
乗継ぎ日本横断〜「東端駅」から「西端駅」へ <1> 4月27日水曜日
本日のルート
東根室駅→納沙布岬→根室駅→釧路駅
日本最東端の駅
水曜日、のほほんとした昼下がり。
北海道根室市内に位置する東根室駅を訪れた。
前日に中標津空港に降り立ち、レンタカーを借り途中の尾岱沼という街で一泊、
午前中いっぱい車を走らせてようやく今回の旅のスタート地点に着いたのだった。
東根室は「日本で一番東にある駅」として有名だけれど、
街なかにあって周囲にも人家が立ち並んでいるため、
来る前にイメージしていたような「最果て」感はない。
この静かな東端の駅から、
およそ1800km離れた普通鉄道における日本最西端の駅、
バスや鉄道を乗り継ぎ「たびら平戸口」を目指すのが今回の旅だ。
やることは「日本縦断」のような旅ではあるが、
東から西への移動のため「日本横断」称することにする。
早速列車に乗って西への移動を始めたいところだが、
せっかくここまで来たのでまずは「最東端」の地を訪れることにする。
レンタカーを返し、さらに東へ向かうバスへと乗り込んだ。
「最東端?」にて
根室市内から路線バスでおよそ40分、
到着した納沙布岬は一般人が訪れることのできる「日本最東端」の地だ。
バスを降りてまず最初に目を引いたのは、
航空管制塔のような見た目の「望郷の塔(通称・オーロラタワー)」。
96メートルの高さがあるタワーで、
上部の展望室からは北方領土と日露の境界線が見えるそうだ。
新型コロナウイルスの影響で来館者が落ち込み2020年1月から休業中とのことだが、
風雨に晒されて外観が傷んで見え、さらに古びたゲートの様子は、
2年前まで営業していたことを疑いたくなる光景だった。

バス停から海の方に歩いていくと数件の土産物店がある。
営業している店舗もあるが、連休前のためかやはり人はまばらだ。
そして、そこかしこに「返せ北方領土」という文字。
数年前にDMZ(韓国・北朝鮮の境界地帯)を訪れたことがあるが、
ここは何か共通する空気を感じる場所である。
そう、ここは領土紛争の最前線の地なのだ。
観光地ではあるけれども、同時に事実上の「国境」地帯。
辺境であり、政治と外交のホットスポットでもあり、
そしてある人々にとっては未だ帰れぬ故郷を望む場所。
そういった様々な性質が混ざり合い、この岬の異様な雰囲気が
醸造されているのだろう。
土産物店の並びにある「北方館」に入ってみた。
館内で北方領土問題の歴史をわかりやすく解説しているほか、
海側に設置された望遠鏡を覗くと、歯舞群島にロシアが設置している監視塔の様子までもがはっきりと見て取れる。
本当に近い。
納沙布で文字通り直面する「北方領土問題」は、
東京で感じるそれの全く違う、
肌にナイフを突きつけられているかのような切実な現実なのだった。
根室本線
再びバスに乗り、根室市内に戻ることにする。
到着した根室駅は、
函館本線の滝川駅から分岐し、富良野、帯広、釧路を抜ける長大幹線「根室本線」の終着駅だ。
もっとも今は滝川・新得間が特急列車のメインルートから外れ、
さらに一部区間は災害による運休があるなど最盛期の面影は薄くなっている。
今日は「花咲線」の愛称がある根室から釧路まで乗車し、釧路にて一泊することにした。

鹿と列車と鹿
16時12分、単行の気動車はゆっくりとに根室駅を出発した。
銀色の車体に赤色の帯を巻いた一両の気動車は「キハ54形」と呼ばれ、
北海道の中でも道東や道北といった過酷な条件のエリアで活躍している車両だ。
気動車の割には性能がよく、太平洋に沿った景色の良い路線を軽快に走っていく。
途中の厚床駅をすぎたころだろうか。
森の中を走っていると唐突に警笛が鳴らされ、列車が急ブレーキをかけた。
窓から外を見ると、エゾシカの群れが線路脇の茂みに駆け込んで行くのが見えた。
「動物優先」といった風情で列車はゆっくりと加速をしていった。
北海道の列車に乗っていると度々、そして車で走っていてもエゾシカを目撃することが多い。
この日は釧路までの間で、あと2回鹿と遭遇することとなった。
途中厚岸湖の絶景を左に見ながら列車は「カタンコトン」と走る。
東根室駅付近になるとロードサイドの店舗なども見え始め、
列車は道東の大都会、釧路に入った。
18時51分、定刻で釧路駅に到着。
横断1日目はひとまずここで終了で、明日は一旦北上し網走に向かう予定。