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【資金調達手法を学ぶ】:補助金・助成金の活用(第4回)
はじめに
これまでの連載では、資金調達の全体像や借入型(銀行融資・公的融資)と出資型(エクイティ・ファイナンス)の特徴を見てきました。第4回となる今回は、返済不要の公的支援制度である「補助金・助成金」を中心に取り上げます。
金融機関からの融資のように返済を迫られることがなく、自己資金の持ち出しを抑えながら事業を拡大できることから、多くの中小企業やスタートアップが活用を検討する手法です。しかし、申請手続きの煩雑さや公募・採択のタイミング、報告書類の作成など、独特の難しさがあるのも事実。
本記事では、補助金・助成金が持つメリットや活用のポイントをまとめるとともに、代表的な制度例や申請の流れ、審査のコツなどを具体的に解説していきます。
1. 補助金・助成金とは何か
1-1. 返済不要の公的支援
補助金や助成金は、国や地方自治体、公共団体などの公的機関が、中小企業・ベンチャー企業・個人事業主の事業活動を支援する目的で提供する資金です。最大の特徴は、基本的に返済不要であること。
借入型資金調達(銀行融資など)では、利息を含めた返済義務が生じますが、補助金・助成金では規定に沿って正しく事業を実施し、必要な書類を提出すれば返済する必要はありません。ただし、虚偽報告や違法な経費処理などが見つかった場合は返還を求められるリスクがあるため、制度の要件を熟知したうえでの運用が求められます。
1-2. 助成金と補助金の違い
「助成金」と「補助金」という言葉はよく似ていますが、一般的には以下のような使い分けがあります。
助成金
主に厚生労働省系の制度で、雇用に関するものが多い。
条件を満たせば概ね支給されやすく、比較的ハードルが低い。
1件あたりの支給金額は小さめのものが多い。
補助金
経済産業省や中小企業庁、地方自治体などが提供している制度。
審査が厳格で、公募期間・採択率なども一定ではない。
採択されれば支給金額が大きい場合も多い。
どちらも返済不要の支援策ですが、採択難易度や支給額、目的とする政策分野などが異なるので、自社の目的や事業内容に合った制度を選ぶことが重要です。
2. 主な補助金・助成金の種類
2-1. 中小企業向けの代表的補助金
補助金には数多くの種類がありますが、ここでは特にメジャーで活用例の多いものを中心にご紹介します。
ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス高度連携促進補助金)
中小企業や小規模事業者が、新製品開発や生産性向上のための設備投資を行う際に活用できる。
上限額は数百万円から数千万円程度まで幅があり、補助率(経費の何割を補助するか)も案件によって異なる。
製造業だけでなく、商業・サービス業も対象となるケースが増えている。
事業再構築補助金
コロナ禍以降の経済対策として登場した大型補助金で、経済産業省が管轄。
業態転換や新分野進出、大胆な設備投資・事業革新などを行う企業を支援する。
1件あたり数千万円から最大1億円以上が支給される場合もある反面、審査が厳しく提出書類も多い。
小規模事業者持続化補助金
商工会議所や商工会が窓口となり、売上拡大に向けた取り組み(新商品開発や販路開拓など)を支援する。
上限額50万円や100万円といった小規模枠が多いが、申請ハードルは比較的低め。
小規模企業(従業員数5名~20名以下)であれば利用しやすい。
2-2. 雇用関連の助成金
厚生労働省の管轄で、雇用や人材育成、職場環境改善などにかかわる助成金が多数あります。例えば、
キャリアアップ助成金
非正規雇用の正社員化や賃金アップ、人材育成などに取り組む場合に支給される。
支給要件を満たせば比較的受給しやすいが、1回あたりの金額は数十万~数百万円程度と小さめ。
両立支援等助成金
育児休業や介護休業の制度を整え、実際に従業員がその制度を利用した場合などに支給される。
職場環境の整備や社員の定着率向上にも繋がる。
