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連載小説『八百万かみさま列車、たゆたう』第12話

 二月二日は「節分」。翌日は春が始まる「立春」。冬の長いお籠もりが終わり、草木の芽吹き、森羅万象が生まれ出る。生きとし生けるものの始まりを愛でるのである。節分の豆まきで鬼という名の邪気を祓い福を招く。最近の恒例行事となった恵方巻で毎年、吉となる方角を知る。

 さて、鬼の形相から畏敬の念を持って恐れられている強面(こわもて)チームのみなさんがサロン車両に勢揃い。節分の鬼と連想されてしまうケースもあるみたい。みんな甘いものが大好きなので、スイーツ神会を開催中。

 金峰山寺の金剛蔵王大権現さまは大きさと見た目の「青!怒!」のインパクトが強すぎるので皆に恐れられている。

蔵「ワシは七メートル上から青い顔で見下ろしているからのぅ。みんなに怖がられておるよ。お、ワシのカヌレ、うまいぞ。外がカリッと中ふんわり!ラム酒が美味!」

 信貴山朝護孫子寺の毘沙門天王さまは鋭い視線をふわふわのフルーツサンドに向けながら言う。

毘「わたしの眼差しの鋭さは見るものを萎縮させるようだ。このイチゴとふわふわの生クリーム、おいしくてほっぺが落ちるのだ」

 お寺のガードマン金剛力士さまは双子だけど好みが違う。阿形(あぎょう)さまは和菓子派。吽形(うんぎょう)さまは洋菓子派。 

阿「わしら、コワモテチームじゃん?人間はわしらと目が合うと"こわっ"って言って素早く拝んでそそくさといなくなってしまうからの。さびしいわい」白玉フルーツあんみつのさくらんぼを食べながら阿形(あぎょう)さまがおっしゃった。

吽「わしらも相当大きいからね。上から睨みつけられたらそりゃ怖いさー」モンブランケーキのスペシャル倍量の濃厚栗クリームを食べながら吽形(うんぎょう)さまがおっしゃった。

蔵「秋田のなまはげくんたちも毎年、子供らに泣かれているようだが、最近ではご当地キャラとして大人たちに愛でられていてうらやましいのぅ」

毘「秋田県の居酒屋では年中引っ張りだこのようだよ」

阿「男鹿半島の赤神神社五社堂の999段の鬼伝説もすごいよね。鬼と人間との攻防戦。あの石段はきついけど、周りの樹樹が気持ち良くて記憶に残る参拝になっているようだよ」

吽「うむ。立石寺といい、1000段クラスの階段はなかなか登り甲斐があるよね」

蔵「石段といえば、羽黒山の2446段が一番多いみたいだぞ」

毘「その次は、金刀比羅宮の1364段」

阿「そして第3番目に多いのは伏見稲荷大社の1276段のようだよ」

吽「今度、人間の霊体体験ツアーで全部登ってみようかな?猿田彦さんに相談してみよう」

阿「あ、オレも行く」

吽「御意」

蔵「あっはっは。金剛力士さまはお元気じゃな。ぜひ、体験談を聞かせておくれ」

毘「私も聞きたいですぞ。では来月、またスイーツ神会を開催しましょう。それまでは、人間の邪を祓って願いを叶える日々を送ろうぞ」

蔵「そうじゃな」

つづく…





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