第十四章 泣いてない。いつもより炭酸が強いだけ。
扉が開く音と同時に現れたのは"お金の愛人"社長Aさん。
強欲、支配、権力が融合し、服を着て歩いているような男性。
迎えにいった戦士たちも後に続きます。
その顔は、ミッドウェーに向かう兵士の"それ"でした
その後に雪崩れ込むキャバ嬢たち。
全員食べても歯応えすらなさそうなガリガリな腕、竹ぼうきのようなマツエク、大きく盛られた髪の毛は孔雀が求愛する時のようになっていました。
その後ろをついてきたのは、どこかで見たことあるような男。
「ファッ!!こいつ某有名女優の弟や!!なんや激アツやないか!!」
一時、テレビに多数出演していた事もあり、顔を見ればすぐわかりました。
「こんな有名人と酒飲めるんや!!もう、この仕事最高!!」
今までの哀しみ、苦しみが綺麗に精算されたように健やかな気持ち。
アルバイト史上最も偉大な日。
後にも先にもこんな経験なかなかない。
楽しむしかない。苦しみなど忘れて。
明日の授業も、その後の部活も、その後の夜勤も、何もかも耐えれる。
この経験が武器になる。
心からそう思いました。
キャバ嬢6人とA社長、付き人2人、そして有名人弟におしぼりを渡しました。
「ベルエ3本持ってきて」
一撃15万円のご注文。
ジンバブエの公務員の初任給が日本円で約4万円。
3ヶ月分の給料に相当します。
震える手でシャンパングラスとベルエポックを持ち運びました。
ちなみに私の時給は1000円。頑張り次第で全然上がるから!!と言われたものの、その後上がる見込みはなく大学を卒業しました。
当時の大阪府最低賃金を下回る時給だったものの、リスより心臓が小さいので、何も言えませんでした。
もちろん、チップは会社に没収されます。
「あ、ごめん!テキーラも一本持ってきて」
基本的に金持ちすぎた人間は注文の間違え方が狂っています。
テキーラは法律で禁じるべき悪魔の酒。
人が人ではなくなる凶器。
当たり前のように一本丸ごと注文。
私はショットグラス人数分とテキーラ一本を持って席に向かいました。
ショットグラスにテキーラを注がず、なぜかジョッキグラスに注ぐA社長。
義務教育を満了していないのか、それともショットグラスの使い方を知らないのか、シンプルに頭壊れてるのか、とにかく理解できませんでした。
付き人の男性(なぜか黒人)は、まるでマニュアル通りに、決められたレールをまっすぐ進むかのようにそのジョッキを口に運び、満面の笑みで一気飲みしました。
(※この黒人の男性は、ハーフです。眉毛に切り傷があったので、少なくともろくでなしブルースの葛西より喧嘩が強いと思います)
ものの20分ほどでテキーラは空き瓶と化しました。
席についたHさんは、ありがとぅございまぁぁす!!と言いながら極上のシャンペンの栓を抜きました。
伝説のクラブママRさんはA社長の横に座り、社長との会話の合間にお酒を作っていました。
恐らくこの人、接待してる目と酒の残量を確認する目とスタッフの状態を確認する目が8つあるんだと思います。
北新地のママ、恐るべし。と言ったところです。
6人のキャバ嬢と付き人、弟、そして我々スタッフで談笑しながら飲酒。
あっという間にペルエポックは空っぽになりました。
「めんどくさいから10本くれ。ベルエ」
50万円です。
お金とは?
私の時給で500時間の労働時間に相当する金額。
「お金ってなんだろう??ハハハハ!!持ってる奴はすげえやぁあ!」
ほぼ白目を剥きながら、シャンペンを席に運びました。
「じゃあ、ここでショータイム行っときましょか!!」
そう叫んだHさんが立ち上がりました。
続いてJさん、Nさん、Kさんも立ち上がり、4人は裏方へと消えていきました。
残ったのは代表と私と喧嘩番長KNさん。
私はこれから何が始まるのかわからないまま、ただぽつんと席に座り、ビクビクと何かに怯えながらやけに強い炭酸を喉に流し込んでいました。
数分後、バァーン!と扉が開きました。
4人の戦士はバニーガールのコスプレで颯爽と登場。
ドーンと盛り上がる店内。
私はシャンパングラスを片手に呆然としました。
「一体何が始まるんや…」
今までの流れは序章に過ぎない。
鬼畜の宴が今から始まるのです。
続----
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