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連載小説『八百万かみさま列車、たゆたう』第5話
晩秋から元旦に時空が舞う。新しい年が明けた。八百万の神さまたちにとっておめでたい日であり、そこかしこで寿ぎが飛び交っている。
一番忙しいのは、歳神さま。大和の国の人々の玄関先の門松に向かって天から降りては人間の魂のエネルギーを満タンにチャージしていく。鏡餅の葉付き蜜柑を愛で、神棚の御神酒をいただく。玄関のしめ飾りの稲穂も気持ちが良い。
神社では大晦日から夜通し初詣が行われていた。昨年の感謝を述べ、その後年明けの挨拶をする。縁起物の福を呼ぶ熊手を購入し、おみくじを引き神さまのアドバイスを読み、絵馬に祈願する。神社の境内いっぱいに良い気が充満していた。
そしてまた忙しいのが宝船に乗った七福神の神さまたち。恵比寿さま、大黒さま、弁才天さま、毘沙門天さま、布袋さま、福禄寿さま、寿老人さま。国際色豊かな神さまチームは七福神めぐりで願掛けをする人間のためにフル回転する。なにしろ縁起が良い方達ばかり。福をよぶ。幸をよぶ。笑みをよぶ。
*
さて、今日は1月7日。モーニング時間にお食事処で七草粥を食べているのは歳神(トシガミ)さま。弟の田の神(ウカノミタマ)さまも一緒のテーブルだ。
「おかゆ美味しい!七草も五臓六腑に染み渡るわー」
「おいしいね、兄上。お疲れ様。抹茶塩をかけるとさらに美味しくなるよ」
「どれどれ。ほぅ、抹茶もお塩も美味じゃのー。山椒もかけてみよう」
「おっいいね。僕もかけてみるよ。うん。美味しい!」
「うむ。日本の山野は美味しさの宝庫だからの」
「うんそうだね。これからも守らないとね。僕は冬の間にゆっくり休んで春先からまた忙しくなるよ」
「そうだね、日本の稲作は宝だからね。大事に守ってあげなさい」
「はい兄上。僕には眷属の狐たちがたくさんいるから助かっているよ。チームワークで全国津々浦々幅広くサポートしているよ」
「また秋には新米祭りをしような」
「はい兄上。今日はゆっくり七草粥を楽しみましょう」
お風呂で空海さんに会った時とは喋り方が違うが、兄上といる時にはなぜか若者に戻ってしまう田の神さまなのだった。
*
そのお隣の円卓には7名の福の神さまが勢揃いしている。ぐるぐる回る中華風のテーブル上の大皿に美味しそうな料理がてんこ盛り。鯛のお刺身。お出汁をたっぷり吸い込んだおでん。お赤飯。てまり寿司。根菜の味噌きんぴら。小皿ドライカレー。ポテトサラダ。薬膳がゆ。こんがり揚がった春巻き。フカヒレスープ。
恵比寿さまが鯛のお刺身を頬張りながら
「今年もお正月限定の七福神まいりは大賑わいでしたな」
大黒さまは大好物のおでんのお出汁しみしみ大根を頬張りながら
「ほんにほんに。願掛けの内容も多岐にわたっておったの」
弁才天さまはサーモンとホタテのてまり寿司を頬張りながら
「えぇ、今年はAIでアートを表現したいってコがたくさんいたわ」
毘沙門天さまは小皿ドライカレーとポテトサラダを頬張りながら
「うむ。物理的な力ではなく、精神的な力が欲しいというコもおったよ」
布袋さまは薬膳がゆを頬張りながら
「SNS上での福徳を願うコも多かったのう」
福禄寿さまは春巻きを頬張りながら
「そして、いつの時代も財運を願うコが多いこと多いこと」
寿老人さまはフカヒレスープを頬張りながら
「そうじゃの。お金はいつの時代も人間を惑わしているからの。わしのところも長寿だけを願わず健康長寿を願うコがたくさんおったわい」
つづく…