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連載小説『八百万かみさま列車、たゆたう』第9話
深夜二時、車窓に月が明るい。今日は大寒。一年で最も寒いと言われる候。
サロン車両には冬季限定の薪ストーブがある。炎のゆらぎが気持ち良い。薪が時々はぜる音。火にかけているやかんから立ち上る湯気。隣の網の上では誰かがスルメを炙っているようだ。小鍋には熱燗も。用意周到はどなたかな?
月夜の雪が静かな音をたてる。静寂の中にかすかに。
深夜仕様で間接照明がふんわり優しいサロン車両でザッハトルテとアールグレイを満喫しながらツクヨミさまがおっしゃった。
「このウィーンのチョコレートケーキはおいしいね!さりげなく居る杏ジャムが最高ですよー」
同じくザッハトルテをコーヒーで楽しみながらイナバのうさちゃんがおっしゃった。
「わあ!美味しい!異国の味がしますね。記念に写真撮っておきます」
「うふふ。自分で見返す用だね」
「そうです。私SNSはやっていないので、自分の写真フォルダの中でだけ楽しんでいるんですよ」
「いい感じでメモリアルを作ってくれるよねスマホって」
「そうなんですよ!それを観るのが楽しみで。綺麗な空とか神社さんとか猫の写真をいっぱい撮っておくと最高ですよ」
*
薪ストーブであぶったスルメと熱燗をお盆に乗せた酒造神の松尾さまがふたりに近づいてきた。
「ツクヨミさま、うさちゃん。こんばんわ。お隣お邪魔してもよろしいかな?」
「どうぞどうぞ、京都も冬が寒いといいますが、お身体大丈夫ですか?」
「わっはっは。ワシは御神酒で免疫力アップしとるから大丈夫だ。何しろ神さまのお米と酵母だからね」
「わあ!肴はあぶったイカですね!」
「わっはっは。そうじゃよ。演歌の名曲だね」
と、そこへ、事代主神(コトシロヌシノカミ)さまがいらっしゃった。
「お、私もお邪魔してよろしいですか?今日も美味しい鯛が釣れたんですよ。一尾はお刺身に、もう一尾は焼き魚にしましょう。そして私はエビスビールを頂きますよ」
「瓶ビールで鯛が二尾描かれているとラッキーアイテム。のあれですな」
「そうですそうです。美味しいんですよ。濃厚なお味でね」
「わっはっは。事代主神さまは恵比寿さんも兼任しているからね」
「えぇ、忙しいのがやっと落ち着きましたよ。十日戎(とおかえびす)と七福神めぐりが1月は重なるのでね。ふー」
「おつかれさまです。今宵はゆっくりしましょう」
「ええ、ぜひに。今晩は、雪見酒となりますな」
「どこかの露天風呂で雪を眺めながら一杯飲んでいる人間がいるんだろうな」
「えぇ、ちょこっとだけにして、お湯から上がってほしいの」
「うむ、ほんとに。あとは客室でゆっくりとね」
「では、美味しい日本に乾杯!」
「乾杯!」
「私も紅茶で乾杯!」とツクヨミさま。
「わたしも。乾杯!」とうさちゃん。
深い夜の豊かな時間を楽しむ神さまたちであった。
つづく…