見出し画像

ひょっこり評論島

【週報】2017.08.14-20

ごあいさつ

 こんにちは、うさぎ小天狗です。
 お盆も過ぎて、いよいよ今年の夏も後半戦に入りました。みなさまいかがお過ごしでしょうか。

 以前この週報でもお伝えしましたが、今年の前半、祖母が亡くなりました。
 ですので、今年は新盆。田舎に帰って、お盆の諸々を(後半だけですが)勤めてまいりました。
 同時に、我が田舎には明治時代からあると言われている漆喰壁の蔵があるのですが、その蔵にしまってある、子供の頃の絵や作文、そうそう読まなくなったけれどレアリティが高いので取ってある稀覯本などを発掘し、ニヤニヤとお盆休みを過ごしました。


コミックマーケット92へ

 さて、お盆の前に、「コミックマーケット92」に参加してきました。
 といっても、先週の週報でコスギ・タンゲくんも書いてくれましたが、ゆんぺす=サンのサークルに、売り子としてお邪魔してきました。
 日にちは三日目、実は三日目参加は久しぶりです。『ニンジャスレイヤー』にハマって同人誌活動をするまでは、あまりコミケには参加していなかったのですが、それでも過去には何度か足を運んだことがあり、その時はだいたい三日目だったのでした(もっとも、その頃は同人誌以外の目当てがあって足を運んでいたのですが……)。
 とまれ、久々の三日目。お邪魔したサークルのブース設営準備、配布時の対応、そしてゆんぺす=サンお手製の「物理ガチャ」のオペレーションなどなど、お手伝いをしながら……実は、それ以外にもコミックマーケット参加の目的がありました。
 それは評論系同人誌! 今でこそ、「同人誌」といえば原作ありきの二次創作が一般的なイメージかと思われますが、もともと「同人誌」とは同好の士が集って作る書誌のこと。オリジナル小説や詩歌、評論なども、その中に含まれます。そうした中の、特に「評論」を扱う同人誌は、以前から、いろいろなお友達にオススメいただいていたのでした。曰く「評論系同人誌は面白いぞ」、「君が面白いと思うようなものがあるはずだよ」などなど。
 そうオススメされていると、なんとなく気になってくるものですが、諸事情あってなかなか足が向かない……そんな折のお手伝い。これを好機と、お手伝いの合間に、ふらりと「評論島」の探索に出かけたものでした。

ひょっこり評論島

 ……結論としては、お友達のオススメは正しかった! のでした。
 評論系同人誌、めちゃくちゃおもしろい!
 お料理、歴史、映画、酒、古典文学、人形、軍事、おもちゃ、電車、船舶、音楽、SF、オカルト、UFO、エトセトラエトセトラ……様々な人が、それぞれに「気になったこと」「オモチロイと思ったこと」を追求する場が、「評論島」にはありました。
 一つ一つのブースがあたかも一国一城めいた群雄割拠、その様がまずオモチロイ! そして、それぞれの作り上げてアピールしている「内容」がオモチロイ!
 というわけで、ハフハフしながら色々見て回り、少ない予算をやりくりしながら、いろいろ手に入れて参りました。その一部を、ここでご紹介しましょう!

