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043 ソフトさきイカ(チーズ味)が好き <転>

(↓前回、前々回からの続きです)

『入院した話』 -3-

7.
 テレビは病室ごとに1つずつしかない。そのため、おじいさんの見たい番組とすり合わせる必要があり、そのときに会話をした。
「ああ、君の見たいものを見ていいよ」とすぐに言ってくれた。見た目通りの優しい人だった。

 おじいさんは、この病室に長らく1人だったらしく、仲間が来て嬉しそうだった。仲間になった証としてか、チーズ味のソフトさきイカをくれた。これがかなり美味かったのを覚えていて、今でも好物である。
おじいさんは小さな声ではあるが、嬉しそうに自分の身の上話を始めたり、僕の生まれなどについていくつか質問をした。同じ入院患者という、心もとない身分を分かち合い、けっこう話は盛り上がった。

 すると、隣の病室がガラーッとものすごい勢いで開き、一人の男が我々の病室に入ってきた。
その男は年の頃60代前半ぐらいで、ツンツンと立った髪型に茶色のサングラスをしていた。まるで晩年の立川談志を思わせるような風貌だった。
「何?新入りなの!?ワッハッハッハッ」などと僕に向けて元気に笑いながら、気弱そうなおじいさんと笑顔で会話をし始めた。

 その笑顔からはバイタリティがにじみ出ていて、とても病人、まして入院患者のようには思えない、と観察していると、あろうことかその右手にはワンカップ大関がにぎられているではないか!!
入院患者にあるまじき、THEダメ人間酒のおでましに面を食らっていると、談志はおじいさんとの談笑を切り上げて部屋に帰っていったのであった…
「入院患者でも酒飲んでいんだ……ダメだよな?」と、酒を飲む以前の年齢の僕は、確信が持てないままモヤモヤした気持ちが立ち上り始めたのを感じていた。

8.
 談志が帰ってほどなくして消灯時間となった。テレビを消して、薄明かりの中、おじいさんとまだ少し話した。
 寝入りばなに、おじいさんが間をあけて寂しそうに呟いた。

 「僕はね…この病院にもう半年も入院しているんだ…………それなのにまだ原因はわからないらしい…本当に大きな病気じゃないか心配になるよ…」
その言葉を聞いて驚いた。半年も原因がわからないなんて…本当に難病の患者ばかり運ばれてくる病院なのかも知れない。おじいさんの表情は暗闇のため見えなかったが、涙を流していたかもしれない。
 そして、僕の1週間の入院期間はまだ軽度なのか、あるいはこれからまだ延びるのか。今日一日何の検査や投薬もなかったため、更に不安になった。

「半年、大変ですね…」と返すのがやっとだった。

すると、次の瞬間おじいさんから予想外の言葉が飛び出した。

 「私の半年なんてまだ良いほうだよ。さっき来た隣の病室の人いるでしょ、あの人は35年この病院に入院しているんだ」

35年!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?え!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!そんなことある!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!??!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?

「35年ってそれで、何の病気なんですか?」と聞くと
「いや、まだ何の病気かわからないらしい」だって
いやいやいやいや!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!この病院ヤバwwwwwwwwwwwwwwww
となり、
「それ騙されてませんか!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」と、消灯時間には似つかわしくない大声を出してしまった。おじいさんは消灯時間という制度を急に利用し、そのまま何も言わずスヤスヤと眠りについた。現実から目を背けて夢の中へ行ってしまった。

 この病院に居てはまずい、決定的にそう思った。その日は(35年……)とリフレインが頭の中で止まずよく眠れなかった。

(続きます)

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やなせ京ノ介
うれしいです。