ERATO現在走っているテーマ一覧
はじめに
JSTプログラム「ERATO」の現在走っている研究テーマをまとめてみました
1プロジェクトあたりの予算規模は、総額上限12億円(直接経費、通期;通常環境整備期間半年、プロジェクト実施期間5年の計5年半以内)
研究機関(研究総括の所属機関等)との契約形態に応じて、協働実施経費(直接経費の10%以下)及び間接経費(直接経費の30%)の両方、もしくは、間接経費のみを、別途当該機関に支払い
ライフイノベーション
有田リピドームアトラスプロジェクト
2021~2026/R3~R8
研究総括: 有田誠(慶應義塾⼤学 薬学部 教授/国立研究開発法人 理化学研究所 生命医科学研究センター チームリーダー)
脂質は生体膜を構成し、エネルギー源としての役割に加え、シグナル分子やその前駆体として働く多彩な役割を担う生体分子です。さらに、その脂質の特性は、「単独の分子が生理活性を有するもの」と「分子集合体として場の制御にかかわるもの」に分けることができます。
このような生理機能を担う脂質分子には構造多様性が存在し、生体内でどのように認識され、利用されているのかを分子レベルで理解することが重要です。
また、脂質代謝異常が多くの疾患の背景因子であり、また脂質分子の中には生理活性分子が多く含まれていることから、新たな創薬シーズの発見や、早期診断・治療などの医学応用につながる可能性があります。
そこで本研究領域では、生命の脂質多様性および分布・局在・脂質修飾を総体として捉える「リピドームアトラス」を創出し、特定の脂質が作り出す局所環境が多細胞システムの動態や機能に及ぼす影響の解明・可視化を実現します。さらに、生体内での脂質多様性の制御やその局在を調節する機構の解明、発生・炎症・免疫・老化・がんなど脂質多様性の制御が司る様々な生命現象の理解、およびその破綻による疾患解明を目指します。
鈴木RNA修飾生命機能プロジェクト
2020~2025/R2~R7
研究総括: 鈴木 勉(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
本プロジェクトでは、新規のRNA修飾を探索し、RNA修飾が担う機能と普遍的な生命現象との関わりを明らかにすることを目標とします。併せて、革新的なRNA修飾の解析技術や機能制御技術の開発も目指します。
RNA修飾を「見つける」では、ヒトを含め様々な生物から単離精製したRNA分子を、高感度質量分析法(RNA-MS)を用いることで解析し、新規RNA修飾の探索と化学構造の決定さらには修飾位置のマッピングを行います。また、ナノポアシーケンスと深層学習を使うことで、RNA修飾の定量解析技術の開発にも取り組みます。
RNA修飾を「調べる」では、RNA修飾酵素やその遺伝子を同定し、RNA修飾の生合成や機能を明らかにします。個々のRNA修飾酵素についてノックアウトマウスを作出し、その表現型からRNA修飾の生理機能を探究します。また、RNA修飾の異常に起因する疾患(RNA修飾病)の発症機能の解明を目指します。
RNA修飾を「操る」では、RNA修飾を人為的に操作して遺伝子発現を制御することで、生命機能を積極的に制御し、将来的な創薬と治療のための基盤技術の確立を目指します。
上田生体時間プロジェクト
2020~2025/R2~R7
研究総括: 上田泰己(東京大学 大学院医学系研究科 教授/理化学研究所 生命機能科学研究センター チームリーダー)
ゲノム配列の解読を踏まえて、生命をシステムと捉え、その振る舞いを構成要素の性質やその関係性から理解する「システム生物学」が発展してきました。
しかし、哺乳類、特にヒトの個体レベルの振る舞いを理解するためには、社会構造の複雑さや「環境要因」による影響なども考える必要があり、その方法論は十分に確立されていません。
本プロジェクトでは睡眠・覚醒リズムをモデル系として、「ヒトの理解に資するシステム生物学」を展開し、ヒトの睡眠覚醒において、分子レベルから社会に生きるヒト個体まで含む「生体時間」情報の理解を目標としています。
ヒトをはじめとする哺乳類の睡眠・覚醒に関する分子機構の解明に向け、研究総括が開発を進めてきたヒト睡眠測定法や次世代マウス遺伝学の手法等を駆使し、遺伝子と表現型の因果関係を検証しながら、タンパク質のリン酸化制御を中心とした分子レベルでの睡眠・覚醒リズムの理解と制御を目指します。
