053 Berryz工房の『なんちゅう恋をやってるぅ YOU KNOW?』の歌詞が好き <下>
(↓前回からの続きです)
4.本論 【なんちゅう恋をやってるぅ YOU KNOW?】の歌詞について
ここから歌詞について引用しながら、つんく♂作詞の凄みについて思うところを書いていく。
http://www.kasi-time.com/item-9548.html
まずは1番Aメロ冒頭の、
一日 何度までは メールって していいのかな? 前髪はどん位 切っていいの?
「つんくの中には女子中学生が住んでいる」でお馴染みの”女子あるある”から始まる。
当時の最先端テクノロジーである”メール”という単語を入れてくるミーハー具合、よく言えば「時代を切り取ろう」「時代ごと曲にパッケージングしよう」「時代と同期しよう」という試みが感じられる。
2018年にも、つんく♂氏がシュークリームロケッツに提供した『夜中、動画ばかり見てる…』という曲があり、今日まで一貫したセンスが伺える。
この曲はダンスにおいても、当時流行していた(もう廃れ始めていたかも)「パラパラ」を振り付けに取り入れており、時代との同期生をどん欲に狙っている感があって、良い意味で時代を感じる。(感じられる)
更に続けて
バスケット あなたは FREE THROW(フリー) みんなが注目している 大声で 叫びます フルネーム
小学校高学年から中学生にありがちな、恋愛に対して探り探りな感じが描かれていて、
「まだ恋愛関係に発展する前だからフルネームを叫ぶ」のか、
あるいは「友達以上恋人未満の関係にはなっていて、普段は下の名前とかで呼んでいるけど、体育の授業だからみんなの前で恥ずかしいのでフルネームを叫ぶ」のか…いずれにしてもそのギクシャクドギマギしている感じがもどかしく瑞々しい!!!
これを30過ぎたつんく♂Pが書いていると思うと本当にスゴイ。
この1番Aメロについて、個人的には「友達以上恋人未満」説を推したい。
2番Aメロの
名前はあだ名で良い?どうしましょ?
の箇所で、付き合ってから公式にこの呼び名問題を解決している、と思えば、歌の進行とともに関係性も発展しているようで、歌詞としてより鮮やかに聞こえる。
続いて、1番のBメロで
世界サイズの
恋にしたいなぁ
クラスメイトに
自慢したいなぁ!
ハロプロの歌詞(特につんく♂作詞)は、すぐに「宇宙」とか「歴史刻んだ地球」とか規模感がやたらと大きくなるのが特徴の一つで、かのマツコ・デラックス氏をして
「アタシは、『アイドルおたく』的要素がまったくないファンだから、例えばAKBのような『報われない男が自己投影するような歌詞』は、分からない。『モー娘。』の『なぜかちょっと日本を背負っている感のある歌詞』のほうがグッとくる」」
と言わしめている。
出典:http://bookstand.webdoku.jp/news/2015/04/15/120000.html
このBメロのラインも、その文脈の一つに数えられるが、特筆すべきは「世界サイズの恋」を「クラスメイトに自慢したい」という大胆なスケール感の対比だ。
これから始まるであろう恋愛についての妄想は、頭の中で世界サイズに膨らんでいる、けれどその一方で小中学生にとっての「世界」は最も身近な「クラス」という単位であり、クラスメイトに自慢できる恋≒世界サイズである、という現実のサイズ感への帰結が、たった一文で表現されているところがスゴイ!!
「世界からクラスへ」をまたにかけた作詞の効果で、この曲の主人公が抱いている恋愛へのときめき・小中学生なりの相手を思う愛情の深さがダイナミックかつ豊かに描かれていると思う。
一旦世界へ羽ばたいておいて、本旨である女子小中学生恋愛あるあるからも離れないように帰ってくる。そんな特殊技法を一つのメロだけで実現している。この緩急が非常に音楽的で面白い。
そして特徴的なサビでは、
なんちゅう恋を
やってるぅ YOU KNOW?
革命を起こすくらい
と「抜群に譜割りにハマっていて、リズムがめちゃくちゃ良く、頭にこびりついて離れないけどイミフ。なのに妙な説得力がある」というつんく作詞の妙技・マジックが炸裂する。
2番のサビが、同じメロディで
しょっちゅう脳に
舞っちゃう躊躇
と歌詞が当てはめられている。
この「しょっちゅう脳に 舞っちゃう躊躇」という語感ははじめて活字で見たとき驚いた…笑
「メロディに対して気持ちよくライミングしていこう」と韻を重視して考える挙げ句、結果として却って文字での意味合いが際立つ、みたいな魔力がある。
だって「しょっちゅう脳に舞っちゃう躊躇」って日本語あります!?!?!?ないでしょ!?!?ないけど、この曲好きになってから日常生活で頭ゴチャゴチャした時に「しょっちゅう脳に舞っちゃう躊躇だなあ…」と感慨深げに思っている自分が居るよ。
ハロプロの中でも1、2を争うぐらいのキラーフレーズだと思うけど、どうだろう。
そして、そんなコズミックなキラーフレーズ「しょっちゅう脳に 舞っちゃう躊躇」のサビの後に間奏が来て、最後のサビに繋がる、ブリッジ的な3回目のBメロで
春夏過ぎて
山燃ゆる秋
凍てつく冬も
愛おしい人
という、ここまでの歌詞に全く似つかわしくない、俳句的表現が入ってくる!!
