「@SHARP_JPさん」を読んでいる
シャープ(@SHARP_JP)さんを読んでいる。思い出したように、あるいは明確な目的を持って、シャープさんの紡ぐ文章を読むことがある。
企業インフルエンサーとかいう大それた立ち位置ではないが、組織に属していながら自社のあれやこれやをSNSでPRするという点において、シャープさんの立ち位置とは多少なりとも共通項がある。
何を言ってもバズるみたいなのを目標にしている場合も、ウィットに富んだ筆致でPRする方法を習得したいというのを目標にしている場合も、SNSマーケティングを業にしていく道程においてシャープさんの名を見かけないことはない。
クソデカ目標未達成の末に辿り着いた場所
約1年前、観光協会に採用してもらえるかどうかの時期。協会の業務に携わる要件として「SNS発信に従事すること」という項目があった。
今だから言えることだが、写真も文章もまるっきり感覚だけで使ってきた自分には論理的にそれらを活用していくノウハウなど無いに等しかった。しかし、特にSNSに対する抵抗はないというふんわりした根拠だけで「やれます」と言い切り、それ以降、観光協会の公式SNSアカウントの運用を任せてもらっている。
初めのころは「フォロワー何千人!」とか「ひとつでもバズらせる!」という、真っ当なように見えて甚だしく見当違いなクソデカ目標(かっこよく言うと「KGI」)を掲げ、なかなか達成しない日々に悶々としていた。
上手くいかないのはそりゃそうで、例えば、よく知らない人によく分からないものを「これイイから買いなよ!」とか突然言われても怪しさしか感じない。まして何があるのかもよく分からない土地に「泊まりに来い」なんて言われても、下手をすれば大切なお金や時間をドブに捨てかねないのだからなおさら近づきにくい。
ということで、まずは「知ってもらう」「覚えておいてもらう」を目標に動くことにした。SNSは情報が爆速で伝わっていく半面、アカウントを育てるのには時間を要する、と結論付けてのことだ。
よく「アカウント開設3ヵ月でフォロワー○万人達成!」的な謳い文句を見るが、すごいセンスがあるか、鬼のように勉強してべらぼうに有益な情報を発信しているか、フォロワーを買ったかのいずれかだと思っている。
莫大なフォロワーを抱える発信者のほとんどは2番目の「鬼勉べらぼう有益発信」に属していると性善説的に捉えているので、発信者からノウハウを勉強させてもらおうとしたこともあった。
しかし最悪なことに、自分は人の話を聞いてもメモを取っても時間が経つと全く理解できなくなるという最悪のタチなので、お金も時間も講師にも申し訳ないことになると思い断念した。
どうしたもんかと悩んだ末、たどり着いたのが「シャープさん」のTwitterアカウントだった。
かしこまったセールスをやめる
「知ってもらう」を念頭に動くことを決めたはいいが、何を発信すればいいのかが分からない。特化した商品でもあればセールポイントを絞って更新していけるが、前述のとおり、所属している業界は「観光」だ。「観光」「地域活性」などという大きな枠組みの中から何をピックアップすればいいのか見当がつかなかった。
特産品を紹介するにしても、企業努力の表面だけを浚って紹介しても仕方がない。コピペのような投稿をしても仕方がないし、かといってひとりごとのような投稿をしたところで「お前は誰だ?」になるだけだ。
仕事の合間にシャープさんのツイートを覗いたり、「コミチ」というメディアに寄稿している寸評連載を読んだりしているが、ふと気づくとシャープさんから発せられる文章を浴びたくてたまらなくなっていることに気づく。
気づいていたけど上手く言葉にできなかった感情や感覚を、シャープさんは上手く表面化してくれているからだ。
SNSの文面作成に詰まったとき、何をどうPRするか迷ったとき、話題が何も思いつかないとき、あらゆる壁に直面すると大体シャープさんのツイートや寸評連載を読む。
指南書のようであり、ガイドラインのようであり、あるいは発信の立場にありながらひたすら読者に徹せるコンテンツとして楽しめる。シャープさんを読むことは、発信する側に立ち過ぎたがゆえに付いてしまった色眼鏡を抵抗なく外すことと似ている。
観光案内はいわずもがなアテンド業務であるため、その延長線上で何となくかしこまった文章やカッチリした文章を用いた「イイ子の発信」になる。
トンマナは「~です、ます」にし、できるだけ砕けた表現は使わず、怒られない程度の日本語で発信していくことが信頼感に繋がると考えていた。実生活でも誤字や誤用を見かけると「この企業は大丈夫か?」と思ってしまうことが多かったので、それが見当違いな手法ではないと思っていた。
しかし「シャープさん」のアカウントに出会い、SNSはそうでもないのかしれないと思い始めた。かのアカウントでは誤字・誤用を全く見ないものの、公的な文書のようなかっちりとした文章(そう受け取れる印象のもの)は見受けられない。どちらかというと肩書きを取っ払って、居酒屋の隣の席で駄弁っているような距離感だ。
なのに、寸鉄人を刺すような短文から、3回くらい読んでやっと意味が理解できる文章まで、目を凝らしてみてみれば様々な様態の文章が連ねられている。
そこには張り付けられた笑顔もなければ、押しつけのようなセールスもない。淡々かつさり気なく、振り返ればそこに落ちているような身近なエピソードを交えながら「こんなのが出るよ」「こういうのがあるよ」と発信している。