また研究総括が提唱してきた「睡眠のリン酸化仮説」は、ヒトの疲れや眠気の情報の記憶方法を解き明かす鍵となるだけではなく、精神疾患などの深い理解に基づく新たな治療法の開発において重要な生命科学としての基礎となることが見込まれます。
胡桃坂クロマチンアトラスプロジェクト
2019~2024/R1~R6
研究総括: 胡桃坂 仁志(東京大学 定量生命科学研究所 教授)
ヒトを含めた真核生物において、ゲノムDNAはたんぱく質が結合した「クロマチン」と呼ばれる分子複合体として折りたたまれて細胞核内に収納され、ゲノムDNAの転写、複製、修復、組み換えといった機能は、クロマチンの適切な折りたたみ構造によって制御されています。
クロマチン構造の破綻は様々な疾病と関連する可能性が指摘されており、この機能の解明は生命の遺伝情報利用の根幹に迫るとともに、関連疾患においてこれまでにない新たな治療法の確立に大きく貢献することが期待されます。
本プロジェクトでは、遺伝情報の本体であるゲノムDNAがどのように細胞核内に収納されているのか、その構造と機能を解き明かすことで、真核生物がDNAを利用する仕組みについて新たな概念を創出することを目指します。
具体的にはクロマチンの折りたたみ構造地図を「クロマチンアトラス」と定義し、近年著しい技術革新を遂げているクライオ電子顕微鏡技術を中心に据えて、その構造と機能の相関性を網羅的に解明することを目指します。
深津共生進化機構プロジェクト
2019~2024/R1~R6
研究総括: 深津 武馬(産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 首席研究員)
生物界において微生物との共生関係は普遍的で重要な生物機能を担うものの、その成立過程や機能の解明にアプローチすることが難しく、未探索の研究分野となっています。
本プロジェクトでは、遺伝子操作や機能解析を行うにあたっての共生微生物の難培養性を克服するとともに、「共生進化の現場を人工的に創出し、その進化過程および機構を解明」することを目指します。
具体的には、昆虫-大腸菌人工共生系を用いた大規模進化実験、および難培養性の共生細菌の遺伝子操作や全ゲノムクローニングを可能にする新規技術開発を突破口として、共生進化に関する理解を飛躍的に進展させます。
さらに無菌マウス腸内に昆虫共生進化大腸菌を移植した相互進化実験系へ展開することで、腸内共生機構の共通性を見いだし、共生という生命現象に関する本質的な理解を提示します。
共生システムの解明につながる他、昆虫から哺乳類に至る腸内共生機構の共通性を同定できれば、腸内細菌叢の制御を通じて医療や健康維持といった広範囲な応用が見込まれます。
また、新規技術を基盤に微生物遺伝子資源の利用範囲拡大に貢献でき、物質生産、創薬、微生物機能利用など多分野への展開が期待されます。
池谷脳AI融合プロジェクト
2018~2023/H30~R5
研究総括: 池谷 裕二(東京大学 大学院薬学系研究科 教授)
人類はこれまでに文字や電話などさまざまなツールを開発してきました。
もちろん脳はこうしたツールの存在を前提に進化してきたわけではありませんが、環境の変化によって新たに能力を発揮し、巧みに適応・活用しています。これは未来においても同様で、脳は将来出合うであろう未知の環境にも適応する能力をすでに持っていると考えられます。
本プロジェクトでは、特に人工知能(AI)を用いて脳の新たな能力を開拓し、「脳の潜在能力はどれほどか」を問います。
研究総括が際立った実績を挙げてきた実験動物における脳研究と、AIを用いた脳の潜在能力開拓の研究をさらに融合・発展させ、現在はまだ引き出されていない脳の能力をAIとの融合によって顕在化、有効活用することを目指します。
具体的には、生命倫理に十分に配慮しつつ、ネズミを中心とした動物における実験と、その結果のヒトにおける検証・応用展開を実施します。
AIと脳を融合する基盤技術を構築し、神経・精神疾患治療のみならず、健常な脳の潜在能力の開拓、脳にとってストレスの少ないツール開発などを通じて、人類全体の健康や幸福に貢献することを目指します。
