見出し画像

連載小説『八百万かみさま列車、たゆたう』第10話

 お湯屋車両にある湯上がり処はポカポカさっぱりした神さまたちで大賑わい。

 座ると二度と立ち上がることが困難なソファにちょこんと座ってイチゴパフェを食べているのは鞍馬山の護法魔王尊さま。
「うまい!あまい!おいしい!湯上がりパフェサイコー!冬のいちごの美味しいことよ!」

 円卓の左側では千手観世音菩薩さまが白玉フルーツあんみつを食べている。
「えぇ、さっぱりしますわね。あんみつも美味しいわ。あら?毘沙門天さまのは時間がかかっているわね」

 そこへ円卓の右側にいらっしゃる毘沙門天さまにジンジャーエールとティラミスが届いた。
「おぉ!きましたな!ティラミスのほろ苦さが好きでね。生姜たっぷりのジンジャーエールも爽快ですよ」

護「今日も鞍馬山を登る人々がたくさんおるの」

千「えぇ、日本人だけじゃなく海外の方もたくさん山歩きされているわよ。義経さんも弁慶さんもびっくりでしょうね」

毘「鞍馬山には活力がありますからな。魂に力が入るんですよ」

護「そうじゃな。えいでんさんの観光パンフレットにな、ワシが”650万年前に金星から舞い降りたとされる奥之院 魔王殿”とさらっと書いてあって、みなに驚かれるよ」

千「うふふ。普通にびっくりしますよね。金星からってね。あたしも二度見しましたもん。え?って」

毘「ははは。なんしろ鞍馬寺の本殿金堂の前の金剛床の先に隕石が落ちたとされる場所がありますからね」

護「そうそう、ちょっとした宇宙からの通り道になっているからね。気持ちの良い場所じゃよ。ベンチに座って太陽を存分に浴びている人間がたくさんおるんじゃ」

千「それにしても、お名前が”魔王”さまだからちょっと驚く人が多いみたいね」

護「ははは。そうじゃな。ま、人によってワシの見え方は変わるでな。その人の見え方、呼び方でよいのじゃよ」

毘「お?なにか向こうの空に何か見えますな」

千「あら、左手をかざして眺められているのね。そのお姿とても凛々しいわ」

毘「おっと、いつものくせでついつい」

護「あっはっは。かっこいいぞ!ぜひ本殿金堂の毘沙門天さまだけでなく、ちょっと足を伸ばして霊宝殿の中の毘沙門天さんにも会ってほしいな」

千「えぇ、畳敷になっていましてね、座って拝んでいらっしゃる方がたくさんいらっしゃるわ」

毘「ありがとうございます。褒められると照れますな」

護「しかし鞍馬駅から本殿まで歩くのは"九十九折りの坂"といってきついみたいだが、"本殿金堂"から"奥之院魔王殿"経由で貴船さんの方へ降りる方がキツかったという人が多いでな」

千「えぇ、魔王殿から西門はかなりの傾斜で道幅も狭く、膝が笑いすぎて転がりそうになったって人が多いみたいよ」

毘「ほんとに。くれぐれも気をつけて歩いてほしいの。足腰は大事じゃぞ」

つづく…


いいなと思ったら応援しよう!