第四章 雨音は危険な報せ
授業→部活→夜勤の無限ループ。
私は大学生なのか。それとも捕虜なのか。
現代版蟹工船と言わんばかりの生活。
夢と希望を乗せてきた船は舵が取れず、ただただ太平洋上を彷徨うばかりです。
その日も堂島川を眺めながらエコーを深く吸い、川の向こうの景色に叶わぬ希望を乗せて気体より重い煙を吐き出していました。
その日は生憎の雨でした。
「この雨が俺の汚れた心を洗うシャワーになれば」
雨は激しく降るわけでもなく止むわけでもなく、だらだらと振り続けました。
今日は綺麗な花がたくさん店の前に並んでいます。
本日は水商売をするために生まれてきたJさんのバースデーイベント。
「頼むで。お前だけは生きとけ。しっかり金取ってくれよ」
ダミ声のJさんから直々に勅命を受け、働く猫型ロボットの私は二つ返事で了承。
(※実際は拒否を知らないドブネズミ人間)
店内には6人の戦士たちが勢揃い。
皆の顔はラバウルの空に消えて行った兵士のそれでした。
6人の戦士はJさんを除いて各々の顧客確保のため店外に走ります。
階段を降りてくる足音。
私にはサイレンにしか聞こえません。
警笛、警鐘、そんな言葉でも表現しづらい背筋がゾクッとして全身の毛穴が排便後の肛門の如く引き締まる感覚。
店内に現れたのは2人組のギャル。
年齢は20代後半。
食べるには少し早いが、味はしっかりしている。サランラップに包んで1ー2週間寝かしてから食すのがベターといった雰囲気の女。
「おめでとー!!今日はギャンギャン飲んでいくからよろしく!!」
出た。この義務教育をしっかり履修せず大人になった女。
吐き出す言葉に品がなく、ただ浮かんだ言葉を吐瀉物のように吐き出すだけ。
私はそう言った女が大好きでした。
早速シャンパンを頼まれた2人。
シャンパングラスとアイスペールを席に運ぶ私。
近くで見ると化粧の濃さがはっきりと見えます。
基礎から下地、そして仕上げ。
まるで建設工事の流れを己の肌で表現したかのような造り。
竹ぼうきに似たつけまつげが私の思春期の心を突いてきます。
国営放送NHKではまず放送できない内容の会話が続きます。
ギャルの国歌"浜崎あゆみ"でさらに酒は加速。
気づけば2本目のシャンパンも空っぽに。
「テキーラ、人数分!」
常人を悪魔の手の中へと誘う液体テキーラ。
私はショットグラスを用意して悪魔の液体を注ぎました。
DJ兼運転手のHRさんがこちらに近づいてきます。
「一個スピリタスにしろ。あの女酔うたら糞エロなるから」
不敵な笑みを浮かべるHRさん。
死神が鎌を振りかざしました。
指定通りにスピリタスを混入。
早速席に運ぶ私。
はしゃぐギャル。
ここに地獄への片道切符が混ぜられていることも知らずに。
次の瞬間、私は血の気が引きました。
「よっしゃいこや!!」
と真っ先にテキーラに手をかけたのはJさん。
しかし、彼が手に取ったのはスピリタス。
一番奥に置いたはずなのに、なぜ。
運命という死神はJさんの首筋目がけて大きな鎌を振り落としました。
宴もたけなわ。ギャル2人は会計を済ませ、帰りました。
ハイヒールが地面に当たるコツコツという音がJさんの体内のアルコール時限爆弾が破裂するまでの時間を刻むようにして。
続--
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