この意表の突き方に毎度やられる。
急にめちゃくちゃ映像的になって、頭の中にNHKのドキュメンタリーのような美しい自然の映像が想起される。
自分はつんく♂さんの著書もいくつか読んだのだが、その中の作詞について解説する単元で、
松尾芭蕉の「五月雨をあつめて早し最上川」の句を引用し、
「良い俳句は、頭の中で想像した時に情景描写が1枚の写真に収まっている。なので聞き手に映像が伝わりやすくスッと入ってくる。
ポップスの作詞の場合も、情景描写はなるべく1枚の写真に収まっていた方が良い。
あえて複数のシーンを描写する場合は、高度なテクニックが必要になる。例えば1番はこの描写、2番はこの描写と分けたほうがいい」(大意)
と語っていた。
もともとの俳句的表現への関心が伺える。
その哲学から考えると、この曲は1番と2番で、恋愛関係が進展していっているし、舞台は学校や登下校の様子で統一されている。
そして、その舞台設定から突然離れるかのように、この俳句的表現の3番Bメロの歌詞が繰り出される。
豊かな想像力でのあてがきによって、さんざん頭の中に学校生活の画を想起させておくというタメが出来ているからこそ、意表を突かれて、この俳句のような歌詞がより鮮やかに色づいて見える。まさに「高度なテクニック」以外の何物でもないと感動する。
「春夏過ぎて 山燃ゆる秋 凍てつく冬も 愛おしい人」とは、言い換えれば「一年中ずっとあなたのことを思っていますよ」ということなのだが、それをここまで日本的な叙情感を持って表現できるところ、そして繰り返しになるがこの位置に突然放り込んでくるところがつんく作詞のマジックである。
●まとめると
・この曲は歌い手の年齢に合わせて「小中学生のもどかしくも色濃い感情と共にある恋愛」を想像して書いた「あてがきソング」であり、
・「つんくの中には中学生女子が住んでいる」が炸裂した「女子あるある」もあり、
・「当時の最新アイテム・流行を絡めるミーハーさ」もあり、
・「譜割りにバッチリハマったライミング」「韻を重視したことで生まれたマジカルなサビのキラーフレーズ」もあり、
・3番Bメロに配置された「俳句的表現の豊かさ」「映像的な表現の配置の意表の突き方」もあり…
とその作詞技法の幅広さ、そしてつんく♂作詞の面白さがパンパンに詰まっている名曲である!
まだまだ語りたい素晴らしい歌詞はたくさんある。
本論を見ていただいておわかりかと思うが、つんく♂氏の歌詞を理解するためには、自らの心の中にも女子中学生を宿すとスムーズである。
今回この文書を書くにあたって、自分もファッション雑誌をカバンの中に入れて、わざわざ授業中にみんなで回し読みをするような気持ちを宿した。
拙い文章だったが、熱量や素晴らしさを1%でも伝えることが出来ていれば満足である。反響があったら第二回も書きたい。
5.あとがきにかえて『+3曲でわかる超Berryz工房入門』
この曲の歌詞で興味を持っていただいた方がもしいらっしゃれば、超新参ヲタの自分が独断(だけど偏見ではない)で選んだ3曲で、よりBerryz工房・つんく作詞作曲の楽しさを味わっていただきたいと思い簡単に紹介する。
『あなたなしでは生きてゆけない』
https://www.youtube.com/watch?v=XYb4LmR9R1w
Berryz工房のデビュー曲であり代表曲。当時メンバーほとんど小学生!にも関わらずHIPHOPライクな超クールなトラック、このギャップがめちゃくちゃカッコいいし、デビューにこの曲をぶつけて来たのはチャレンジングすぎると思う。
病気をする前のつんく♂さんは、頻繁にコーラスで曲に登場することでも有名で、その頻度が高い曲は「つんく♂うるさい系の曲」とヲタの中では好意をもって1ジャンル化されている。
この曲は「つんく♂うるさい系の曲」の中でも最たるもので、サビを除くほとんどの箇所をつんく♂氏もユニゾンで歌っている。
恐らくこのトラックに対して、小学生の彼女たちの声だけでは曲的に軽くなってしまうと思っての判断かと思う、それが結果としてカッコいいし「お父さんと子どもたち」で歌っているような暖かみ、ストーリーが感じられてまた良い。
(このペースで語ってたらおまけなのに長くなるぞ!?!?)
『恋の呪縛』
https://www.youtube.com/watch?v=Rr9fr5VZgDQ
なんちゅう恋~と同系統の、小中学生の恋愛に対してのあてがきソング。
この曲はまさに「情景を一枚絵で見せる」作詞の技法が素晴らしく、MVの世界観と相まって感動する。
最後のサビの前のCodaが曲の盛り上がりを加速させていてめちゃくちゃクール。
『Be 元気 (成せば成るっ!)』
https://www.youtube.com/watch?v=d5nmDDUglVM
比較的クールな曲ばかり紹介してきたが、個性のバラバラな7人が賑やかにふざけて、結果として一体感を生む不思議な楽しさもBerryz工房の魅力である。
後期に発表されたこの曲は、Berryz工房のバラバラな個性が一つになる楽しさを体現した名曲だと思う。
アメコミのヒーローというよりは、悪役っぽいコスチュームで統一された7人が埠頭を歩いてくる姿、めちゃくちゃ強そうじゃん!!!!こりゃ後輩にコワイって言われるわ!!!!!!!!!!!!!!
よろしければ聞いてみてください。終わりです。
<完>