会員規約は読まなきゃダメ?

こんにちは。名古屋の元テニスコーチ弁護士の柳川豊です。

いよいよ全仏オープンが始まりますね。

錦織圭選手の完全復活がなるか世間では注目ですが、私個人的には、西岡良仁選手の活躍を期待しております。両選手ともストローク主体の選手ではありますが、テンポの速いタイプの選手なので、粘り強いストロークの選手が有利な全仏オープンで、どこまで活躍できるか楽しみです。私たちテニスファンは、また寝不足の期間が始まりますね。

さて、前回は、体験レッスンについてお話しさせていただきました。

https://note.com/yanaytk0311/n/nf6993319885d

そして、いよいよ今回はテニススクールとの契約について、お話ししたいと思います。

いくつかのテニススクールの体験レッスンを周り、気に入ったテニススクールが見つかったので、

「よし!ここに決めた!」

と思い、すぐさまそのテニススクールに連絡し、入会手続きに向かいました。

すると、フロントの人から、誓約書のような確認書と会員規約を渡され、会員規約の内容をご確認していただき、問題がなければ確認書の同意しますの欄にチェックを入れ、署名をお願いします。」と言われ、会員規約をあまりチェックもせずに署名しました。

たったこれだけでテニススクールとあなたの入会契約は成立します。

え?契約書はないの?そう思われる方も多いと思いますので、今日は、契約書と規約(すなわち約款)の関係について、お話ししたいと思います。

契約とは、当事者間の合意であって、それにより当事者間に権利義務関係を生じさせるものをいいます。

例えば、スポーツショップでテニスボールを買う。これは売買契約ですよね。スポーツショップとあなたの間で、テニスボールを売ります、買いますと言う合意によって、スポーツショップにはテニスボールを引き渡す義務が、あなたには代金を支払う義務が生じます。ちなみに民法555条は、売買契約について、「売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」と定めています。

ですので、どちらかが内容を理解していない場合、合意は成立していないので、原則契約は成立しません。

他方、会員規約のような約款は、大量の同種取引を迅速・効率的に行うために作成された定型的な内容の取引条項です。

すなわち、テニススクールの会員規約は、テニススクールがスクール生に対して行うことやテニススクールの利用上のルールを文章化したものなのです。

これも契約の一種であることには違いありません。

ただし、通常の契約書と違うのは、契約の際の内容の変更や修正が予定されていないことです。

テニススクールのように、多数のスクール生との定型的な契約が予定されている場合には、毎回毎回個別の契約を交わすことになると、スクール生ごとにテニススクールでのルールが変わってしまい、大変なことになってしまいます。

したがって、みんな同じルールを守ってくださいねというのが会員規約なのです。

そういう意味では、とても便利なものですよね。

しかし、これには大きな問題があります。

それは、『ほとんどの人が内容をちゃんと読まないこと』です。

皆さんのテニススクールを疑うわけではありませんが、もし、万が一、スクール生にとても不利益な条項が入れられていた場合、それが適用されてしまうんですから、怖いですよね。

これについて、法律はというと、これまで民法に規定がされていませんでした。

しかし、インターネットが普及して、このような定型的な取引が増加してきている状況から、読まない人が多いという危険性を考慮して、今年の民法改正によって、約款に関する規定が新設されたのです。

民法548条の2第1項

「定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。

一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。

二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき」

民法548条の2第2項

「前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。」

同条第1項によると、

①定型取引について合意した場合

②取引が約款によることについて事前の表示があった場合

には、約款によることを合意したとみなされることが規定されています。

そして、第2項によると、

a 不当に契約の相手方の権利を制限したり、義務を課徴する条項(不当条項)

b それぞれの取引における取引慣行・社会通念などに照らしたときに想定することのできない内容で相手方の利益を害する条項(不意打ち条項)

については、合意しなかったものとみなされることが規定されました。

要するに、簡単にいうと、約款によることに合意してたり、事前に表示されていたりすれば、約款の内容をちゃんと読んでいなくても契約内容となるが、不当な条項や不意打ちな条項については契約内容とはならないことが、民法により明確にされたということです。

少し安心しましたね。

でも、弁護士としても元テニスコーチとしても、1つだけアドバイスをさせてください。

テニススクールに入る際には、少し面倒ではありますが、

できるだけ会員規約を読むようにしましょう。

どのような契約になっているのか確認することは重要ですし、何より、これから入るテニススクールでのルールがそこには書かれています。

気持ちよくテニススクールでのレッスンを楽しむためにも、ルールを知り、ルールを守ることが何よりも重要ですから。

今回は以上となります。契約書と約款の関係、約款についての民法新設などが勉強になったという方、テニススクールの会員規約が参考になったという方がいましたら、♡やフォローお願いします。

弁護士 柳川 豊

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?