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息子のお小遣い

事業所との出会い

 知的障害者の息子は就労支援事業所で仕事をしているので、ささやかな給料を得ています。事業所でのお弁当代や催し物の代金などの諸雑費を差し引いたものが、お小遣いになります。

 この事業所は、たくさんの事業所の見学会に参加し、人から評判を聞けば、見学を申し込み、手応えがあれば、息子を体験実習に送り込む。さらに手応えがあれば、学校のカリキュラムの実習期間に、公式に息子を送り込む、という果てしない過程を経て、見つけた進路先でした。

事業所の教え

 この事業所ではスタッフと、お金の勉強をしたり、お小遣い帳を付ける訓練をします。訓練について担当者から最初に言われたことは、

「障がいのある子どもたちは、なんでも先回りして、与えられる環境で育っていることが多いです。だから欲しいものを自分で得るという経験が少ないので、物欲が乏しい子どもも多いです。少し危険かもしれませんが、お小遣いで好きなものが手に入るという経験をすると、お仕事を頑張れば、お小遣いが得れる。そして自分の好きなものを買いたいこれを積み重ねて、労働意欲に繋げていきます。これが方針です。働く意欲は、単純に物欲からですよ。」

なるほどおっしゃる通りです。

「しかし、一度お金を使うことを知ると、嬉しくて、財布がカラになっても、まだ欲しがることもあります。(←まさに今ココ)だからある意味、危険ではありますが、こういう訓練は、就職を目指している子どもにとっては、とても大切なことなのです。」

 だから、私は毎回、ひと言いいたいのを我慢するという訓練です。
「自分で儲けたお金だから、私は文句を言うまい。」と呪文を唱えて、息子が買ってくるマンガやしょうもない大図鑑シリーズを黙認します。
 息子はまだ貨幣価値の概念が乏しいので、1000円紙幣があれば、欲しい物が手に入るという認識です。財布はすぐ小銭だらけになります。そして私に「紙のお金をくれ」と絡んできます。ですので事業所から1週間ごとにお小遣いを分割して、もらうようにしています。

親の忍耐

 息子は本が好きで、好きなジャンルは、マンガはワンピースやナルトやら多数、ウルトラマン、戦隊もの、アンパンマン、ゲゲゲの鬼太郎やら多数、車、バイク、乗り物、武者甲冑、民族の本など多岐に渡ります。本以外では、おやつもゲームも買いません。

 これまでは1人で家から出ることが出来ない息子でしたが、古本屋で漫画を買うと、安く買えることを学習したので、お休みなると、徒歩でいくつもの本屋を見て歩きます。私がついて行けない程の距離なので、1人で本を目指して外出ができるようになりました。物欲の効果的面でした。

 嬉しそうに持ち帰った本を見せられると、正直うんざりしますが、「頑張って働いたお給料で、自分の好きなものを買えるのは、いいね。」と笑顔で言います。
 息子は毎日を「てへへ」と笑って楽しく過ごしています。元来気が短い私にとって、息子と過ごすことは忍耐の訓練ですが、息子にとっては、生きて行くこと全てが訓練なのです。

 私は「ああしんど」と呟きながら、「てヘヘ」の息子と今日も1日がんばるのです・・・ああ飛行機に乗って家出したい・・・

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