大切な人との別れについて
コールセンターで働いていると、「契約者が死んだので解約します」といった電話もくる。
どんな気持ちでこの電話をするんだろうとか、苦しくないだろうかとか考えてしまい、気持ちが揺らぐ。
私は身の回りの人が亡くなった経験がない。ありがたいことに。だからこそ身近な人が亡くなっていくその感覚を味わうのが今から怖かったりする。
「ああ、妻が亡くなったので解約しようと思って」
話し始めた時からなんとなくテンションの低い人だなと思ってた人が、会話の中であまりにも当然のようにそう言った。
淡々と、私の質問に答え、明るくなることも暗くなることもない口調で、なんだか私には、彼の孤独が痛いほど伝わってきてしまった。
自分でも想像力が豊かだと思うが、彼の声を聞きながら、彼がひとりぼっちになったリビングを想像した。
途中で電話の向こう側で鳥の鳴き声が聴こえてきて、今日はよく晴れた日だと思った。
最後まで淡々とした口調だったのに、「大変ななかご連絡いただきありがとうございました」と私が言うと、彼は少し間を空けて、「はい、どうも、お世話になりました」と、途切れ途切れにそう言った。
彼との電話が切れてからも、彼の奥さんとの日々のことをふと考えてしまった。
自分と彼氏のどちらかが欠けたりすることがあるんだな、もちろん最後はそうなるんだな、と思うだけで、悲しくはないけど、虚しくて、世界が灰色になったように思った。
電話越しの彼の声は、多分そう、灰色に近かったと思う。
大切な人との別れ、別れても続く日常、普通を装い外へ出て、勇気を出して誰かと話す。
彼氏が今いなくなったら私は、彼のように淡々としていられるだろうか。
淡々としていなくちゃいけないんだろうなと思うと心がギュッと締めつけられた。
今日は彼氏を抱きしめて寝ようと思う。