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「二つの祖国」と曽祖父の生涯

出会いは「白い巨塔」

山﨑豊子は多くの作品を生み出しておられる大作家です。初めて読んだ作品は家の本棚にあった「白い巨塔」「続・白い巨塔」でした。

母が看護師に復帰した頃に、病院で「白い巨塔の財前五郎のモデルだった、〇〇五郎とは同期だ」とちょっと自慢げに語る医者がいたそうです。確かに自慢したくなるネタです。そんな話を聞き、それじゃあ読んでみようと本に手を伸ばしたのかもしれません。

山﨑豊子の原作は10代のわたしに強烈な印象を与えました。山﨑豊子の作品は、実在のモデルをベースに徹底的にリサーチやインタビューを重ねて物語を執筆するスタイルのようです。史実と虚構の融合した作品なので、リアリティは半端ないばかりでなく、ぐいぐいと読者を惹きつける筆の力も感じられました。

「二つの祖国」
ここ数ヶ月、広島からアメリカに移民に出た曽祖父の足跡を辿っていました。日本での調査も限界が見えてきて、いささか中だるみ状態です。
あとは広島県公文書館で、曽祖父母の当時の旅券(パポート)のコピーをとれば、調査ファイルは完成です。これがなかなか行けなくて足踏み状態です。

そんな中、たまたま小栗旬主演のドラマスペシャルを見ました。曽祖父が生きたアメリカは、このような世界であったのかと衝撃を受けました。

「二つの祖国」は1984年(昭和59年)に「山河燃ゆ」と言うタイトルでNHの大河ドラマになっていました。最終回の記憶だけが鮮明に残っていました。

原作「二つの祖国」を探し出しました。ドラマでは描ききれないエピソードも多数あり、登場人物の背景の裏付けがしっかりと書かれていて、大変、読み応えがありました。いつしか日本とアメリカの2つの国に翻弄された家族の物語に、曽祖父の人生を重ねていました。

曽祖父の生涯と私の知らない歴史
戦前の広島県出身の移民数は日本最多だったので、作中でも広島県出身者が幾人も描かれていました。皮肉にも最初に原爆が投下されたのも広島県でした。母の実家は山間部なので、被害を免れましたが、伯父は広島市の片付けに駆り出され、白血病で亡くなっています。いわゆる入市被曝です。

カリフォルニア州で生活していた曽祖父は、晩年ワイオミング州のハートマウンテン収容所に収監され、そのまま亡くなっています。家族と引き離された収容所での曽祖父の死を、作中の移民1世の苦しみと重ね合わせました。なにより私自身と戦争が決して無関係ではないことを思い知りました。

いつしか主人公の天羽賢治の二つの祖国に翻弄され苦悩する姿とヒロイン椰子の運命に、身近に存在するかもしれない誰かを重ね合わせていました。

戦後の東京裁判の内容も詳しく描かれているのですが、その内容を全く知らない自分に驚きました。戦争も東京裁判もそんな昔のことでないはずなのにです。なんだか物知らずな自分が情けなくなって、しばらく本を手にすることが出来ませんでした。

読了
本を読み終えた時には、充実感、満足感、疲労感が押し寄せてきました。このような壮大な物語を描いた山崎豊子という作家の偉大さを思い知りました。
500人の人間にインタビューし5年の歳月をかけて資料を集めたそうです。

このような大作を読むことのできる読者はなんて、ほんとに気楽な立ち位置です。
つくずく作家などおいそれとなれる職業ではないと思いました、それにこのような素晴らしい作品に出会えたことは幸運でした。

曽祖父の生涯のパズルのピースも、公文書館にある旅券で最後です。
カリフォルニアに埋葬されている曽祖父のお墓参りは、
いつ叶うかわかりませんが、いつか行けたらいいなと思います。




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