浜地ニューロ分子技術プロジェクト
2018~2023/H30~R5
研究総括: 浜地 格(京都大学 大学院工学研究科 教授)
たんぱく質をそれが存在する生細胞環境で狙い通りに修飾できる生細胞有機化学的手法を新しく開発するとともに、標的たんぱく質の機能を自在に制御できる独自の化学的および光化学的手法(化学遺伝学および光化学遺伝学)を開発します。
そしてこれらの化学的方法論を、モデル細胞だけでなく、より複雑な培養神経細胞や脳組織、生物個体でも適用できるレベルまで格段に発展させることにより、記憶や神経・精神疾患と直接関連する神経伝達物質受容体やその相互作用たんぱく質の選択的なイメージングや動態解析、あるいは機能制御による神経細胞間相互作用ネットワークの分子レベルでの解析などを実現します。
本プロジェクトを通じて、ニューロ分子技術とも呼ぶべき新たな基盤技術を確立することにより、記憶などの高次脳機能の分子レベルでの理解など神経科学分野への展開だけでなく、神経・精神疾患といったこれからの人類が克服すべき多くの疾病の診断や治療法開発へとつながることが期待されます。
水島細胞内分解ダイナミクスプロジェクト
2017~2023/H29~R5
研究総括: 水島 昇(東京大学 大学院医学系研究科 教授)
細胞内ではたんぱく質やオルガネラなどの合成と分解が絶えず起こっており、このダイナミックな代謝回転は、細胞恒常性、分化、環境適応などに重要です。主要な分解経路のひとつであるオートファジーは多くの真核生物に備わっているシステムで、たんぱく質だけでなくオルガネラのようなより大きな標的も分解します。
オートファジーは基本的には非選択的な分解系ですが、一部の標的については選択的に分解することもできます。しかし、オートファジーによる分解の体系的および定量的理解はいまだ不十分です。オートファジーは老化やヒト疾患とも関係しうるため、これまで以上に深い理解が求められています。
本プロジェクトでは、オートファジーによるたんぱく質とオルガネラの分解を中心に、オートファジーの革新的定量解析法開発、新規オルガネラ単離技術開発、脊椎動物での細胞内分解の意義の包括的理解、数理・物理学的手法を用いたオートファジー過程のモデル化、分子進化的視点に基づいたオートファジー機構の理解を目指します。これらの技術開発や解析は、細胞生物学、細胞生理学を中心とした幅広い基礎研究分野への波及効果とともに、細胞内代謝回転が関連する疾患の理解や治療戦略への展開が期待されます。
沼田オルガネラ反応クラスタープロジェクト
2016~2022/H28~R4
研究総括: 沼田 圭司(京都大学 大学院工学研究科 教授/理化学研究所 環境資源科学研究センター チームリーダー)
植物は、固有の細胞内小器官(オルガネラ)を持ち、光合成などの独自の物質生産を行っていることから、植物を用いた物質生産技術は、化学産業など、多様な産業への応用が期待されています。
しかし、植物を用いた物質生産技術は実用化の段階には至っていません。その要因は、オルガネラ間の物質輸送や相互作用、それらが植物の物質生産能力に与える影響が未解明であることが挙げられます。
また、現在の技術では、単一オルガネラの改変がようやく達成され始めたところであり、複数のオルガネラを自在に操作し、物質生産に最適な代謝経路を設計できる段階には到達していません。
本プロジェクトでは、工学と植物科学、バイオイメージングなど複数の学問分野が融合することにより、植物細胞中のオルガネラを複合的に操作・改変する技術を確立します。さらに、オルガネラ間の物質輸送やオルガネラの細胞内局在が物質生産に与える影響など、これまで未知であったオルガネラ間の相互作用を体系的に明らかにします。これにより、物質生産に最適な植物個体の作出や植物個体の機能改変に向けた基盤を構築し、植物を起点とした多様な産業へのイノベーションを創出することを目指します。
ナノテクノロジー・材料
内田磁性熱動体プロジェクト
2022~2027/R4~R9
研究総括: 内田健一(物質・材料研究機構 磁性・スピントロニクス材料研究センター スピンエネルギーグループ 上席グループリーダー)
