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連載小説『八百万かみさま列車、たゆたう』第8話
神さまの世界の車窓から、時空を超え天空を飛ぶ伝説を眺めることができる。
サロン車両のソファ席でゆったりとくつろぎながら、道真さんは太宰治天満宮名物”梅乃枝”を召し上がっている。
「あ!今日も私の梅の木が飛んでいますよ。京都から九州へは距離があるから無理しないでーって言っているんですけどね」
江戸っ子に愛された屋台蕎麦の二八を豪快に食しながら将門さんがおっしゃった。
「健気な梅の木さんだな。主君への忠誠心と慈愛に溢れておるな」
「ほんとに、梅の木と太宰府で再会した時には感涙が止まりませんでしたよ」
「最高の"来ちゃった"ですな。今でも一番に咲くそうですな、その飛梅さんは」
「はい、梅の実が一生一代のお守りになっているんですよ」
「しかし、我々は一部の人間に日本三大怨霊と言われておるが、困ったものだの」
「あはは、怒りや恨みは無いのにね。そもそも我々は神様になれていないですしね」
「そのとおり!武士道や随身道の真逆ですからな!」
「えぇ、私も学問と日本の文化芸術を愛する者ですからね。」
*
「お!次は大きな天の岩戸が飛んでいくよ」
「おぉ!戸隠神社の方へ飛んで行くのですな。天之手力雄命(アメノタヂカラヲノミコト)さまは力持ちですからね」
「ほんとに。こちらも九州から長野だから相当な距離ですな」
「そうですね。まさに神業ですね」
「しかしタジカラさまのすごいところは、身体的な力強さだけではないのだよ。魂や精神の力強さも併せ持つバランスの良い神さまなんじゃよ。日本人に備わっているまさに"心技体"。江戸の湯島天神さまは道真さんが有名じゃが、元々はタジカラさまがお祀りされているそうですな」
「はいそうです。ご一緒させて頂いております。時々、腕相撲や歌詠をして楽しんでいますよ」
「ははは。あなたがタジカラさまと腕相撲とは!見てみたいものじゃ!しかし湯島は気持ちの良い場所じゃな。小高い坂の上から不忍池を望む景色を広重も絵にしておったな」
「はい、風光明媚で私も大好きな場所ですよ」
*
「お!今度は空海さんの三鈷杵(さんこしょ)が中国から飛んでゆくぞ。高野山へ向かっておるの」
「すごく輝いていますね。高野山の丹生明神さまと高野明神さまが待っていらっしゃいますね」
「あの場所は奇跡の土地ですな。蓮の形といわれておるのも納得じゃ」
「ほんとうに、私もまたお伺いしたいです。金剛峯寺さんで写経をすると奥之院に奉納してくださるんですよ。写経は気持ち良いですね」
「ほう、ワシも写経は好きじゃよ。墨からするんじゃが、その時間がとても豊かなのだよ。そして筆で一文字一文字したためていく。魂が喜ぶんじゃな。般若心経がこれほどパワフルなのも空海さんのおかげだそうじゃな」
「ええ、空海さんのファンは今でも多くいるんですよ。私も四国八十八ヶ所のお遍路さんをさせて頂きますよ、必ず!」
「ほう、いいな。ワシも行きたいな」
「ぜひ、ご一緒に!」
「ははは。ぜひ!しかし空海さんは今でも忙しそうじゃの。お遍路さん全員の隣を一緒に歩いたり、このお湯屋車両でも神さまの背中をしょっちゅう洗っておるぞ」
「ほんとに徳の高いお方ですね。働きっぱなしだからたまにはバケーションしてほしいですね。有馬か湯布院…おすすめの湯治場がたくさんありますね日本は。私はよく別所温泉へ行っていますよ。太宰府から近いですから。温泉で蒸す野菜が美味しくてね」
「ワシも行きたい…」
「ぜひ!ご一緒しましょ!」
道真さんとまさかど様の楽しいおしゃべりはいつまでも続くのだった。
つづく…