『方言キャラクターを書きたい人向けの参考書 沖縄編』
 ……サークル「CAMEREON JOVE」http://cameronjove.web.fc2.com/)さんの新刊です。沖縄語(ウチナーグチ)の指南書で、特に台詞の書き方に特化しているため、言葉の置き換えだけでなく、用言の活用や文末表現など、文法に重点をおいているのが面白い。しっかり使いこなせばかなりリアリティある(リアルかどうかはわかりませんが……)キャラクターが描写できそうです。
 あえて難点をあげれば、右から左へ読み進める「右開き」なのに、中の文章は「横書き」であること。右開きは縦書きに向いており、左開きは横書きに向いておりますので、それらがちぐはぐになっているとちょっと読みづらい。
 でも、ある事情から沖縄語の参考書を探していたところだったので、そのニーズにどんぴしゃり! でした。
『合本 日本のいろもの古典』
『日本の珍妙古典』(R-18)
 ……『ニンジャスレイヤー』に縁あるお知り合いの修道士ペドフェチ=サンのサークル「秘本衆道会」http://hihonsyudo.exblog.jp/)による、「おもしろおかしい古典の世界」を紹介する既刊の合本と、ご本人曰くの「エロとマジキチの古典」を紹介する同人誌。
 前者は「江戸のエログッズ紹介」「江戸ショタコン事情」「変な能舞台」「『南総里見八犬伝』のキャラが女体化した自分とイチャラブする」などなど、後者は「スカトロ古典」「妖怪×男色」「ちいさなおじさん」「アーリー百合世界」などなど、知的好奇心がそそられまくりの内容となっております。
 ツイッターでフォローさせていただいて、流れてくる情報に好奇心をそそられていたにも関わらず、なかなか足を運ぶ機会がなかったのですが、ついにその時が来た! 寝しなにちまちま読んでいますが、どれもすこぶる面白く、眠くなっちゃうのが惜しいくらい……。
・『かわいいあの娘は海の底/天神橋筋の幽霊』
 ……『ニンジャスレイヤー』に縁のあるお知り合いのkidd=サンが参加されているサークル「Mizkid」https://twitter.com/mizkid_)さんの新刊は、ポストアポカリプス世界を舞台にしたSF作品集。以前『スモールトリップ/ビリケン白昼夢』『くだんはうそをいわぬ/たずね狛犬の夏』の二つの作品集を拝見して、たいそう読み応えが遭って面白かったし、ポストアポカリプスSFは大好きなのでちょっと迷ったけど配布いただきました。
 迷ったのは内容云々ではなく、「これ、前に読んだことあるかも」と思ってしまったから。前述の二作と版型が変わっていたので、「これは既刊の文庫化ではないかしらん」と思ってしまったのですが、帰宅してすぐわかりました。完全にぼくの勘違い。売り子をされていたkidd=サンにはうろんなやり取りをしかけてしまって、たいへんご迷惑おかけしました。
ジョー・ホールドマン『我は四肢の和を超えて』
 ……「日本に二度目のワールドコン(世界中からファンが集まるコンベンション)を開催しよう」を目標に、年に一度、海外のSF作家を招聘するコンベンションを行っている団体「はるこん」http://www.hal-con.net/ja/halcon_books)が発行している、海外SF作家による未訳短編の翻訳作品集は、実は数年前の「文学フリマ」でも手に入れており、その時の二冊がたいそう面白かったので、いつか続きも手に入れたいなあと思っていたところ、三日目に再会したのでした。
 以前手に入れたロバート・J・ソウヤーの人間味あふれる『見上げてごらん』、アレステア・レナルズによるポスト・サイバーパンク世代の視点が面白い『武道館にて』に続いて、今回手に入れたのはミリタリSF『終わりなき戦争』などで日本でも有名なジョー・ホールドマンの作品集。まずは巻頭の一作「血の結び付きは濃く」を読みましたが、クローン技術が社会的に認知されている世界でのハードボイルド探偵ものというアイディアを、堅実に形にしている佳作でした。残りも楽しみ!
『UFO手帖 創刊号』
 ……評論島をふらふら歩いていると、なにやらん分厚い単行本を並べているブースを発見。見てもいいですかと尋ね、快諾をいただいてぱらぱらと中身を読んでみると……な、なんだこれ。
「これはUFO好きの間で幻の名著と言われていた本の私家翻訳版です。UFO目撃譚と妖精伝説などのフォークロアの関係を考察して、UFOニューウェーブを語る上で欠かせない本なんです。その読みやすい邦訳がなんと二〇〇〇円!
 えっ? えっ? 幻の名著? UFOニューウェーブ? 何だかよくわからないけどスゴイ熱気だ……とブースの中の方のおっしゃることにクラクラしつつ、でも面白そうだな……しかし二〇〇〇円は高いな……いや、本当に高いのか? 商業出版の単行本なんてだいたいこんな金額だし、ていうかこんな本はたいてい四、五〇〇〇円はするのでは? 二〇〇〇円なんて意外と安いのでは……? と逡巡していると、
「でしたらこっちはどうです? さっきの本の作者についての特集号です。入門編にはこっちが最適ですよ」
 とのこと……か、買います! 入門します! まずはそこから初めます!
 ……てことで手に入れたのが、「Spファイル友の会」http://sp-file.oops.jp/spf2/)の既刊、『UFO手帖 創刊号』でした。「UFOニューウェーブを語る上で欠かせない本」こと『マゴニアへのパスポート』の作者ジャック・ヴァレの特集のほか、目次を見ると「UFOと音楽」、「この円盤がすごい!」、「私はゴースト、地縛霊、レコーデイング」などなど、面白そうな内容が目白押し!
 秋の夜長にベランダで、ひっそりとコーヒーでも啜りながら読みたいなと思っております。
『遊べる! 100均で買えるミリタリーおもちゃ』
