今年一番美味しいと思ったラーメン
まだ今年も残り3ヶ月あるはずなのに、私はもう今年一番美味しかったラーメンを決めようとしてしまっている。今年のMVPを決めるには尚早な気がするものの、本当に感動的なラーメンに出会ってしまった。そのラーメン屋があるのは都内某所…ではなく、茨城県坂東市。千葉県野田市との境にある市だ。そんな魅力的な地方ラーメンの話をこれからしていく。
私が衝撃を受けたお店の名前は「論露に不二」。まず初見でこの店名を読めるだろうか。私は読めなかった。noterの一人として恥ずかしい限りだ。正解は「ろんろにふじ」。一体どういう意味があるのだろうか。私はGoogleで「論露に不二 意味」で検索してみたがその意味は分からなかった。
私がその「論露に不二」にやって来たのはある日曜日の18時過ぎ。もうすでに陽が傾いている。9月になって陽が落ちるのが早く感じて来た。カーナビに従って車を走らせていると、目的地の近くに来たはずなのにラーメン屋らしい建物が見つからない。本当にお店はあるのかと不安になった。そんな時に目についたのがこちらの看板だった。
この看板を見て、この絵がなんとなく麺を表しているように見えた。カーナビを確認する。目的地はきっとこれだ。私はウインカーを出してこの看板がある敷地内に車を入れた。敷地内には10台近くの車が停まっていた。きっとこれがお目当てのラーメン屋さんなのだろう。駐車スペースには余裕があったので適当な場所に車を停め、敷地内にあった建物に向かって歩いた。建物に近づけば近づくほど、その建物がラーメン屋には見えない見た目をしていることが明らかになった。
建物の前に着く。建物にかかった看板を見てようやく、ここがお目当ての「論露に不二」であることを確信した。
昔の蔵みたいな重たい扉を横に開ける。本当に蔵の入り口のような空間があり、消毒用アルコールの噴射器だけが置かれている。その奥では恐らく食券を購入しているであろう夫婦と、その夫婦に何やら説明をしている女性の店員さんの姿が見えた。
夫婦の姿が見えなくなったので、私は前に進んだ。正面では女性の店員さんが待っていた。右を向くと券売機があり、店員さんから食券の購入を促された。券売機を眺める。メニューが豊富だ。
かつてこのお店をネットで調べた際、このお店のウリは頻繁に変わる限定創作ラーメンらしいという情報を得ていた。券売機の左上のブラックボードには今日食べられる限定ラーメンの内容が書かれていた。券売機とブラックボードの写真を撮っている姿を目の前の店員さんに見られているという状況は少し恥ずかしさがあった。
私は初めて行ったラーメン屋さんでは大体いつもそのお店の人気ナンバーワンのラーメンを頂く。人気ナンバーワンのラーメンはお店の定番であり顔だからだ。だが今回のお店のウリは限定。定番メニューを頼むか限定メニューを頼むかで迷った。私の後ろに待っているお客さんはいなかったが目の前の店員さんからの視線を感じるためあまり長い時間悩み続けることには躊躇いが生まれていた。私はこの数秒の迷いの結果「鮮魚と水」の食券を購入した。あとついでに味玉の食券も購入した。購入した食券を店員さんに渡すと、
「えび油とにぼし油、どちらになさいますか?」
と聞かれた。ブラックボードを確認するとこの「鮮魚と水」というメニューは使用する油が選択できるみたいだ。私はえび油を選択した。なんとなく煮干しより海老の方が珍しいような気がしたからだ。店員さんはその後私を入り口右手にある待合席に案内した。どうやら席が満席なのですぐにはラーメンにありつけないらしい。待合席では先ほどの夫婦がiPadでスマートニュースを眺めながら待っていた。
私が食券を購入した後、客足はさらに伸びていた。私のすぐ後に30代くらいの男女が来て、その後はファミリー客もやって来た。待合席にスペースがないためファミリー客は外で待つようにお願いされていた。待っている間は店内を眺めていた。まるで都内のラーメン屋さんに来たかのようなオシャレなな店内だ。グレーを基調とした壁でカウンター上にはあの隈研吾氏が作ったのかと思うような凹凸の木の壁が広がっていた。待っている間にお手洗いを借りたが、トイレも綺麗だったし手洗い場の蛇口が一瞬使い方が分からなくなる変わった蛇口だった。写真も撮ってないしどういう蛇口だったか敢えてここで説明はしない。また、待っている間に替え玉の食券も購入した。替え玉もなかなか個性派揃いのようであった。