磁石は、電気自動車用モーターや発電機等に利用されており、人類の生活に必要不可欠な材料です。その磁気の源である電子のスピンと電荷、熱の相互作用に関する融合研究分野はスピンカロリトロニクスと呼ばれています。この分野では新現象が次々と見出されており、新たな省エネルギー技術への展開が期待されています。しかし、これらの現象の多くはナノスケール(10-9m程度)でしか発現せず、エネルギー応用に資するマクロスケールな材料(>10-3m)での利用は極めて困難と考えられていました。
このような背景のもと本研究領域では、高効率な熱変換・熱制御・熱移送を実現するエネルギー材料群「磁性熱動体」を創製します。磁性熱動体は、ナノスケールでのみ利用可能であった熱スピン変換能がマクロスケールで発現する材料、及びナノスケールの構造・界面制御によりバルク物性を高性能化・高機能化させた材料の総称として定義した新しい磁性複合材料です。
本研究を通じ、ナノ領域のスピン物理とマクロ領域の熱物性を結び付けた物質・材料科学を発展させ、これまで原理実証や要素機能開拓に留まっていたスピンカロリトロニクスを熱エネルギーデバイス応用に結び付けることを目指します。
柴田超原子分解能電子顕微鏡プロジェクト
2022~2027/R4~R9
研究総括: 柴田直哉(東京⼤学 大学院工学系研究科 教授)
全ての物質、生命は究極的には原子で構成されており、物質・生命機能の根源的な解明には、原子スケールの構造や現象にさかのぼった精緻な理解が重要です。走査透過電子顕微鏡法(STEM)は、レンズのボケ(収差)を補正する収差補正技術の発展によって、原子1個の大きさよりも小さな分解能を実現しました。さらに、研究総括らによって、原子レベルの電磁場観察手法および試料を磁場フリー環境とする新技術が開発され、世界で初めて原子の電磁場観察に成功しています。
本研究領域では、極低温から高温までの温度領域において原子スケールの構造および電磁場分布を同時に観察することを実現し、物質・生命機能の起源を直接「観る」ことができる、従来の原子分解能電子顕微鏡を超えた「超」原子分解能電子顕微鏡とも呼ぶべき新たな計測手法を構築します。
本研究を通じて、物質・生命現象の真の理解とナノ界面研究の新たな学問領域の創出を促し、さらに物質科学、材料科学、有機・生命科学等の学術分野からエネルギー材料、脱炭素技術、低電力デバイス等の産業分野まで広く普及させることで科学技術の発展に貢献することが期待されます。
片岡ラインX線ガンマ線イメージングプロジェクト
2021~2026/R3~R8
研究総括: 片岡淳(早稲田大学 理工学術院先進理工学研究科 教授)
宇宙空間は宇宙線と呼ばれる謎の多い粒子で満ちています。特に100MeV以下の宇宙線は生命の源や星の進化に重要な鍵となると考えられ、星間物質と反応して元素特有のエネルギーを持つX線やガンマ線のスペクトル輝線(ラインX線ガンマ線)を放出します。この輝線を可視化できれば、宇宙の「激動の歴史」を探ることができます。また、これを医療に応用すると、同じ原理で体内の薬物動態や粒子治療中の細胞周辺の反応を可視化できるはずです。ここで鍵となるのがラインX線ガンマ線のイメージングですが、直接「動態を見る」可視化技術はいまだ確立されていませんでした。
本研究領域では、放射化した物質などのラインX線ガンマ線を独自の開発技術で可視化するイメージング法を確立します。さらに、それを共通基盤として宇宙分野、医学・薬学分野に展開し、宇宙から人体まであらゆる物質の動態を統一的に把握するイメージングの新しい学際的な枠組みを構築します。
本研究を通して前人未踏のMeVガンマ線宇宙観測への突破口を拓くとともに、新しい粒子線治療の開拓や体内の超低濃度薬剤分布とその治療効果の可視化など、新たな医療価値を見いだします。
野崎樹脂分解触媒プロジェクト
2021~2026/R3~R8
研究総括: 野崎京子(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
現代の私たちの生活は、「合成化学」によって小さな分子をつないでできる高分子に支えられており、その一種である合成樹脂(プラスチック)も急速に普及しました。しかし、その恩恵を受ける半面、廃棄や処理に関する問題に直面しています。プラスチックリサイクルに関する研究も数多く進められていますが、実用的で環境に優しい手法は未だ十分とは言えません。その解決には、高分子を小さな分子へと分解する反応、あるいは分解に使える道具(触媒)、すなわち「分解化学」の発展が不可欠です。
