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カルマの行方

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サラリーマン丸井和彦は平和な街"高槻市"に億劫としていた。 その丸井の前に現れた日雇い労働者宇賀はある仕事を持ちかける。                          ➖「あ…
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#布施

第十話 とれたてのカルマはいらんかね?

第十話 とれたてのカルマはいらんかね?

 しばし続いた沈黙を破るように優華はデンモクを手に取り、慣れた手つきで送信した。
 ピピピッと電子音が流れた後、画面上にタイトルが現れた。

"時代おくれ 河島英五"

 昭和を代表するシンガーソングライター河島英五。
 男の哀しさ、生き様を太い声で表現した名歌手だ。
 丸井は赤子の頃に父親から子守唄として聞かされていたため、この名曲には敏感に反応した。
「河島英五やんけ。子供の頃思い出すわ!バ

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第八話 金玉取られたアントニオ

第八話 金玉取られたアントニオ

"サンクチュアリ"。看板にはそう書かれていた。
 三階の一番奥に小さな看板を掲げた店だった。
入り口には大阪府知事広保貴之の選挙ポスターが貼られているが、黒のマジックで大きく"✖︎"と上から書かれていた。
 ソ連崩壊後の東欧を彷彿させる飲み屋。
 バイオレンスが何よりの表現技法である東大阪においてそれほど珍しい光景ではないが、"平和な街"高槻で暮らしている丸井にとっては、ハンマーで殴られたような衝

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第七話 布施"嘆き"の壁

第七話 布施"嘆き"の壁

 外に出ると雨はすっかり止み、綺麗な月が人々の罪を照らすかのようにはっきりと見えた。
 「きれいな月やね。余計に酔ってしまいそうやわ」
優華はセミロングの髪を風に靡かせながらそう言った。
「月はいくら綺麗でも、この機械油の臭いで台無しやがな。鼻の穴に556ぶち込まれた気分や」
 丸井はグニャっと曲がったハイライトの煙で綺麗な満月を覆い隠すように夜空に吐き出した。
「ほんま口悪いな丸ちゃん。556鼻

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