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知らない男の香り
たった一度、部屋に入れるのを許しただけだった。
私は夢中で彼を包む服を脱がし、彼はされるがままに動かす私の獣のような衝動に身を任せた。
がっついている、そう言うふうに軽蔑されたかもしれない。だが、私は現状を変えたくて必死だった。
そして、いよいよ彼の一番大切な場所を包むそれを剥がし、棒状のそれをゆっくりと抜き取る。
すると、彼の濃い香りが部屋に広がり、私を目覚めさせた。
そして朝が来た。
部屋に座る彼と、部屋中に香る、今までの自分とは違った香り。
そう、彼の名前は、お部屋の消臭力。
はい、そんなわけで今日はお部屋の消臭力のお話である。
何を想像したか知らないが、25の時に実家に帰ってきてから、私は部屋に他人を入れたことがない。
何度か過去の記事でも言及しているように、私の部屋は汚い。
そのため、部屋はお世辞にも匂いが良いとは言えない状態なのである。
そのような事情から、日本で一番品揃えがいいとされる大手ホームセンター、山新(もちろん皆知ってますよね?)でお部屋の消臭力(シャボンの香り)を買った。
正確には消臭力のオシャレなやつである。
当然、よかれと思ってろ紙を全開まで上げたら翌日、お部屋がびっくりするほどシャボンの香りで「この部屋でシャワーを浴びているのは誰だ!?」と暖簾をくぐる海原雄山のような顔になった。
なぜ男の香りだと思うのかというと、強烈だけどシンプルな香りなので、女性の香りではない気がするのだ。
しかも、ちょっといい消臭力なので、消臭剤にありがちなトイレ感はない。どこまで行ってもあくまで男性の車のような香りがするのだ。
その基準も、子供の頃の友人の父親の車である。
消臭力は匂いを消すというか、匂いを以て匂いを上書きする足し算形式の「消臭」なのだ。
おそらく、ドラクエやポケモンのセーブデータを「上書きしますか?」と聞かれ、「はい」を押すのと同じ類だ。
しかし、部屋から他人の香りがするというのはいささか居心地がよくない。
人間も結局は動物。自分のナワバリにシャボンの香りというか、他人(エステー)の香りがマーキングされているようであまり気分がよろしくない。
しかし、私は天才故に気づいた。もしかするとこれ、ろ紙を下げたら匂いが薄くなるのでは!?
そんなわけでろ紙を下げてちょこっとだけ顔を出すようにした。
するとどうだろう。
翌朝の目覚めは最高だった。
お部屋の消臭力知らない男の香りはきちんとシャボンの香りとなり、エステーのロゴのようなチュンチュンという小鳥のさえずりも心地よい。
エステーさん、ありがとうございます。
そう思いながら、東京方面に手を合わせた。
しかし、あのろ紙全開の強力な香りはどんなゴミ屋敷用なのだろう。流石に私でもあの香りが負けるまで散らかさない。
などと思ったが、あのろ紙全開のフルパワー消臭力が活躍するのは、広い部屋なのだろう。
ゴミ屋敷予備軍のような部屋に住んでいるからといって、なんでもゴミ屋敷基準で考えてはいけない。
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