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連載小説『八百万かみさま列車、たゆたう』第3話

 八百万の神さまたちの客室車両の個室は彩り豊か。宿泊される神さまにあわせて七変化する摩訶不思議仕様となっている。

 英国ヴィクトリア朝風の優美な部屋は紅茶と生スコーンを楽しめるアフタヌーンティー部屋になっていたり、近未来感出しました的な宇宙船風客室には人間界の人生ドラマが総集編で壁一面のモニターに映し出されていたり、床も天井も壁もすべて花や低木や葉っぱで覆われたハワイアン部屋ではイランイランのフレグランスが漂い、ムームードレスとハイビスカスのレイ着用必須でBGMには南国の音楽がほわ〜んと流れていたりする。

 さて、そんな楽しい客室が並ぶ中の一室が定期的にひきこもり部屋になってしまう。天照大御神のピカさまのお部屋だ。普段は太陽のように明るくてしっかり者で皆に愛されている社交的な性格なのだが、たまに引きこもってしまう時がある。神さまだって時にはひとりになって自分を取り戻し、魂ごとリフレッシュしたい時はある。

 しかし今回はちょっと長びいていて、かれこれ1ヶ月が経つ。招き猫の神さまにゃーさんはピカさまの健康状態がとても心配だ。お食事を召し上がっていない。どうにかして栄養素たっぷりの豪華な料理が満載の三段御重を届けたい。しかし、岩でできた頑丈なドアはどうにもこうにも開かない…と、ピカさまのドアの前でほとほと困り果てていると、天宇受売命のウズメさまが通りかかった。

「あら、にゃーさん。どうなさったの?」
「これはこれは、ウズメさま。本日も軽やかですにゃ」
「ありがとう。うふふ」
「いやはや実はピカさまにお食事を届けたいのですが、この岩のドアがどうにも開かなくて困っているのですにゃ」
「あらそうなの、それは心配ね。それにしても頑丈なドアね。内側からピカさまが結界をはっていらっしゃるみたいね」
「そうなんですにゃ。普段はマスターキーで開くのに…どうにもこうにも..」

と、そこに、思金神(オモイカネ)さまが通りかかる。

「おふたりとも、どうなされたのです?」
「あ、オモイカネさま。ちょうどいいところにいらっしゃいましたにゃ!」
「あら!ブレーンが登場したわよ!」
「あはは、照れますな。私でお役にたてますかな?」
「じつはかくかくしかじかでして..」
「ふむ。。そうですな。。」
「あたしもなにかお役にたちたいわ〜ららら〜(無意識に踊るウズメさま)」
「お!名案が浮かびましたぞ。ウズメさま。レッツダンシング!」
「え?あたし?」

 どこかで聞いたことのあるこの有名なお話。そうです。ウズメさまは元祖踊りの神さまでキレッキレのダンサーなのです。ウズメさまが軽やかに踊り始めると、いつの間にかピカさまの部屋の前の通路に「なんだなんだ?」と八百万の神さまたちが集まりはじめた。
 ウズメさまはポールダンサーも見惚れる妖艶なダンス、シュトラウスも喜ぶ優美なウィンナ・ワルツ風ダンス、聴衆を巻き込んでインド映画風ゆかいなダンスを披露し、皆から「おぉ〜」「ピューピュー」と指笛が鳴り響き、大歓声があがった。

「あら?なんの騒ぎかしら?」とピカちゃんは自室のドアに厳重にかけた結界をはずし、丁寧にチェーンロックもはずし、岩の重たいドアをそ〜っと開けてみる。

 その瞬間にゃーさんが、しゅっと、豪華な三段御重を部屋に滑り込ませた。
 「召し上がれ!」
 「きゃっ。ありがとう。いただきます。」
 聞き取れないほど小さな声が聞こえたと思うと、もうドアはしまっていた。

 にゃーさんは満足げに振り向き、一同に「みなさま、ありがとう!無事に届けられましたにゃ!」と声をかけると、「おぉ!よかったよかった!」と大歓声のうちにみな、わいわいがやがやと解散となった。

 にゃーさんは、ガムシロップを10個持ってきてグラスに注ぎ、踊り終わった後の柔軟体操をしているウズメさまに差し出した。
 「ありがとうございました。ウズメさまの素敵なダンシングのおかげですにゃ。オモイカネさまもありがとうございます。さすが信頼と実績の知恵袋さまですね」
「あらありがとう、にゃーさん。あたし、失敗しないので」
「ははは、さすがですなウズメさまは、私もお役に立てて光栄です」
「おふたりともサロン車両へいらっしゃいませんか?美味しいずんだ餅と煎茶を召し上がってくださいにゃ」
3人は軽やかにおしゃべりをしながらサロンカーへ向かって行きました。

つづく…


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