雇用系の助成金は、国が「働き方改革」や「職場環境の向上」を政策的に推進しているため、要件を満たしやすいケースが多いです。ただし、手続きや報告において労務管理が厳格に求められるため、社内体制の整備をしっかり行う必要があります。
2-3. 研究開発系の補助金・助成金
技術革新(イノベーション)の推進を目的にした補助金や、研究開発を支援する助成金も数多く存在します。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)
エネルギーや環境分野を中心に、先進的な技術開発や社会実装を目指す企業・研究機関を公募・採択する。
JST(科学技術振興機構)
大学や企業の共同研究を促進するプログラムが多く、研究成果を事業化する際の助成が得られるケースも。
研究開発系は採択額が大きいものの、審査難易度が高い上に成果報告・監査が厳密に行われます。事業計画において高い技術力と明確な社会的意義を示す必要があるでしょう。
2-4. 地方自治体の独自制度
都道府県や市区町村でも、地域の産業振興・創業支援・商店街活性化などを目的とした補助金・助成金を用意している場合があります。国の制度に比べて支給額は小さいことが多いですが、競合が少ない分、採択されやすいというメリットも。
地域の商工会・商工会議所、産業振興課などに問い合わせれば、最新の公募状況を教えてもらえるはずです。
3. 申請から支給までの流れ
3-1. 公募要領の確認
まずは興味のある補助金・助成金の公募情報を入手し、応募要件・補助対象経費・スケジュールなどを確認します。公募期間が限られている場合が多いので、締切を意識して逆算しながら準備を進めることが重要です。
公募要領には必要書類や対象となる経費の詳細、審査基準などが記載されています。特に、どんな経費が補助対象となるかは制度によって大きく異なるので注意しましょう。
3-2. 申請書類の作成
補助金・助成金を活用する際には、事業計画書の作成が最重要です。ここでは、以下の点を意識して書類をまとめるとよいでしょう。
具体的な目標とスケジュール
何を目指しているのか、いつまでにどのように実行するのかを明確にする。
必要とする経費とその内訳
補助対象経費がどの項目に該当するのか、自己資金や他の資金調達手段とのバランスはどうなっているかを整理。
事業の新規性・社会的意義
なぜそのプロジェクトが国や自治体の支援に値するのか、政策目標や社会課題とのリンクを示す。
実現可能性
チームの体制や既存の実績、取引先や協力パートナーなどを具体的に示し、実行力をアピール。
また、見積書や契約書、財務諸表などの添付書類も必要となることが多いです。不備があると審査で減点になったり、申請が無効となる場合があるため、早めの準備・確認が肝心です。
3-3. 審査・採択
申請を行うと、書面審査や面接審査、プレゼンテーションなどを経て採択可否が決定します。審査プロセスでは、事業の将来性・社会的意義・実行体制が特に注目されがちです。
採択後は、「交付決定通知」が届き、そこから実際の事業を開始するという流れになります。先に事業をスタートさせてしまうと、補助対象外になる場合があるので、必ず交付決定を受け取ってから実行に移しましょう。
3-4. 事業実施・実績報告
補助金・助成金は、支給が決まったらそれで終わりではありません。以下のプロセスが求められます。
事業実施・経費支出
補助対象となる費用の支払いに関して、領収書や請求書、銀行振込明細などをきちんと保管。
実績報告書の提出
事業完了後、どのような成果があったのか、計画通りに進んだのかを報告する。
経費の支出明細や写真などの証拠書類を添付する場合も多い。
検査・監査
場合によっては、書類審査だけでなく現地確認や面談などを受けることも。
支給額の確定・振り込み
報告内容をもとに最終的な補助金額が確定し、指定口座に振り込まれる。
ここまでに数ヶ月~1年以上かかることも珍しくないため、キャッシュフローに余裕がないと厳しい場合があります。補助金は後払いが原則というケースも多いので、事前に資金繰りを考えておきましょう。
