理想の自分でしかいたくない

憧れのアイドル、小学生のときクラスで1番人気だったあの子、中学校で誰からも悪口を言われなかった子、SNSで流れてくる面白い人。
愛想良く接客してくれてとても可愛かった店員さんに、世界で1番ってくらい顔が可愛いのに飾らない女優さん。

全部になりたい。

自分は何者でもなくて、自分を愛せと言われてもよく分からなくて。「自分から見た時に美しいあの人」にずっとなろうとしてる。

「自分自身そのもの」を愛されようなんて考えてる人、本当にいるのかな。

どこか取り繕って、隠してる。


有難いことに昔から見た目は褒められる方。
アイドルになれるようなビジュアルはないし、噂になるような感じでもないけどクラスとかバイトとか、小さな集団で1.2番目くらいに可愛いって言ってもらえるくらいの見た目。
でも「中途半端に可愛い」からこそ嫉妬の対象にもされやすかった。
所謂、まる子ちゃんのみぎわさんとか前田さんタイプの子にチクチク悪口言われて、何もしてないのに「ぶりっ子するな!」と突き飛ばされる経験もした。

それから普通に生きていても自分は「ぶりっ子」なんだと、小学校中学年くらいから感じ始めた。
どうしたら「ぶりっ子」だと悪口言われないのか、どうしたら「男子に媚び売ってる」と言われないで済むのか。
こればかり考えるようになったのが小学4年生。

そこから男の子みたいな趣味を持ち始めた。
かわいい服を着たら、ピンクを持ったら、ちゃおを読んだら「ぶりっ子」になるから。

持ち物は水色か黒で、好きなアニメはポケモンとイナズマイレブン。
ズボンを履いて、メンズのトレシューを履いて休み時間はみんなでドッジボールかサッカーで泥んこになって、ズボンが破けても気にせずに遊ぶ。
「可愛いのに男の子っぽいあの子」
を必死に作りだして、自分の中での理想として必死に守ってた。

それからは小学校ではみんなと仲良くできて、「大人しくしてれば可愛いのに」「絶対もっとおしとやかにしたらモテる!」と言われる立場になった。
これが心地よかった。これで良かったから。
モテたくなかった。注目を浴びてまた悪口を言われるのが怖かった。
いちばん仲良いグループの女の子に「顔は可愛いんだから!」と言われることが救いだった。
確実に「ぶりっ子」といういじめの対象になってないことを確認できる時間だったから。

しかし中学生になるとこれは上手くいかなくなった。
逆に、男の子みたいな性格はサッカー部やバスケ部など人気な男子に取り込もうとしてる「ずる賢い女」として扱われるようになった。
中学生になるといじめ方も陰湿になるから、女の子の敵にならないことが生きるための1番の手段だった。
かっこいい男子はみんなと同じ名前を出して、みんなと被らないサンリオキャラクターを適当に好き!と言う。興味のない男性アイドルをかっこいいと言って盛り上がって、女の子らしい生活だった。

「1人で男子に近づかない」

これが中学の女の子の鉄則だった。
男子を夏祭りに誘うならみんなで一緒に。
男子に好きな人を聞くならみんなで。
誰かの告白を覗き見するならみんなで。

とにかく、一人でなにかを男子と行動することが絶対に許されなかった。
抜けがけは許さないよ。そんな雰囲気。
でも男子の前ではみんなぶりっ子をする。
小学生の時あれだけ嫌われたぶりっ子を、みんなはする。
彼氏とか恋に憧れる年だから。
あの子があの男子狙うからあの男子は好きになっちゃダメだよ、とか。
あの男子があの子のこと好きなんだって、くっつけようよ。
そんな日々で、それに溶け込む自分が1番の理想だった。

可愛くて空気が読めてみんなと仲良い私。
完全に無個性。
そんな存在が理想だったのが中学時代。

一気に考え方が変わったのは高校。
高校は国際系のかなり自由な校風のところに入学した。
そこで驚いたのは、みんながみんな自分に自信を持っていることだ。
冗談でも本気でもみんなが口を揃えて言う。

「私がいちばんかわいい」

本当にこれが心地よくて仕方なかった。
みんながみんな自分の好きを追求してた。
ギャルも地雷系も大人しい子もみんな好きなことがあって、尊重し合ってて、そこから人生が変わった気がする。

私はなりたかった。
いちばん可愛くて、誰よりも最強な存在に。
お姫様みたいになりたかった。
毎日髪を巻いて、スカートをバレないくらいに折って、涙袋だけ書いてまつ毛をきゅるきゅるに上げる。
ぱっつん前髪にピンクのチークを塗ったら完成。

でもお姫様みたいなのに口を開けて笑うし、好きなものは少年ジャンプ。
みんながジャニーズやBTSに夢中の間、1人だけ熱心に乃木坂46に憧れてひらひらと自我があるように踊るスカートと控えめなのにきらびやかお顔に憧れた。

乃木坂みたいって言って貰える格好をして、だも少し口が悪くて、みんなと楽しむことが出来る。
ふざけるときは誰よりもふざけて、勉強は学年でトップクラス。

「顔可愛いのに性格が馬鹿、そのくせ成績が良くて裏では真面目」

ついに私はこれを完成することが出来た。
正直本当の自分がどれか分からないけど、とにかく自分の中で「完璧な女の子」がこれだった。

そして同じクラスで過ごした1年後。
クラスメイト全員に思ってる事を書こう、という活動で貰った紙たちをずっと自分の理想として胸に刻んでいる、というよりは呪いのように感じている。

やっと私はなれた。
17歳にして、理想の自分になれた。

本当の自分は勉強なんか嫌いで、可愛くいるのだって体力とお金が必要だから面倒で、努力なんかしたくなくてずっと寝ていたいし、優しくなんかなくて面白くないけど、それでもこれになれたことが人生で1番の成功例。

というか、みんなが私に対して絞り出した良い印象がこれならば、もうこれにしかなれない。
これじゃない自分になったら嫌われるのが怖いから。

このクラスを卒業した今も、この印象に囚われれ続けてる。

自然体でいたらどれだけの人が自分を愛してくれて、友達でいてくれているか、一切分からない。

だけど私は理想のために無理する自分が好きだよ、そんな自分を好きでいてくれるみんなが好き。

年に2.3回は必ず二人で遊ぶ友達が20人近くいて、会う度にお前って最高、と言ってくれるから

死ぬまで理想の自分を貫くよ

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