われたと騒ぎ不穏な動きを見せとるのだ。何とかせんといかんが」
密談の要点は、まだよちよち歩きの新政府を転覆させる危険をはらむ旧幕臣らの暴発対策だ。
「俺が幕府を倒す役割は終わった。あとは、一蔵どんの出番じゃ。俺は暴発寸前の不穏分子たちを引き受けもんそ」一蔵とは大久保利通の若い頃の名前である。
「よかか。一蔵どんは新政府の基礎固めをして、新しい国家を早急に造りあげてくれもはんか」そう言って大久保の返事を待つ。
「うん。わかった。で、西郷さんはどげんするつもりな」
「俺は、暴発の導火線にならんごと、跳ねっ返りどもを引き連れて鹿児島に戻いもんそ」
「西郷さんが鹿児島に戻っても、連中の滾ったビンタは変わらんど」
「戻って吉野の荒れ山でも開墾させて、汗と憤懣を吐き出させよう思うちょる」
「じゃっどん、もし暴発したらどげんする」なおも不安そうに食い下がる大久保に
「そんときにゃ、仕方がごわはん。一暴れさせてから、俺が引き連れて行っもんそ」と西郷はにっこり笑って、人差し指で天を指さす。
その仕草に驚いた顔で
「そしたら、征韓論を言い出したのも、そんためじゃったのか」身を乗り出した大久保に
「じゃったが、やっせんかった。無理なごり押しも見破られて、頓挫してしもうた。そん代わりに、いよいよやっせん時には、俺がみんなを引き連れて、暴発予備軍の不満分子を大掃除するつもりじゃ」大きく頷きながら言葉もない大久保に向かってさらに言う。
「じゃっから一蔵どんには国家造りを任せた。新国家の邪魔になる勢力の大掃除を俺が引き受ける。立場は異なるとも天皇陛下の御心に叶うようここに誓って盟約を交わしもんそ」そう語りかける西郷に
「わかった。そこまで西郷さんが決めたのなら、もう何も言わん。西郷さんの思うようにしやんせ」大久保は西郷を見つめて何度も頷く。
「一蔵どん、俺は、反逆者たちの頭領にまつりあげられるかも知れんが、そいも一つの計略じゃと、心得とってくれんか」
「うん。わかっちょる」腕組みして目を閉じた。
<第2話以降>
伊集院史朗は二人の盟約の場に立ち会った。西郷の側近として護衛役を務めていた史朗は、その場で西郷から両刀を譲られ命じられる。
「史朗どん、お前は今日から一蔵どんを護れ。一蔵どんを護るのは新国家日本を護る事と心得よ」そう命じると、陛下から賜った軍刀拵えの両刀と剣箱に納められた刀を史朗に託し、国家安泰のために働けと厳命した。
「この一命を捨てて」護ると誓い、史朗は大久保の護衛役になった。
この後の顛末は、歴史の通りである。
明治11年、大久保の命を受けた史朗は鹿児島にいた。夜陰に紛れて桜島に向かう伝馬船に揺られつつ、史朗は回想する。
ーー史朗の回想ーー
西南戦争終結の地、城山に立て籠もる薩摩軍に対し、政府軍は降伏勧告の使者を立てた。
内務卿大久保から「絶対に西郷を死なすな」そう厳命された史朗は、大久保からの密書を携え西郷助命の計略を県令の大山綱良と密談し策を練る。
政府軍の幹部たちも城山の薩摩軍も、ともに薩摩人だった。
直前の戦闘で戦死した元相撲取りの首を隠し持ち、史朗は降伏勧告の使者団に加わった。
降伏せずば総攻撃の前日、政府軍の楽隊は哀調感漂う惜別葬送曲を演奏し続けた。
その演奏の中、使者団は城山の洞窟に西郷を訪ねた。
「西郷さん、もうあとは任せったもんせ。立派に役目は果たされもした」そう説得する史朗に
「いや、史朗どん。ここで止めると画竜点睛を欠く。終いまで踊らせったもんせ」
「いや、それはないもはん。ここでどうかご決断を」
「いや、そげんわけにゃいっもはん。最後の始末をつけんと」
「いいや、それはないもはんど」の説得が続く。
ついにたまりかねた史朗が、懐から封書を取り出す。
「西郷さん。いよいよ説得できんなら、これを読ませろと内務卿から預かって来もした。読んでたもんせ」と封書を渡す。
渡された封書を読み始めるやすぐに、封書を押し頂き頭上に高く持ち上げ頭を下げる。
その封書は密勅のお言葉であった。内務卿が天皇のお言葉を封書に託してよこしたのだ。
落涙した西郷は大きく項垂れる。隣の別府晋介が、泣く西郷が膝の上で握りしめている封書を手に取り、目を通す。
「西郷どん、密勅とあらば是非もあいもはん。討ち死にでも、降伏でもなくこっから落ちてくいやんせ。あとは引き受けもんそ」別府が西郷の身体を揺すり訴える。
すると「晋介どん」と史朗が別府に合図し、西郷の元を離れる。すぐに別府も後に続く。
「身代わりの首を持参した。使うてくれんか」史朗の意図を汲み取った別府は
「わかった。ここを、西郷どん終焉の地にしもんそ」そう言い首を受け取る。
