コロナ渦不染日記 ＃31
七月十一日（土）
○午前中は日記を編集し、午後は映画『シティハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』を見る。
北条司『シティハンター』は、原作マンガもさることながら、特に一九八〇年代後半にテレビ放送されたアニメ版が、エンディングテーマとともに有名である。ぼくも、小学生のころ、夕日を背に巣穴に帰り、テレビをつければ、『水戸黄門』や『大岡越前』や『ルパン三世』に続いて放送されていたのを見た記憶がある。
一方、テレビ放送とほぼ同時期に、フランスに輸入され、『NICKY LARSON』のタイトルでテレビ放送された。これを見ていた子供が、のちに俳優フィリップ・ラショーとなった。彼は実写映画化の夢やみがたく、一年半の歳月をかけて書いた脚本を、原作者・北条司に提出し、実写化を快諾されたという。そして、じしんが監督・主演を務め、この実写版が制作された。
そういうものであるから、この実写版、ファーストシーンからして『シティハンター』していた。スカイブルーのジャケットに赤いシャツ、ネイビーのパンツ姿で登場するフィリップ・ラショーが、スキンヘッドにサングラス、口ひげの巨漢にコルト・パイソン357をつきつければ、西日の差すたたみの部屋で見たアニメ版の冴羽獠そのままであったし、シティハンターの事務所ビルが映れば、こちらも完璧なアニメ版の再現であった。その後出てくる、かつての獠の相棒・牧村も、あたかもセル画から抜けでてきたかのようで、よくぞここまでとうならされるほどだ。
もちろん、見た目だけが完璧なのではない。獠と、相棒の牧村香のかけあいも、「父親の開発した惚れ薬を警護して欲しい」という奇妙な依頼の二転三転する顛末も、クライマックスで姿を現した獠が、亡き牧村のコートを着ているところも、「あの」エンディングテーマの流れるラストのストップモーションまで、完璧な『シティハンター』であった。
そして、なんとも心憎いことに、ここまで完璧な『シティハンター』でありながら、同時に、この映画はフランス産の艶笑コメディとして一級品なのである。前述の「惚れ薬」を手に入れたさえない中年男が、実はこの映画のいま一人の主人公で、彼が惚れ薬の効果に気づき、これを用いてある目的を果たそうと旅をして、結果とんでもないことになる物語は、美女がメインゲストでないという点で『シティハンター』にはそぐわないエピソードなのに、単品ですこぶる面白いうえに、そこで語られる「惚れ薬に踊らされる人間のあさましさとおかしさと愛おしさ」が、獠と香にもおよぶにいたって、「『シティハンター』の実写版」という枠を支えてもいるのである。物語終盤、アクション映画としてまったくよくできた銃撃戦を繰り広げる獠と香にも似て、この艶笑コメディ部分は、まったく『シティハンター』といいコンビを組んでいたのである。
T.M.Network「Get Wild」が流れるのを聞きながら、気がつけばDVDを買ってしまっていたほどに、すばらしい映画だった。今年ベストかもしれない。
○とはいえ、個人的には、小比類巻かほる「CITY HUNTER～愛よ消えないで～」も好きだし、ジャッキー・チェン版も嫌いになれない。
○本日の、東京の新規感染者数は、二百六人。
七月十二日（日）
○午前中はだらだらして、午後は横浜に出かける。横浜では、docomoのバイクシェアリングサービスのひとつ「ベイバイク」で、自転車が借りられるので、それで元町界隈から日の出町あたりまでを、たらたらとサイクリングするのである。
天気がよくて、サイクリング日和なのだが、いかんせん日差しが強く、毛がじりじりと熱をもってゆく。たまに日陰を走れば、むかい風がここちよく感じられもするが、マスクをしているので、走れば走るほどなんとなく息苦しくなってくる。伊勢佐木町にさしかかったあたりで、一緒に走っていた下品ラビットが、いいかげんバテ始めてきたので、自転車をとめて喫茶店で涼むことにした。
○一息ついてから、伊勢佐木町のブックオフをさっとのぞく。のちにゲーム化もされた、ロシアのポストアポカリプスSF『メトロ2033』の上巻を210円という掘り出し価格で発見する。
○自転車を返したところで、イナバさんからの呼び出しがあり、岬の「魚正宗」で飲む。
相変わらず魚がうまい。
○本日の、東京の新規感染者数は、二百六人。前日とそろっておなじ数値なのは、まさかテキトーに報告しているのではあるまいかと勘ぐってしまう。
いずれにしても、医療関係者の心身に余裕と、いざというときの病床の確保と、またぞろ緊急事態宣言などが発出された場合の経済保障がしっかりしてくれないことには、このような数値をあきらかにされても、どんな顔をしていいのかわからないままである。
イラスト
「ダ鳥獣戯画」（https://chojugiga.com/）
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