逆噴射プラクティス解題 #5
目次
ごあいさつ
こんにちは、うさぎ小天狗です。
この記事は、二〇一八年十月八日から三十一日の間に開催された「逆噴射小説大賞」の投稿作品の自主解題です。
何を考えて書いたか?
どんなイメージなのか?
今後の展開の予定は?
などを、簡潔に語る予定です(たくさん語るなら続きを書いたほうがいいですからね)。
各回ごとに四作品ずつ解題していきます。
今回は投稿第十三作目から第十六作目を扱います。
なお、ストレッチで汗を流した下品ラビットがコメントを書き込みたいと言っているので、彼のコメントも併せてお楽しみくださいませ。
それでは参りましょう。
No.13 「念力処刑集団マング」
きっかけは「七人の妖術士」のために妖術について調べている時でした。Wikipediaの「妖術」の項目に、アフリカのザンデ族(アザンデ人)の妖術についての項目があり、そこに「『マング』という器官が腸にあるものは妖術師となり、その器官から発揮される心的な力で、人の健康や財産に危害を与える」というようなことが書いてありました。さらに調べると、この「マング」は同性の子供に遺伝する、とあります。また、アザンデ人の分布地域は、マラリアや黄熱など、蚊を媒介とする疫病の発生源でもあります。そこで、「同性にのみ伝染する疫病のような呪術器官」という想像が生まれました。それらから、映画『スキャナーズ』よろしく、破壊と殺戮、あるいはエスピオナージュの道具としての人造超能力者像が生まれるのにはさして時間はかかりませんでした。
「念力処刑軍団マング」は、そうした超能力スリラーを経て、念力人間社会が出来上がるまで、世界が変容するさまを語ることになりそうです。
下品ラビット:
『アザンデ人の世界』は定価で一万二千円もする。国会図書館に行くしかないな。
ジャンル
ホラー、ファンタジー、エスピオナージュ、ポストアポカリプス
参考・引用文献
「亀裂の向こう」(トム・リーミイ/井辻朱美・訳/『サンディエゴ・ライトフット・スー』サンリオ文庫)
『アザンデ人の世界――妖術・託宣・呪術』(E・E・エヴァンズ・プリチャード/向井元子・訳/みずす書房)
『処刑軍団ザップ』(監督:デヴィット・E・ダーストン/出演:バスカール、ジャディーン・ウォン、ロンダ・ファルツ、他)
『スキャナーズ』(監督:デビッド・クローネンバーグ/出演:スティーヴン・ラック、ジェニファー・オニール、マイケル・アイアンサイド)
No.14 「太陽の刃」
『子連れ狼』が好きです。小池一夫先生の卓抜したキャラクター造形とストーリーテリング、小島剛夕先生の重厚かつダイナミックな絵柄で、骨太のダークゴシックヒロイックファンタジとして楽しめるのもさることながら、近年再読した時、「これはヒーロー誕生譚だな」と思えたところが新鮮でした。
『子連れ狼』の主人公は、超絶の剣士・拝一刀とその一子・大五郎です。このうち、一般に強く主人公として意識されがちなのは父・一刀のほうですが、この物語は彼の理不尽な武家社会への復讐と並行して、大五郎の成長が描かれます。そしてラスト、物語の主人公は一刀から大五郎へ鮮やかに受け継がれる。ヒーローの生と死が、新たなヒーローの誕生のきっかけとなるのです。
この見方を、神話を背景に語り直せないかと考えたのがこのお話です。北欧神話に現れるヴィゾーヴニルとレーヴァテインの神話の構造は、それをするにうってつけでした。
下品ラビット:
剣が主役の一人称というと、おれは安井健太郎『ラグナロク』を思い出すね。
ジャンル
ファンタジー、SF、神話
参考・引用文献
『聖戦記エルナ・サーガ』(堤抄子/エニックスGFCSuper)
『子連れ狼』(小池一夫、小島剛夕/小池書院道草文庫)
No.15 「まどろみのオフィーリア」
オフィーリアはシェイクスピアの戯曲『ハムレット』中で、最も妙なキャラクターです。必要かと言われれば不要な気がするし、いないとなればなんかこう物足りない。母の浮気を疑い、女性嫌悪に陥った主人公に邪険にされて自殺するキャラクターだけど、自殺するそのシーンは描かれない。
もしかしたら死んでいないのでは? あるいは、殺されたのでは? と考えて、オフィーリアを主役にした改変世界もの、ループ構造を発想しました。はたしてオフィーリアに生存の道はあるのか?
下品ラビット:
「オフィーリアを殺したのは誰か」て話にしたいようだが、さて、それをどのタイミングで明かすか、どうやってオフィーリア本人がそこにたどり着くのかでお話の良し悪しが問われるな。また、原作を逸脱するからには、そのことへの説得力ある理由付けが必要と思うが、どうするつもりかね。
ジャンル
SF、改変世界、ループもの、古典
参考・引用文献
『ハムレット』(シェイクスピア/福田恒存・訳/新潮文庫)
「ミラーグラスのモーツァルト」(スターリング&シャイナー/浅倉久志・訳/『ミラーシェード――サイバーパンク・アンソロジー』ハヤカワ文庫)
No.16 「無貌の血脈」
かつては、ぼくも「あの神話」のタームを用いることそれ自体に喜びを見出していました。登場人物に意味ありげな地名をポツリと呟かせてみたり、書棚に魔道書を忍ばせてみたり、闇の中にあからさまに〈彼ら〉の姿を描いたり。
でも、「あの神話」の始祖たる「あの人」の生涯を追ううち、それは「あの神話」の本質を損なうのでは?と思われてきました。もちろん、他人がすることをどうこういうつもりはないですが、自分はあからさまにタームを用いることはすまい、その方が「らしい」だろ、と考えるようになったのでした。
ですので、この話も、ナとかニャから始まってフとかプで終わる名前は、最後まで出ないでしょう。それでも、あの虚無の深淵で燃える瞳をぎらつかせる〈あれ〉の存在を、後頭部に感じられる話ができればと思うのです。
下品ラビット:
名前を出しても内輪受けにしかならないからな。ナイアーラトテップと言わなくてもナイアーラトテップの恐ろしさを感じさせられるのが、優れたクトゥルー神話ってもんよ。あ、言っちゃまずかったか。すまんな。
ジャンル
怪奇幻想、ホラー、神話
参考・引用文献
「闇にさまようもの」(ラヴクラフト/大瀧啓裕・訳/『ラヴクラフト全集』創元推理文庫)
以上、投稿第十三作目から第十六作目の解題でした。
(うさぎ小天狗)
イラスト
『ダ鳥獣戯画』(http://www.chojugiga.com/)
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