 ……弊サークル「ヤラカシタ・エンタテインメント」執筆者のひとりで、当日一緒にお手伝いをしていたししジニー=サンと評論系同人誌界隈をうろうろしていると、ジニー=サンが「面白い同人誌があるんですよ」と教えてくれたのが、「版元ひとり」http://hanmoto1.net/)さんのブース。『この麻婆豆腐がすごい!』『東京コロッケWalker』『このマーガリンがすごい!』などなど、日常に根ざしたネタを、丁寧に、かつ独特の視点で特集する同人誌が目白押しでした。
 中でも特に惹かれたのがこの一冊。私事ですが、友人うさぎ宅に遊びに行くと、友人の子供うさぎと遊ぶことがあるのですが、その時のおもちゃの半分が100均おもちゃなので、100均おもちゃに興味があったのです。
 中をパラパラ見てみると、迷彩服を着てグラサンを掛けたガキン……お子様が、100均おもちゃで遊んでいるグラビアが目白押し。「このグラビア、うちの息子がモデルなんです。だから彼はこの本を『ぼくの本』と呼んでるんですよ。イベントから帰ると必ず聞かれるんです、『ぼくの本売れた?』って」と語るのは主催の版元ひとりさん。そ、そんな話をされたら買いたくなっちゃうじゃないか……!
 帰宅してさっそく読みましたが、フルカラーでグラビア満載、文章はあくまで「子供におもちゃを買い与える親の視点」で書かれており、内容のバランスが非常によくとれている同人誌でした。次は魚肉ソーセージの本も読みたいな!
『NOR6 ほんとうはおかしな童謡』
 ……今回手に入れた同人誌の中で、刊行年が一番古い一冊。奥付を見ると二〇〇六年! 十年前じゃないか!
 内容はというと、有名な童謡の歌詞を理詰めで解釈しているていで、もっともらしく嘘八百与太話を繰り広げるというもの。目次を見ると「怪談・じゃのめでお迎え」「さっちゃんの”さ”は作家の”さ”」「さっちゃんの”さ”は探すの”さ”」など、面白そうな内容が目白押しで……。
 あ、ちょっとわかったかも。もしかして評論系の同人誌の面白さをはかるバロメータって「目次」なのかな? 目次に並ぶ章題がいかに目を引くかで、読者の気を引けるのかな?
 これは弊サークルの活動にも活かせる知見かも……なんて思いながら配布いただきました。
『サルミアッキフィクション』
 ……今回のコミックマーケット92最大の強敵、「フィンランドと日本を漫画でつなぐ」をコンセプトにしたサークル「さんま雲」http://sanmagumo.info/)が送り出す漆黒の同人誌は、なめるとにがじょっぱくてマズ……いやいや、これがまた味わい深い!
 ツイッターでフォローさせていただいているこぐろうさんが、当日売り子をされる縁で、以前からツイートされているのを見かけていたのですが……いやはや、見ると聞くとでは大違い。「サルミアッキって……あのくそまずいお菓子でしょ?」て先入観からは想像もできない傑作マンガが目白押しなんです。
 サルミアッキSFサルミアッキけものフレンズサルミアッキヒーローサルミアッキ魔法少女サルミアッキホラーサルミアッキ青春ドラマサルミアッキ四コマ……そしてサルミアッキ短歌サルミアッキ百合! どういうことだよ、全部サルミアッキじゃないか!!!!!
 ところがどっこい、繰り返しますが、これが味わい深いことこの上なし。サルミアッキ魔法少女マンガで、魔法少女のお伴のサルミアッキ妖精が叫ぶ「だれかマジカル◆サルミアッキちゃんになってくれなきゃイヤだー!!」の破壊力。サルミアッキホラーの本当にちゃんとホラーしちゃってる展開。サルミアッキ短歌のただよう無常感。そしてサルミアッキ百合の感動的なこと! 叙情的な語り口とやわらかい絵柄で「塩の妖精とリコリスの妖精の悲しい愛の結晶がサルミアッキなのだ」と語られると……なにこれ、? ぼくは今泣いているの
 まさかサルミアッキで泣かされるとは思いませんでしたが、これはそれだけしっかりしたコンセプトで制作、編集されている証。一見トンチキなネタで力任せに攻めているように見せて、最後は普遍性のある感情に読者をきっちり誘導するのは、これすなわち信念の作業なり。よくよく見れば、執筆陣の三分の二がフィンランドの方のご様子。マンガの台詞も英語と日本語訳のダブル表記になっていて、その丁寧な作業からも、「フィンランドと日本を漫画でつなぐ」というコンセプトへの信念の深さが伺えます。
 文句なしの大傑作同人誌、『サルミアッキフィクション』! サルミアッキの味に抵抗がある方も、ぜひ一度ご賞味なすってみてはいかがでしょう?
(ちなみに同日売り子をなすっていたこぐろうさんから、「フリーサルミアッキですのでよろしかったらどうぞ」と一口サルミアッキをいただきました。食べました。最後まで食べきれませんでした


いやー同人誌ってほんっとうにいいものですね

 というわけで、久々の三日目、評論系同人誌とっても楽しかったです。
 評論系同人誌はそれぞれがとっても個性的。ビジネスの側面を意識せざるを得ない商業出版では扱えないアイディア、とれないスタンスで、「好き」「面白い」をかたちにできることの喜びがひしひしと感じ取れます。もちろん、これは二次創作マンガにもいえることではあります。
 と同時に、二次創作マンガが主流(のように見える)「同人誌」というムーブメントの中で、オリジナル作品や文章中心のスタイルでの評論を目的とする同人誌が、いかに題材を選んでいるか、いかに題材に取り組んでいるか、そしていかにそれらをアピールしているかを垣間見ることが出来ました。
 弊サークルも、二次創作を目的としますが、文章中心のサークルである以上、評論系同人誌を観光されているサークルさんたちの創意工夫には学ぶところが多いと感じました。
 そういう点でも、行ってよかった、三日目評論島!


(うさぎ小天狗)


イラスト
 『ダ鳥獣戯画』(http://www.chojugiga.com/)

いいなと思ったら応援しよう!

ヤラカシタ・エンターテインメント
いただきましたサポートは、サークル活動の資金にさせていただきます。