そう気づいてみれば、確かにSNSはフォーマルな服装で眺めるものではなく、てろんてろんのスウェット姿でぼーっと見るものだということに思い至った。リラックスしている時間の中で、仕事を彷彿とさせる文面はあまり見たいものではない。
読まなくても影響がない内容を続けること
これが分かったとき、少しは自分もシャープさんのようにキレキレの発信が出来るのかもしれない、と文体やテンションを真似た。しかし、自分はシャープさんに魅了されているのであってシャープさんになりたいわけではない。
シャープさんが取り扱っているのは「家電」であり、日常生活に無くてはならないものばかりである一方で、観光は悪く言えば「行っても行かなくても生活に差し支えないもの」だ。
家電のように必要に迫られて購入するものとは違い、観光は必要に迫られることはほぼない。観光資源や土地に興味があって、かつ気持ちと体力と金銭に余裕が出て初めて行動に結びつく。柳津は「観光地」と銘打ってはいるが、「温泉地」とも言えるし「休憩地」とも言えるので、柳津に来る目的をほぼすべて旅行客に委ねている。
暴挙のようにも思えるが、SNSではイベント情報や店舗リニューアル情報を除いて、急を要さない情報を流すことにした。道の駅の赤べこがおめかししているだとか、雨だけど景色は良い感じですとか、「読んでも読まなくてもさほど影響のないもの」を出来るだけフラットに発信する方に切り替えた。
柳津は都会的な要素をほぼ擁していない。スタイリッシュな店構えの店舗もなければ、写真に撮りたくなるようなグルメがあるわけでもない。無理に「来てください」とPRしたところで、じゃあ行ってやるかと実際に来てくれた人が「ああ、こういう感じね」と笑ってくれるのが関の山だと思う。
「田舎は人とのつながりが何よりも大事だから」という空気に呑まれて、あれもこれもヨイショ状態でPRすることは誰のためにもならない。SNSで綺麗に飾って紹介したところで、リアルがイメージを超えられない限りは満足も何もあったものではない。SNS発信を担当し、不特定多数の人々へ石を投げる者にバイアスや媚びは1mmも必要ない。
もっとSNSの発信を頑張れ、と多方面から文句を言われる皆さん。実際に口に出すとトラブルになりますが「もっと魅せる努力をしてから言え」と心で思ってもいいのです。
本当に人が訪れたくなる何かを持っているのか、それを磨き上げる努力をしているのか洗い出してみて、SNSの力に頼り切ろうとしているようであればブラッシュアップを提案してください。
SNSは補助的な立場のものであり、必ずしも先導的なものになるわけではないので。
シャープさんの発信から勝手に得た教訓
ネットで言う事ではないけれど「実際に自分の目で見て、手で触れ」と常々思っている。
InstagramやTwitterを筆頭に、あらゆるSNSで日本ひいては世界の情報を得られるようになった。概念レベルだったものが想像レベルにまで解像度を上げ、追体験が実体験であるかのように感じられるコンテンツが多くなっている。
小さな観光地のPR、もとい、福島県的に表現するなら「来て。」と訴え続けているわけだが、写真や文章にも限度がある。彩度をどれだけ上げたって肉眼で見る色彩には適わないし、表現を凝らしたところで匂いや温度は伝えきれない。言い訳と言われてもいい。それが事実だから仕方がない。
旅行や観光はどうしても「消費 >生産」になる。だからせめて価値ある時間を過ごしたい。美味しいグルメや可愛いスイーツがあったり、これは楽しいぞと心の底から確信できるアクティビティを体験したり、あわよくばそれをSNSに掲載して多くの人と感動を分かち合いたいと思う。
ほんのちょっとでいいから自慢したい気持ちもあれば、「消費するだけ」の自分に嫌気が差さないようにするという意識もあるはずだ。煌びやかな場所、こてこてに飾られた可愛いスイーツ、お洒落なカップに入ったドリンク。価値ある時間を過ごしていることの証明を残し、日々センスを磨いている自分を認められたい。
遠くに行って、時間とお金と労力を払ってまで「微妙だったね」なんて思いたくないし、「楽しくなかった」なんてもっと思いたくない。たくさんの写真や文章から可能な限りリアルに近いイメージを作って、行くか行かないかを決定していきたい。
だから我々のようなSNS担当は、可能な限り見せられる写真や文章で情報を提供していきます。鮮明なイメージを持ってもらうとともに「自分ならもっと素敵な写真や記録を残せるのでは?」という皆様ご自身のポテンシャルにも気づいてもらえるように、余計なお世話ながら拙い発信を続けていきます。
消費だけにとどまらず、ほんの少しの「生産」の一助となれるようなコンテンツをお届けします。
東京や仙台、そのほか各方面の都会から「絶対に柳津へ遊びに来てくださいね」なんて無理難題を押し付けるつもりはありません。郡山から会津若松に来るだけでもかなりの大移動で疲労も蓄積しているのに、さらに遠くまで移動せよなんて暴論もいい所です。
でも、来てくれたら嬉しいです。すごく嬉しいです。
何度も言いますが、無理に来てくれとは言いません。
会津若松で城下町の空気やレトロな町並みを楽しんで、どこかのお店で赤べこ張子を見たとき、せめて福島県・奥会津に「赤べこ伝説が生まれた柳津」という田舎町があって、なんかあそこも頑張っているらしいよ、とだけ知っておいてもらえたら。
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