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コロナ渦不染日記 #110

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三月十五日(月)

 ○朝、明るくなるのが早くなって、巣穴を出るころには、空はすっかり青くなっている。
 今朝の体温は三六・一度。

 ○現場近くの、大好きな「こういうのがいいんだよラーメン」が、月曜日は定休日なのである。だから、今日の昼食は、別の町中華で取ることにした。ここも安くてうまい店で、台湾ラーメンに半チャーハンがついて七八〇円である。しかも、台湾ラーメンに乗っている肉味噌が、ラー油たっぷりで、辛くてうまい。なのだけど、今日はこれが気管にてきめんに効いて、げほげほと咳き込んでしまった。このご時世に外聞の悪いことである。

 ○帰宅時、電車のなかで気絶するように寝てしまい、気がつくと巣穴の最寄り駅に近づいていた。窓のそとにはオレンジ色の夕焼けが広がっていたが、トンネルを通り抜けたそのあとには、もう空は暗くなっていた。

 ○本日の、全国の新規感染者数は、六九五人(前週比+九五人)。
 そのうち、東京は、一七五人(前週比+五九人)。


三月十六日(火)

 ○今朝の体温は三六・一度。

 ○仕事の忙しさが猖獗を極め、気が変になりそうである。
 忙しさで気が変になりそうなとき、ぼくたちは本を読むことにしている。本は、映画やテレビドラマと違って、時間を拘束されないからだ。好きなときに読みはじめ、好きなときに中断でき、好きなときに再開できる。ちょっとずつ読めるように、短編小説を中心に読んでいる。
 だが、そういう余裕すらもなくなったここ一ヶ月くらいは、帰宅して見る『ミステリーゾーン』がこころの癒やしである。昨日、放送された「魅入られた男」は、いわゆる「悪魔との契約」ものであるが、こういう伝統的なネタを、当時隆盛した出版業界、ジャーナリズムの世界に持ちこんで、新規なスタイルであったろう。
 そういう考古的な観点から見ることができる点に、この番組の滋味がある。「いま」という現実を離れ、

目や耳や心だけの別世界ではなく、想像を絶した素晴らしい世界への旅

――『ミステリーゾーン』オープニングナレーションより。

 となるから、現実に疲れたぼくの気持ちを、一時、安らがせてくれるのあろう。


 ○本日の、全国の新規感染者数は、一一三三人(前週比+六人)。
 そのうち、東京は、三〇〇人(前週比+一〇人)。

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三月十七日(水)

 ○今朝の体温は三六・一度。

 ○仕事でどうにもむしゃくしゃしたので、帰宅して料理をした。昨日は往年のSF/ホラー/怪奇幻想テレビドラマで、疲れたこころを現実から遊離させたが、料理もまた、いっとき現実の息苦しさをわすれさせてくれるのである。

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 キャベツと豚肉のあんかけ焼きそばは、中華そばをごま油で炒めているので、パリパリとした食感と香ばしいごま油の匂いで、とろみのついた餡といいアンサンブルである。

 ○本日の、全国の新規感染者数は、一五三三人(前週比+二二〇人)。
 そのうち、東京は、四〇九人(前週比+六九人)。


三月十八日(木)

 ○仕事の都合で、いつもよりかなり早く巣穴を出たが、外はすっかりもう明るくなってて、春がやってきているのを感じる。
 今朝の体温は三六・〇度。

 ○難物だった仕事が終わり、ほっと胸をなでおろしたのである。
 そもそもは、二日前の火曜日にさかのぼる。現場にスケジュール確認のために連絡したところ、当日の業務を依頼されたのであるが、それは、大枠を提示するから、細部を考えてほしいというものだった。こういう依頼はこれまでもなかったわけではない。しかし、たいていは一週間ほど前には、伝えられているものだった。ところが、年度末の忙しさのせいか、こんかいはなかなか担当者と連絡がつかず、二日前にやっと連絡がついたところでの、上記の依頼となったのである。
 準備期間は二日しかない。ぼくは日々の仕事をこなしつつ、合間に準備をしたものである。それでも、なんとかまとめあげて、今日、うまくことを運べたのは、以前、別の現場で使うために作った素材が、ちょっとアレンジすれば使えることがわかったからだった。このことは、相棒の下品ラビットが気づいてくれた。巣穴の居間で、貸与のPCをあぐらの膝に乗せて、ああでもないこうでもないとうなっているぼくを、うしろからのぞきこんでいた下品ラビットが、
「前におなじようなのを作ってただろ」
 と言ってくれたのである。持つべきものは、自分以上に自分を知っていてくれる相棒である。感謝の言葉を背に受けて、胸をなでおろしながら現場を辞したときに、ぼくはそう考えていた。いっぽうで、こういう無茶ぶりはやめてほしいものだ、とも。

 ○本日の、全国の新規感染者数は、一四九七人(前週比+一八一人)。
 そのうち、東京は、三二三人(前週比-一二人)。

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三月十九日(金)

 ○今朝の体温は三六・〇度。

 ○仕事中、やたらと咳きこんでしまうのは、この災禍に蔓延するウィルスのせいでなければ、――もしやして、花粉、だろうか。

 ○現場を新人に引き継いで、いよいよ今年度が終わろうとしている実感が出てきた。
 前の仕事も、この時期は忙しい時期だった。いまの仕事は、それに輪をかけて忙しい。だが、その忙しいのも、週明けに現場作業をこなせば、あとは在宅勤務と有休消化の休日で、ようやく終わりをむかえるのだ。

 ○山田芳裕『度胸星』を読む。


 ○本日の、全国の新規感染者数は、一四六三人(前週比+一九二人)。
 そのうち、東京は、三〇三人(前週比-一人)。


→「#111 孤独」



引用・参考文献



イラスト
「ダ鳥獣ギ画」(https://chojugiga.com/


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