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扇風機/もう少し空が広いところへ行きたい

山間のまち。迫り来る山の輪郭に切り取られた空は、いつも見上げる空より確かに狭い気がした。小さな島で生まれ育った私にとって空は広いもの。山を背にすれば目の前には海があって、海の方へどこまでも空が続いていた。確かに空は広かった。


山を背にしても向かいにも山、右を向いても、左を向いても山があった。山の輪郭に切り取られた空は、高かった。遠いところにあった。


大学時代の友人がそこに住んでいた。体調を、心のバランスを崩していたらしい。心配だからというのは後付けの理由で、会いたかったから、友人と二人で会いに行った。


三人で行った山間の温泉地。熱すぎる湯にやられて、扇風機の風に当たった。友人は、自分の心や身体の変化について話してくれた。優しい口調だった。


「もう少し空が広いところに行きたいんよ。フランスの農場とか、どうかなって。」


それはただ空が広いという意味で言ったのではなかったと思う。山や人に閉じ込められた今の暮らしをリセットして、解放されたかったんだろう。きっと。


「なんでフランスなんね。空が広いところは他にもあるだろうに。」


そうやって三人で笑った。…その数ヶ月後、友人は瀬戸内海に浮かぶとある島に移り住んだ。フランス人の友人も住んでいるらしい。きっと、フランス行きを相談するために、そのフランス人の友人に会いに行ったのだろう。そして気づいたのかな、空が広いところは他にもあったなあと。



島での生活は心にも身体にもとてもよく、健康らしい。それが何より、何よりです。

そんなことを思い出した、扇風機の写真。


#エッセイ #日記 #旅 #紀行文


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カナ
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