4. 補助金・助成金をうまく活用するコツ
4-1. 自社の事業計画に合致した制度を探す
補助金・助成金は数多くの種類があり、それぞれ目的や対象、審査基準が異なります。やみくもに申請するのではなく、自社のビジネスプランや成長戦略に合致した制度を見極めることが重要です。公募要領をしっかり読み込み、対象経費や採択方針を十分に理解してから取り組みましょう。
4-2. 申請書類の質を高める
補助金の申請で鍵を握るのは、申請書類の完成度です。特に下記の要素を丁寧に盛り込むことで、審査官に「投資価値がある」と思ってもらいやすくなります。
数値的根拠: 市場規模や競合分析、売上・利益見通しなどを客観的に示す。
政策との整合性: 国や自治体が掲げる政策目標(デジタル化、カーボンニュートラル、地域活性化など)とのリンク。
事業実績・チーム力: 過去の取り組みやリーダー陣の経験、協力先やパートナーの実力などを具体的にアピール。
必要に応じて、中小企業診断士や行政書士、補助金コンサルタントなど専門家のサポートを受けることも検討しましょう。費用はかかりますが、大型補助金の獲得可能性があるなら投資する価値は大きいです。
4-3. 採択後の管理体制を整える
無事に補助金の採択を受けても、事業実施や報告義務をきちんと果たさないと支給が取り消されるリスクがあります。領収書や契約書などの証憑類をしっかり管理し、計画との変更点があれば速やかに報告するなど、体制を整えておきましょう。
補助金事業を進める専任担当者や、社内のコミュニケーションルールを決めておくことで、スムーズな事業遂行を実現しやすくなります。
4-4. 他の資金調達手段との組み合わせ
補助金・助成金は後払い方式を採ることが多いため、初期費用の立て替えが必要になる場合もあります。したがって、大規模な投資を行う際には、銀行融資や出資型資金調達と併用しながら資金繰りを組み立てることが有効です。
例えば、設備投資全体の一部を補助金でまかない、残りを銀行融資でカバーすることで、返済負担を軽減しながら計画的な事業拡大が可能になります。
5. まとめ:返済不要の公的資金を活かすために
補助金・助成金は、返済不要という大きな魅力がある一方で、申請書類作成や審査・報告手続きにおいて手間がかかる資金調達手法です。公募要領の条件に合わなかったり、書類不備や事業計画の曖昧さによって不採択となるケースも珍しくありません。
それでも上手に活用できれば、自己資金や借入負担を抑えながら新規事業や設備投資を進めることが可能になります。自社の事業ステージや計画に応じて、最適な制度を探し、書類作成や報告体制を整えたうえでチャレンジしてみてください。
この記事のポイントまとめ
補助金・助成金は返済不要の公的支援
国や自治体の政策目標に合致すれば、大きな支援を受けられる可能性がある。
ただし、虚偽や不正があれば返還が求められるリスクも。
用途や対象に応じて種類が豊富
「ものづくり補助金」「事業再構築補助金」「小規模事業者持続化補助金」など、大型から小規模まで多種多様。
雇用や研究開発、地域振興、創業支援など目的ごとに制度が分かれている。
申請から支給までには手間と時間がかかる
公募要領の確認、申請書類の作成、審査、交付決定、事業実施、報告・精算とプロセスが複雑。
後払いが多いため、立て替え資金を用意しておく必要がある。
採択を勝ち取るためのコツ
事業計画の新規性や社会的意義、実現可能性を具体的な数字や根拠で示す。
中小企業診断士やコンサルタントのサポート、自治体・商工会などの支援機関を活用する。
採択後も書類管理や報告義務を怠らず、監査に対応できる体制を整える。
他の調達手段と組み合わせることで効果倍増
補助金だけでは足りない部分を融資や出資型で補完するなど、資金繰りをトータルで設計する。
キャッシュフローを踏まえた計画を立て、無理のない範囲で事業を推進する。
補助金・助成金は、事業拡大や新規事業立ち上げを後押ししてくれる心強い味方になり得ます。しっかりと政策意図や要件を理解したうえで計画を立て、申請を成功へと導いてください。ぜひ引き続きご覧ください。