このような背景の下、本プロジェクトではプラスチックを分子レベルに分解してリサイクルする、または新たに有用な原材料などに生まれ変わらせるための触媒開発を行います。そのアプローチとして、均一系触媒(主に溶液)の構造制御で用いた隣接基関与という手法を触媒の分離が容易で工業的に広く用いられている不均一系触媒(主に固体)においても利用できるような触媒設計を行い、再利用を前提とした樹脂分解触媒の開発を目指します。
本プロジェクトを通じ、社会課題解決に向けたプラスチック再利用プロセスの開発および樹脂分解に関する新規学問領域の構築が期待されます。
山内物質空間テクトニクスプロジェクト
2020~2025/R2~R7
研究総括: 山内悠輔(物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA) グループリーダー・MANA主任研究者/早稲田大学 理工学術院 客員上級研究員/クイーンズランド大学 オーストラリア生物工学ナノテクノロジー研究所 教授)
研究総括が世界に先駆けて独自の合成法を提案して実現した導電性ナノ多孔体は、「第二世代無機多孔体」として、今世界の材料化学の分野で特別な注目を集めています。
この導電性ナノ多孔体のうち、特に金属ナノ多孔体は、ナノスケールの無機固体金属に、制御された微細な空間(細孔)を持ちながら、さらに電気伝導性も有する無機単結晶構造体ですが、これまでの代表的な多孔体であるゼオライトやMOF/PCP、または、第一世代無機多孔体のメソポーラスシリカと比較して、高い電気伝導性、骨格の結晶性や組成・細孔構造の多様性などの観点で、圧倒的な優位性があります。
これらの組成を炭素、硫化物、リン化物、遷移金属酸化物などへと展開し、ナノサイズからメソサイズの範囲で高度に集積化(ハイブリッド化)させることで異種材料の相乗的融合が生まれ、新しい電子・物理化学的な性質の発現が期待されます。
このような背景の下、本研究領域では、結晶中の「ナノ空間」と、それらが高度に集積化された「ハイブリッド空間」の完全制御に向けた合成プラットフォームを確立することを目指します。
前田化学反応創成知能プロジェクト
2019~2024/R1~R6
研究総括: 前田 理(北海道大学 化学反応創成研究拠点 拠点長/大学院理学研究院 教授)
本プロジェクトでは、世界に先駆けて開発した反応経路自動探索技術(AFIR法)と、組合せ最適化技術を基盤とし、量子化学計算、情報科学、さらにはマテリアルズ・インフォマティクスの技術を統合することで、化学反応における「原子の動きの全貌」を予測し、有用な未知の化学反応を次々に提案する「化学反応創成知能」を創出します。
具体的には、AFIR法を用い、さまざまな反応物や触媒の組み合わせに対して「反応経路ネットワーク」を計算し、得られる反応経路データベースから目的物合成に適した化学反応を迅速に設計・提案するシステムを構築します。
このとき、目的生成物の収率が最大となる反応物の組み合わせを導くために、組合せ最適化技術を活用します。また、反応経路ネットワークから反応性を支配する因子を抽出し、分子構造との相関を学習させることで、反応性を言い当てられる機械を創出します。
また、「化学反応創成知能」は実験的には検出できない超微量な副生物の存在まで明らかにできるため、そこから未知の化学反応が発見される期待もあります。さらに、合成ロボットへの「化学反応創成知能」の実装を試み、目的とする物質を生成するのに最適な化学反応を発見するスピードを大幅に加速することを目指します。
山元アトムハイブリッドプロジェクト
2015~2023/H27~R5
研究総括: 山元 公寿(東京工業大学 科学技術創成研究院 教授)
ナノ粒子は、ナノテク分野の中でも最も重要な素材の一つとして工業的にも幅広く利用されており、現在でも世界的に激しい研究開発競争が繰り広げられています。しかし、より小さいサブナノサイズの粒子の性質は殆ど解明されておらず、その合成方法すら確立に至っていません。特に、元素周期表の中に存在する90種類以上の金属元素を、自由度高く異種金属原子の原子数を決めて集積・配合する方法はいまだ実現されていません。
