りかさとりか短文妄想(2021/9/8)
お題『日向坂46の「こんなに好きになっちゃっていいの?」をもとにしたさとりか』
※質問箱にて提供頂いたお題です。ありがとうございました!
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彼女と付き合い始めて、幸せなはずなのに人間ってのは欲張りな生き物で、もっと、もっと、と求めて止まらなくなってしまう。
「さて、梨花様、本日もサロンに行きましょうか」
「えぇ…」
でも私は古手梨花。聖ルチーア学園で生徒たちから慕われ、憧れを抱かれる理想の学生。一度作ってしまったその自分自身の人物像を崩すことはできなくて、一人教室を出ていく大好きな彼女と話すこともせずサロンに向かう。
『貴女はずっとこの学園に憧れていたのでございましょう? 大丈夫ですわ、今の私は、梨花が私を想ってくれているのもちゃんと分かっていますもの』
ある日の晩、私の部屋に泊まった彼女に、サロンに行くのをやめて貴女との時間を作りたいと打ち明けた日に彼女から言われた言葉を思い返す。
確かに彼女の目の前ではサロンに行くのをやめる、と言ったものの、内心ではまだ迷いがあった。彼女との時間を作りたいのは事実、でも、100年以上の惨劇の日々を抜け出した私にとって、ルチーアでの華やかしい日々が楽しい気持ちがあるのも事実だった。
彼女はそんな私の本心を鋭く見抜き、優しい声でそんな風に諭してくれたのだ。
「そういえば、皆さんは星座占いなどは見たりしますか?」
「星座占いですか、たまに新聞や雑誌などで見たりはしますが、そこまで積極的には…」
「私もそうね」
今日のサロンでは少し雑談がてら、星座占いの話へ。どうやら話を切り出した子がよく当たることで有名な星座占いの本を図書室で見つけたらしい。その子が本を開き、その場にいるみんなの星座を見ていく。
(私はしし座。あの子は…かに座ね)
無意識に彼女の星座の欄を見て、自分の結果よりも彼女の結果を確認する。
次のページから相性占いのようだけど、この場にかに座の子はいない。
占いなんて、オヤシロさまの生まれ変わりである自分にはたいして意味もないだろうし、信じてもいないはずなのに、彼女とのことになるとどうしても気になってしまって。
彼女との相性は良いのだろうか、この先も上手くやっていけるのだろうか、愛想をつかされることはないだろうか…占いの結果にすらすがりつきたくなってしまう。
(本当に駄目ね…いつだってあの子のことを考えてしまって、それだけでいっぱいいっぱいになってしまうわ)
彼女を好きになるまでは、自分は強い人間だと思っていた。それがいつしか、彼女を好きになり、彼女と付き合うようなってから、どんどん余裕がなくなり、自分は不甲斐ない人間だったことを思い知らされる。
その日の夜は彼女が泊まりに来ない日だったから、一人寂しくベッドの上で自室の天井を見つめていた。
(会いたい、触れたい、あの子のぬくもりを感じたい…)
ふと気付くと自分の目から涙が溢れていた。
彼女とは両思いになれて、恋人同士になれて、今はとても幸せな日々を送っているはずなのに、どうして少し会えないだけでこんなに切なくなるんだろう。
「会いたい…沙都子…会いたいっ…!」
その日、私は泣き疲れて眠るまで涙を止めることができなかった。
翌日、泣き腫らした目を登校前になんとかおさめて、いつも通りの古手梨花で学園に到着する。
「梨花様、おはようございます。今日のサロンですが…」
「ごめんなさい、今日はサロンには行けないわ」
「何かご都合がおありですか?」
「えぇ、とても大事な、ね。私、これからやることがあるから、またホームルームまでには戻ってくるわね」
そう言って私は、眠そうな顔をしながら教室に入ってきた誰よりも愛おしい彼女のもとへ。
「沙都子」
「梨花…?」
「行きましょう」
「えっ、ちょっと梨花ぁ!?」
沙都子の手を引っ張り、普段の私なら絶対にやらないであろう廊下を走るという行為を堂々とする。先生に見られたら怒られるのは間違いないが、今はそんなことどうだって良かった。
運良く先生には見つからず、沙都子を連れて裏庭まで来ることが出来た。
「はぁ、はぁ、梨花ってばそんなに急いでどうしたんですの…?」
「はぁ…ごめんなさい。つい」
「ついって…しかも私なんかと一緒にあんなことしたら、たちまち噂になって優等生の梨花様の株が大暴落でしてよ?」
お互い走って乱れた息を整えながら会話をする。
こんな時でも沙都子は私のことを思ってくれる。そう思うと、沙都子への愛おしい気持ちが溢れ出てしまい、思わず彼女に抱きついてしまう。
「梨花ってば、どうしたんですの?」
「沙都子、好き。大好きなの。私、沙都子を好きになって、恋人同士になって、毎日毎日沙都子のこと考えちゃう。むしろ日に日に沙都子への愛おしさが増して、それなのに会えない日々がつらくて…」
「だって、それは…。私、サロンなんて堅苦しいところには行きたくありませんわよ」
「うん、分かってる。だから、私がサロンに行くのをやめる」
私の言葉が衝撃的だったのか、それまでゆっくり私のことを抱きしめて、私の髪を撫でてくれていた沙都子が、急に私の体を離し、目が合うような距離になる。
「それは!だって、梨花はずっと…この学園生活を夢見て…」
「いいの、もう。じゅうぶん楽しんだわ。今はそれより貴女と一緒にいたい。貴女と過ごすこの学園生活を失いたくない。他の何を失ったとしても、私は沙都子を離したくない。だって、貴女のことを…愛しているもの」
すごく歯の浮くような言葉を連発している気はするが、それでもこれが今の私の本心で。
私の言葉をきいた沙都子の顔がみるみる真っ赤になったから、きっとこの子には効果があったんだと思う。
やっぱり、気持ちはまっすぐぶつけるのが一番ね。
「梨花…!!!梨花ぁ…!!私も…実はずっと寂しくて…でも梨花の夢も応援したかったからずっと我慢してて…!」
沙都子がさっきよりもずっと強い力で私を抱きしめる。少し痛いくらいだが、その痛みすら心地よくて。
「沙都子、ごめんね。ありがとう…これからはお互い寂しくないようにずっと一緒にいましょう?」
「うん…梨花…私も梨花が大好き」
その場で交わしたキスの味を私は永遠に忘れることはないだろうーーー。