待ち始めてから15分ほど経ったと思う。店員さんが私を席に案内した。店員さんに案内されカウンター席に腰掛ける。まず最初に驚いたことは、店主さんが外国人の方だったこと。都内でもラーメン屋さんの中ではアルバイトとして外国人の方が働いているお店はよく見かける。だが彼らはアルバイトであるのに対し、このお店はその外国人の方が店を仕切っている。バイトリーダーということではなさそうだ。このオシャレな店内と彼の華麗な手捌きを見ていると、もはやラーメン屋の店主ってよりかはオシャレレストランのシェフに見えてくる。しかもとても日本語が堪能でラーメンを作りながら他の店員さんにテキパキと指示を出していた。
席に座って2分くらい経った時、その外国人の店主さんが私のもとにラーメンを運んできた。私はそのラーメンを一目見た時点で度肝を抜かれた。
なんてオシャレなラーメンなんだ。ラーメンの上に乗った野菜はラーメン二郎の野菜とは真逆の物体のように見える。この面構えからは私ごときが箸を入れていいのかと思わせる荘厳さすら感じる。だがあまりラーメンを見つめていても麺が伸びてしまいせっかくあの店主さんが作ったラーメンの本気の味を感じられなくなってしまう。私は卓上に置いてあるレンゲを一つ取り、その先端をスープに沈め始めた。ちなみにレンゲには赤の差し色が入っており、その一つの差し色が他の店のレンゲとの格の違いを生み出しているようだった。このお店はレンゲまで洒落ているのか。
そのレンゲに溜めた黄金色のスープを口まで運ぶ。そのスープを一口口にするだけで上品な海老の香りが口中、いや顔中に広がった。普段他のラーメンで感じるものとは一線を画すパンチである。さらにベースにものすごくまろやかな魚介の味がある。もう正直言葉で表すのが野暮に思うほど感動的に美味しいスープだ。
そして細ストレートの麺がしっかりとスープの香りを持って来る。スープがこれだけ美味いから麺はコシがあるというだけで文句無しの美味さだった。
そしてチャーシューもいただく。なんだこのチャーシューは。炭で焼いてるのかと思うくらい香りがすごい。薄くて食べ応えがなさそうと思う人もいるかもしれないがこのチャーシューめちゃくちゃ美味い。
卓上には山椒、柚子胡椒、レモンビネガーが置かれていた。卓上に置いてある調味料からも個性を感じる。私は山椒を少しだけスープに入れて食べてみた。やや味が鋭くなり、私の舌をさらに興奮させた。そのタイミングで、替え玉をお願いした。店主さんが替え玉を作っている間、ちょっとだけスープを飲み進めた。
替え玉はすぐに提供された。そしてその姿を見た時、私はもうこれは替え玉ではないと思った。普段替え玉を受け取った時は私は自動ロボットのように麺をスープにぶち込んでいる。だがこの見た目からはその操作をストップさせるだけの芸術性を感じる。こんな替え玉は今まで見たことがなかった。店主さんは「よく混ぜてからいただいてくださいね」と、これまた聞き取りやすい日本語で説明してくれた。この芸術的な見た目を崩すのは惜しい気がしたが、私は店主さんに言われたとおり割り箸でこの塊をできるだけよく混ぜ、口に入れた。まず麺が先ほどラーメンに入っていた麺と異なる。先ほどの麺はストレートの細麺だったが、替え玉の麺は平打ちの細麺になっている。よりモチモチ感が強い食感だ。もうラーメンというよりはオシャレジェノベーゼパスタを食べている気分だった。卓上のレモンビネガーをかけると味わいが広がりさらに私を感動させた。普通替え玉といえばラーメンのスープに入れるもののはずだが、私は結局スープに入れずにそのまま全部食べてしまった。ラーメンのスープも全部飲んだ。何の罪悪感もない。
席を立ち、店員さん達の「ありがとうございました」という声を聞きながら重たい扉を開けて店を出た。外に出ると駐車場の車の台数は少し増えていた気がした。私は頭の中で今まで食べて来たラーメンを振り返り、今回食べたラーメンは私のラーメン人生においてなんだか革命的だったように感じた。そしてこの世界にはまだまだ自分の知らない美味しいラーメンが存在するだろうと再認識したと同時に、私は日本各地を旅する時間をもっと作らないといけないという使命感も生まれた。車に乗り込み、エンジンをかけた。この行く先が自分の家ではなく、自分の知らないどこかにできる日を増やせるようにと願いながら、夜の利根川を越えていった。
今回行った場所
論露に不二
●住所:茨城県坂東市矢作3083−1
●アクセス:谷和原ICから車で15分
●営業時間:11:00~14:30 / 18:00~21:00
●定休日:水曜日
●駐車場:あり