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行動に移す勇気

先日電車に乗った時の話。
駅のホームで電車を待っている時、私の前に30代くらいの男女が立っていた。
女性の方は金髪で、ショートパンツに肩の出たトップスを着ていて、
男性の方はネックレスと短パンと薄い色のサングラスをしていて、一見してちょっと治安悪めな風貌。程なくホームに電車が入ってきたけれど、何となく同じホームドアから乗るのが躊躇われて私はそれとなく移動して隣のドアから乗り込んだ。

午後4時を回っていたので電車の人混みはまばらだったけど、私のいた駅が乗り換え駅のこともあって結構な人が乗り込んだ。先ほどの男女は上手に乗り込んで空いている席に隣同士で座った。私は電車が来る直前に移動してしまったので、座れずに入り口からすぐ横の席の前に立って何となく乗り込んだ他の乗客を見ていた。近くでイベントがあったのか、子供連れの家族が目立った。
発車の時間まで少しあったのもあり、電車はしばらくドアを開けたまま停車していて、座席は全て埋まり、席の前の通路にもちらほら人が立つほどになっていた。
そこへ、おじいちゃんが一人乗ってきた。少し危なっかしい歩き方でギリギリ杖なしで歩ける程度。ホームに電車がすでに止まっていたからか動きは遅いけど慌てているようにも見えた。
次の瞬間、先ほど席に座っていた男女が何も言わずに立ってドアの付近に移動していった。色々びっくりしたけど一番驚いたのはそのスピード。本当に入ってきた“瞬間”だった。おじいちゃんは自分の足元に気をつけて下を見ながら乗ってきたから、誰かに譲られたこと自体気づいていないようだった。おじいちゃんが顔を上げて周りを見回した時にはすぐ近くに二人分の空席があって、そのままそこへゆっくり座った。おじいちゃんのすぐ後から、小さい男の子を連れたお父さんが乗ってきて空いていたもう一つの席に男の子を座らせて、目の前の吊り革に捕まった。直後に電車が発車した。

私はたまたま居合わせたそのシーンに、ただただ感動してしまった。人は見た目じゃないというのもそうだし、何となく電車に乗る前にホームドアを変えた自分に少し負い目を感じた。あの男女は、夫婦なのかな。子供はいるのかな。いたとしたら、席を譲るように教育するのかな。私が同じ状況だったらあんなに早くは動けないと思った。優先席以外でも、席を譲る光景はよく目にする。そういう時の周囲の反応はさまざまで、露骨に寝たふりをする人もいれば、スマホに夢中でそもそも気づいていない人、気づいているけど譲り譲られを想像して踏み出せない人。ちなみに私は最後のタイプ。なんて言っていいのか、断られたらどうしようとか、まごついているうちに他のさっと行動できる人が対応して問題解決する。たまに勇気を出して自分が席を立つ時も、立った後が居た堪れなくて、降りる駅でもないのに降りて、早足で別の車両に移動したりするのが精一杯。

困っている人がいたら助けるとか、席を譲るとか、倫理観としてわかっていることでも、実際に行動するのにはとても勇気がいる。だけど大抵のシーンで、助けてくれる人はそれがさも当たり前であるように自然に行う。押し付けがましくもないし、ぎこちなくもないし。中にはめちゃくちゃ勇気を出してやっている人もいるのかもだけど。でも先日の男女は本当に無言で当たり前のようにやってのけて、私はすごくグッときた。その後数駅を過ぎておじいちゃんは降りていき、その男女と私はさらに数駅後の同じ駅で下車した。時間にして20分くらいのことだったけど、その日一番の出来事だった。


行動する勇気、という意味で関連してもう一つ。これは私の勇気が出なかった話。
その日は荷物を頼んでいて、届いたらすぐに使いたかったから今か今かと待っていた。最近はもっぱら置き配を利用しているんだけど、たまたま時間指定したせいで対面受け取りになっていた。指定した時間は確か18:00から20:00だったと思う。
19:00を過ぎたあたりから猛烈な雨が降り出した。最近ゲリラ豪雨とか線状降水帯とかとんでもない勢いの雨が降るけど、まさにそんな感じの雨だった。ほぼ嵐。
家の中にいても外の雨の音がすごかった。
そして20:15ごろ。ピンポンがなって、インターフォンから「はい」と返事をしたけど、外の雨が激し過ぎて何も聞こえなかったんだと思う。「はーい」ともう一度返事をしたら「佐川急便です!」と声が返ってきた。
ドアを開けるとビッショビショのお兄さんがいた。でも荷物はほとんど濡れていなくて、「遅れて申し訳ありませんでした」と開口一番謝られた。
(いやいや、この大雨ですから!?15分しか遅れてないの十分すごいし!?むしろ届けてもらってありがとうだし!ご苦労様?は確か上司が部下に言う言葉だから…お疲れ様?いやなんか違うよな。びしょ濡れでなんだか申し訳ないし、本当にありがとうございます、風邪ひかないでくださいね、気をつけて帰って…!)
一瞬で心の中でそれだけ思ったのに、雨の中ありがとうございました、とそれだけ言えばよかったのに、実際に口から出たのは「あ、えと、ありがとうございます…」と死ぬほどコミュ障な返事だった。私が何かモゴモゴっとしたので、お兄さんが「?」ってなって変な間が空いて、気まずくなった。日頃からお礼はちゃんと伝えようと心がけているし、+αの一言がより嬉しいことも身をもって知っていたのに、ちゃんと感謝を伝えることすら勇気が必要で、その勇気も咄嗟に出ないのかぁと、少し落ち込んだ。
次もし似たような状況になったら、今度こそ口に出して伝えたいと思うし、当たり前のように席を譲れる人になりたい。

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