ナノ粒子は、ナノテク分野の中でも最も重要な素材の一つとして工業的にも幅広く利用されており、現在でも世界的に激しい研究開発競争が繰り広げられています。しかし、より小さいサブナノサイズの粒子の性質は殆ど解明されておらず、その合成方法すら確立に至っていませんでした。特に、元素周期表の中に存在する90種類以上の金属元素を、自由度高く異種金属原子の原子数を決めて集積・配合することは困難でした。
本プロジェクトでは、独自のアトムハイブリッド法を活用して未開拓の物質群であるサブナノサイズで原子数の制御されたサブナノ金属粒子、および異なる複数の元素を原子単位で精密に配合したサブナノヘテロ金属粒子のライブラリを創成し、拡充を進めています。
こうした成果を基盤として追加支援期間(機関継承型)の研究では、超原子反応、原子動力学、超原子理論の3つの領域から構成される新たな学理「原子化学」の創出をミッションとし、本プロジェクトを原子を総合的に扱う科学技術「アトムサイエンス」の拠点と位置づけ、国内外の研究機関や企業と連携しながら、継続的かつ発展的な研究展開をめざします。
情報通信技術
稲見自在化身体プロジェクト
2017~2022/H29~R4
研究総括: 稲見 昌彦(東京大学 先端科学技術研究センター 教授)
IoT、人工知能(AI)、バーチャルリアリティ(VR)など情報技術は目覚ましく発展しています。これまで、人間は自然環境を物理的に構造化することで農地や都市を形成し、情報的に構造化することで情報環境を構築してきました。しかしながら、物理的あるいは情報的な環境の飛躍的な進展に対し、その環境の中で生活する主体である人間自身の身体は変化していません。
稲見自在化身体プロジェクトでは超スマート社会に適応可能な「自在化身体」を構築する技術基盤を確立することを目指します。「自在化」と位置づけられる技術開発は、人間がロボットやAIと「人機一体」となり、自己主体感を保持したまま行動することを支援し、人間の行動の可能性を大幅に広げると考えられます。
自在化身体を実現するために、身体・行動のシステム的な理解に基づき、VR・ヒューマンアシスティブロボット・ウェアラブルコンピューティング・脳情報デコーディング・機械学習などを用いて、人間と情報環境との関係性を柔軟に設計する「身体性編集」に関する基礎的知見の解明と設計指針を確立します。さらに、設計した自在化身体およびそれがもたらす心と社会の変容を、実社会とバーチャル社会において検証します。
蓮尾メタ数理システムデザインプロジェクト
2016~2024/H28~R6
研究総括: 蓮尾 一郎(国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系 教授)
今日の製造業では高度な情報処理技術を用いた根本的な変革が進んでいます。本プロジェクトでは従来のものづくり技術にソフトウェア科学の成果を導入し、仕様策定から設計、実装、保守まで工業製品開発のさまざまな側面を支援する手法・ツール群の構築を目指します。
具体的には、「形式手法」というソフトウェア科学における論理的設計技法を取り込むことにより、製品の品質・安全性保証や効率化の支援を大きく推進します。形式手法の製造業適用においては、確かな結論のみをボトムアップに積み上げていく従来の論理学応用とは異なり、最終目標をトップダウン・ベストエフォートな形で分解していくことを通じた「モデリングの壁」の突破が必要となります。
追加支援期間(機関継承型)ではこのブレイクスルーを、形式手法の数理的基盤を更に掘り下げて統計的手法と融合することにより追求します。この成果を「ICT技術への社会的信頼」という旗のもと結集し、特に自動運転領域に対して社会展開します。また、本プロジェクトを学術研究と産業応用の両面におけるソフトウェア研究、ICTシステム研究のセンターとして位置付け、国内外の研究機関・企業と連携して研究を進めます。
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