「頼んだぞ晋介どん。西郷さんは俺が責任を持つ。あとは任せもした」別府の両肩を掴み、揺するように頼み込む。
「任せったもんせ」別府も応え事を急ごうと、茫然自失の態で泣いている西郷に、政府軍の軍服を着せ始めた。
軍服に着替えた西郷を使者団の一員に紛れ込ませて、闇の中を下山する。
戻った使者団を遠くから目にした大山県令は、おぉ! と思わず声を上げ使者団に駆け寄る。
そしてわざと周囲に聞こえる大声で
「結果を、あっちで詳しく聞かせてくいやん」と、使者団をすぐに本営の家の中に連れ込んでいく。
その様子を見た者たちも疑念を抱くが、どうやら事情を飲み込み安堵した表情で顔を見合わせ、大きく頷き合った。
家の中では手を握り肩を叩き、感涙の大山と西郷が抱き合っている。緊張感を保ったまま屋外を気にする史朗。史朗が
「大山さん早よせんと」とつぶやく。
「じゃったわい。急がんと」大山が慌てる。その場で軍服を脱いだ西郷は着物と股引姿に着替えた。
史朗が裏口から西郷を連れ出し
「念の為にいっとき辛抱してたもんせ」と荷車に乗せられ荷物の間に隠された西郷は、目立たぬように菰を被る。
二人の男たちの一人が舵棒を掴み、もう一人が荷車を押す。徒歩で従うのは史朗だ。
一行の行き先は磯海岸だった。砂浜の伝馬船に西郷を乗せ、荷車を押して来た男が船頭になり船を出す。荷車を牽いて一人は戻って行く。
西郷と史朗が向き合い、男が櫓を漕ぎ伝馬船が目指したのは桜島だった。
西郷の姓名が「大島隆元」に変わったのもこの船上である。
桜島湊に着岸すると船を舫い、提灯を頼りに陸路で桜島の山裾を進む。
やがて狭いながら開墾した畑と板葺き屋根の一軒家が現れた。そこが西郷の隠れ家だ。
家に近づくと、中から老夫婦が出てきて土下座した。
史朗が、老夫婦の肩を叩き
「こちらが大島さんじゃ。よろしく世話を頼んど」老夫婦はただ無言で頭を下げる。
「こん夫婦は耳は聞こえるが、口がきけもはん。じゃから秘密は守れます」そう西郷の耳元で囁き
「さぁ、お前らも早よ案内せんか」と老夫婦を急かす。
老夫婦は慌てて立ち上がり、家の中へと案内する。
上がり框に腰掛けた西郷の足元に、汲んできた盥の水を置き濯ぐ様子を見て「またすぐ来もんで」そう言い残すと、二人は帰って行った。
こうやって西郷は命を繋ぎ、甦ることになった。
ーー船頭の声で、史朗が回想から覚めるーー
船の船頭は1年前の男だ。男は頻繁に大島を訪ねていた。
「最近は大島さんの目に、力が戻っ来もした」語る船頭に
「そうか。それはよかった。我々の心の拠り所じゃからの」笑顔で喜ぶ。
桜島に着岸すると提灯を灯して大島の家へと急ぐ。
家の前の暗がりで大島が待っていた。
「提灯が見えたで、お前じゃろうと思ったが、史朗どんも一緒とはの」
「はい、ご無沙汰でごわす。お元気そうで何よりです」
「まぁ、入ったもんせ」大島に続き二人は家の中へ。
老夫婦が出すお茶で喉を潤す。心得顔で老夫婦が自室に籠もると史朗が話し出した。
「前の手紙で、大久保さんはご機嫌でした」
「そうか、そいはよかった」と大島にも笑みが浮かぶ。
懐から封書を取り出し
「こいばっかいは人手に頼れんので、返事を持って来もした」と大島の膝前に置く。
西郷の手紙は大島の名で史朗に届くが、大久保からは迂闊に出せないのだ。大久保の身辺を探る密偵もいて、敵対勢力が些細なことで桜島に目を付ける恐れもまだあった。
だから事情を知る史朗が、直接大久保に託された手紙を持参したのだ。
しばらく談笑して「また近況を知らしてたもんせ」と伝えて二人は辞去して行った。
だが、この桜島行きが、史朗の運命を変えた。
西郷に厳命された護衛役を果たせず、大久保暗殺を阻止できなかった。
史朗帰京の時、既に大久保はこの世の人ではなかったのだ。
大久保の指示だったとはいえ、西郷が厳命した大久保を守れずに史朗は殉死する。東郷平八郎と大島に宛てた遺書を残し、追い腹を切ったのだ。
大久保と史朗の死を東郷に知らされた大島は、大久保と交わした盟約を想い、桜島の地で、独り泣き決意した。
東郷が大島の決意を陛下に伝え叡慮を仰ぎ、その活動支援のため密かに動きだす。
大久保亡き後に大島は御劔の名を賜り、盟約を果たすべく行動を起こす。
大久保暗殺の裏に、ある者たちの陰謀が隠されていた事実を察知し、陰謀を暴き正義のために動き出す。
史朗の遺族を御劔家の家族に加え、大島隆元の名を御劔龍玄と改め、別人に生まれ変わった西郷の二度目の人生が幕を開ける。
密勅に関わる盟約を果たすため、破邪の門一派の旗揚げの刻が来たのである。