工匠の歩み ~木工房MEGURO・目黒照枝氏~
「ぬくもり」とひとことで言っても様々なニュアンスがあります。時と場合によって、体感温度の話になったり概念の話になったりする。
今回は、そのどちらも感じられる取材をさせていただきました事務局です。
柳津に越してきてから今日、「木工房MEGURO」のお名前を聞くと、この商品が強く思い出されます。マウスパッドや積み木、その他の商品も可愛いのに必ずこの子と目を合わせてしまう。
こちらの商品、赤ちゃんをあやすときに使う「がらがら」です。正式名称は「ラトル」と言うんだそう。名前まで可愛いんですね。知らなかった。
この何とも言えない微笑み…アルカイックスマイル?ちょっと違うか。
とはいえ「幸福感と生命感の象徴」と言われれば通ずる何かがあるような気がします。
この商品の生みの親がこちらの方。
木工房MEGURO代表・目黒照枝(めぐろ てるえ)さんです。
福島の大学を卒業後、岐阜・飛騨高山での職人塾を経て柳津町へUターン。その後、柳津町内に工房を構え、木工製品の制作を中心に木育活動や木工体験イベントの運営など幅広く手掛けています。月に一度、柳津町に様々なハンドメイド作家やクリエイターが集う「やないづ手づくり市」の主催者でもあり、50歳以下のパワフルな世代で結成された町公認の団体「ミライツナガル会議」のメンバーでもあります。
若者の都会進出に伴い柳津も超高齢化が進んでいく中で、地域を元気にしていこう!と活動している目黒さんに、幸運にもお話を聞くことが出来ました。
interview
生まれは柳津町のお隣「三島町」という目黒さん。進学時からUターンを検討されていたそうですが、木工製品の制作を行うことを決めたきっかけには、どのようなことがあったのでしょうか?
小さい時から絵を描くこと、工作が大好きでした。
高校時代は美術工芸部に所属して、版画や油絵などで創作活動をしていました。進学も一時は美大を検討しましたが、才能ある友人と比較して自分のセンスが光らないと思って諦めました。そんな中、敬愛していた国語教師が受験対策で「朝日新聞を読め」と言っていたので、面白く読んでいたんです。
そこには社会の問題が幅広く提起されていて、そこで「Think globally,act locally」(訳:地球規模で考え、足元から行動せよ)の考えに出会いました。
次第に自分の故郷の社会問題の解決の一助になる人物になりたいと思ったことから、福島大学の行政社会学部に進学しました。
大学時代は大手スーパーでアルバイト生活をしながら社員の方々と交流を持っていたのですが、企業へ就職することに疑問を抱き、山林の仕事に注目しました。
そして、大学生協で岩波新書の「森の自然学校」に出会い、著者の稲本正氏が塾長の「森林たくみ塾」の存在を知り、岐阜県飛騨高山市にあるたくみ塾を受験し入塾しました。
そこでは親会社の木製品を下請けし、木工の勉強をする現代的徒弟制度というシステムで、2年間修業する学校でした。たくみ塾は木工職人の道と環境インストラクターの道の2つの選択肢があり、私は経済活動に結びつけやすい木工職人の道を選びました。
商品コンセプトについて(全商品に共通しているコンセプト、あるいは木工房MEGUROの品といえばコレ!という商品について)教えてください。
量産品との違いを出すために、手加工にこだわっています。
曲線を多用し、丸みのあるデザインが特徴です。自然界に存在する生物などをモチーフにしていて、例えば、マウスパッドは豆の形だったりする。私はそのシルエットを「有機的ライン」と呼んでいます。
「木工」と聞くと学生の頃の図画工作の時間を思い出しがちですが、実は木造建築や曲げわっぱなど日常生活の中で多く触れているものでもあります(岐阜県の飛騨家具や秋田県の大舘曲げわっぱなど)。
日本全国の木材の中から、なぜ「会津桐」を選んだのか教えてください。
たくみ塾の修行時代は主に楢(ナラ)やブナといった堅木の広葉樹でした。
しかし奥会津は桐の産地だったので、一番手に入り易いのが桐だったんです。
実際に桐を扱ってみると素晴らしい地場産品だという事が分かり、今はとても誇りに思っています。
木工房MEGUROの商品を手にした人にとって、商品がどんな存在であってほしいと思いますか?
