息子と温泉と「おたべ人形」
息子のお風呂事情
息子は温泉好きなのですが、入浴時には見守りが必要なので、男性がいないと大浴場を利用できないので、なかなか温泉にはいけません。
自宅での入浴では、思春期以降は、母親に風呂を覗かれるのはイヤですし、私も覗きたくないので、ほぼ放置状態です。だから適当に洗っているみたいで、烏の行水で5分ぐらいで、風呂場から出てくることもあります。
コロナ前は、週に1回、ヘルパーさんと銭湯に行くことを何より楽しみにしていました。そこでヘルパーさんの見守りのもと、身体や頭を洗い、髭剃りの練習もしていました。ところが銭湯が廃業になったので、なかなかその機会を得ることは難しくなりました。
温泉に行けない理由
そんな特殊なお風呂事情がある我が家です。私も温泉は大好きですが、さすがに私だけが温泉に行くことは、可哀想でできませんでした。
先月、大学時代の友人から温泉に誘われました。いつものように事情を話して、断るつもりでしたが「それならウチのダンナを風呂入れ要員で連れていくわ。」と
言ってくれました。
とても有難い申し出でなので、一緒に温泉に出かけることになりました。
でも一般の方は知的障害者と関わったことはないとお思うので、息子の入浴時の対処法をベテランのガイドヘルパーに聞いたり、学習効果はないと知りつつ息子にも言い聞かせて準備をしていました。
息子は温泉に行く
少し不安な気持ちの中で、当日を迎えました。いつもはシャイで恥ずかしがり屋の息子ですが、友人ご夫妻に馴染み、旅行も温泉も存分に楽しんでしました。大浴場も露天風呂も楽しかったと笑顔がいっぱいでした。
朝食の時に、アクシデントで息子が牛乳まみれになりました。そのとき離れた席で食事をしていたおばさんが布巾を持って走ってきてくれました。スタッフやみなさんが助けてくれて、あっという間に事態が収集できました。
皆さんに心からお礼をして、その場を後にしました。
こうして息子も私も十二分に旅を満喫することができました。ことに友人ご夫妻には感謝の気持ちでいっぱいでした。ありがとうございました。
できたら・・・
息子は外見上、障害者に見えません。だから過保護に身の回りを世話する母親に見えていると思います。とくに息子は言葉を話せないから、私は1人で話をしているイタい人に見えるでしょう。時々、想像して笑ってしまいます。
180センチをこえる青年に「トイレは大丈夫?お尻は拭いてね。」と声掛けをしたり、忘れ物はないように、水分を飲んでね。とマメに声をかけているのです。
知らない人はギョッとなるような声掛けレベルです。やってる私も正直めんどくさいです。でもしないと、もっと困った事態になってしまう可能性があるのです。
息子は身体上の障害はありませんが、タオルをしぼれない。紐を結べないなど、細かい動作が苦手なので、もたもたすることも多いです。
だから少しだけ「もしかしてこの人は何かがあるのかもしれない。」と思っていただけたらと思います。
おたべ人形
重度障害のお子さんを持つ友人が
「ずっと、すみません。すみませんと謝ってきたから、もういい加減、謝るのも飽きてきたわ」と冗談を言っていました。
わたしも息子が生まれてから自分がおたべ人形になったように、よく頭を下げてきました。おたべ人形は京都のお菓子屋さんの店先で首を上下に振り挨拶している人形です。
息子のやらかすトラブルで、世間に首がおかしくなるほど頭を下げながら、ふと「わたしの人生はおたべ人形やな」と思うことがありました。
でも2つも意味があるのです。迷惑をかけているときは「すみません」、助けてもらえたときは「ありがとう」と、どちらも心をこめておたべ人形なのです。
そして、私の生きている世界は、そう悪いものではないのだと確信するのでした。