「生活の中で潤いをもたらす存在」であってほしいです。
実際に桐に触るとほっと癒されるんです。ぜひ多くの方に触れてほしい素材ですね。
生産にあたって苦労した/していることはありますか?
事業としてもう少し余裕のある運営ができたらと思います。
月に1度、町で開催されるハンドメイドマーケット「やないづ手づくり市」の主催者でもある目黒さん。改めて、開催に至った経緯を教えてください。
2016年4月に現工房で「木ままカフェ」という木育イベントを開催したのが始まりです。
その年の秋に第2回木ままカフェを「道の駅会津柳津」の芝生広場で開催しました。イベントでは子供たちを木のおもちゃで遊ばせ、ママたちは周辺のマルシェで楽しむというコンセプトだったんです。
しかしながら、木育コーナーはスタッフやおもちゃの管理に費用が掛かってしまっていました。そこで思い切ってコストを割愛し、マルシェだけ残したのがやないづ手づくり市です。2017年~2019年まで春と秋の年2回、道の駅の芝生広場で行い、第6回まで回を重ねていました。
2020年にコロナ禍に入ってしまったので一年間お休みして、2021年4月から現在のスタイルになっています。今では月一回の開催ですが、2021年からの1年間は月2回の開催を続けました。
コロナで密を避けるため、集客を工夫し、小さい規模で回数を多くすることでお客様を安全にお迎えできると考えての設定です。
そしてこの春(2023年4月)、今のスタイルになってから2周年を迎えました。
「やないづ手づくり市」には毎月様々なメンバーが集いますが、ハンドメイドファンだけでなく、柳津町在住のクリエイターを中心に、金山町や三島町などの若いクリエイターが集う場にもなっています。奥会津という単位で開催されているイベントですが、今後、「手づくり市」がこんな風になっていったらいいな、というイメージはありますか?
コロナでイベントが少なかった時は、まんべんなくお客様に来ていただければと思っていましたが、マルシェイベントが多く立ち上がっている今日では差別化を図るために個性を出していこうと思っています。
一つはこれまでもそうでしたが、私がいいと思う作家さんの紹介の場であること。心からお勧めできる作家さんのみをご紹介していきます。
そして、文化的なマルシェを目指すこと。今後はアートやワークショップを1コーナーとして出店してもらう方向です。以前もわら細工の1輪挿しワークショップがあったのですが、大変好評でした。
柳津に居ながら、文化的な活動に触れられる場の提供を思い描いています。
「Think globally,act locally」という言葉との邂逅が、目黒さんご自身の生き方に大きく影響したというお話がありました。【柳津町】というミニマムな単位ではなく、さらに視点を広げた【奥会津】という単位で活動していく中で、改めて感じたことなどがあれば教えてください。
木工を始めた経緯でも触れていますが、社会問題の解決には地球規模の視点で足元から行動するという地道な活動の集積しかないと思っています。
自分・家族・地域の人々と私、見える範囲の人たちに笑顔がある生活がきっと世界平和や、人類と自然との共生につながると信じているので、自分自身・家族・柳津町・奥会津・福島県・日本・世界、すべてがつながっていることを意識しながらこれからも活動していきたいです。
新年度になって3ヵ月が過ぎました。新しいステージで頑張っている皆さんへ、メッセージをお願いします。
答えは机の上にはありません。行動を伴う活動にぜひ挑戦してください!
事務局の面々もたびたびお世話になっている目黒さん。彼女の前進力と明るい笑顔に、日々助けていただいています。
目黒さん、ありがとうございました!
-作家PROFILE-
目黒照枝(めぐろてるえ)
福島県・三島町出身。福島の大学を卒業後、岐阜・飛騨高山へ転身。職人養成塾「森林たくみ塾」を経て、 福島県・柳津町へUターン。町内に工房を構え、木工品の制作・販売を中心に木育活動を展開。会津柳津駅での物品販売やハンドメイド活動を精力的に行う。町内で毎月開催される「やないづ手づくり市」主催者であり、柳津町内在住の50歳以下のメンバーで結成されている町公認団体「ミライツナガル会議」のメンバー。
▶公式HP:https://mokkouboumeguro.com/
▶オンラインショップ:https://mokkouboumeguro.stores.jp/
▶instagram(ショップ):https://www.instagram.com/mokkouboumeguro/▶instagram(個人):https://www.instagram.com/teruemeguro/
※各商品は、オンラインショップのほか「やないづ手づくり市」「道の駅会津柳津」「柳津観光案内所」にて購入可能。
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